はじめに
本稿では、現在のテクノロジー業界、特に「ビッグテック」と呼ばれる巨大IT企業群が直面している状況について解説します。具体的には、人工知能(AI) の急速な発展が一部企業の成長を力強く後押しする一方で、世界的な貿易摩擦(特に関税) が他の企業の足を引っ張るという、二極化が進んでいる現状を、ロイター通信の記事を元に読み解いていきます。
引用元記事
- タイトル: Big Tech’s fortunes diverge as AI powers cloud, tariffs hit consumer electronics
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2025年5月1日
- URL: https://www.reuters.com/business/retail-consumer/big-techs-fortunes-diverge-ai-powers-cloud-tariffs-hit-consumer-electronics-2025-05-01/
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要点
- 現在、巨大IT企業(ビッグテック)の間で業績の明暗が分かれています。その主な要因は二つあります。
- 一つは AI(人工知能) で、AI技術への巨額投資がマイクロソフトやアルファベット(Googleの親会社)のクラウド事業やデジタル広告事業の成長を加速させています。
- もう一つは、米国の関税政策に端を発する世界的な貿易摩擦であり、これが特にスマートフォンやPCなどの消費者向け電子機器事業に打撃を与え、アップルやアマゾン(のEコマース部門)、さらには半導体メーカー(クアルコム、サムスン、インテル)の業績見通しに影を落としています。
- つまり、AIという追い風を受ける企業と、関税という向かい風に苦しむ企業とで、状況が大きく異なっているのです。
詳細解説
AIが牽引するクラウドと広告の成長
記事によると、マイクロソフトとアルファベットは、AIへの大規模な投資が実を結び始めています。マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Azure」の収益は、AI関連の需要増により前年比33%増と力強い成長を見せました。特に、Azureの成長に対するAIの貢献度は、前の四半期の13%から当四半期には16%へと増加しており、AIが同社のクラウド事業の重要な推進力となっていることが分かります。
同様に、アルファベット(Google)も、AIを検索エンジンに統合することで広告主にとっての魅力を高め、主力の広告売上が8.5%増加しました。Facebookの親会社であるメタも、広告売上が好調で市場予想を上回りました。
なお、「クラウドコンピューティング」とは、インターネット経由でサーバー、ストレージ、データベース、ソフトウェアなどのコンピューティングリソースを利用するサービスのことです。企業は自社で高価な設備を持つ代わりに、必要な分だけリソースを借りて利用できます。AIの開発や運用には膨大な計算能力が必要となるため、クラウドサービスの需要が急増しています。また、「デジタル広告」は、AIを活用することで、ユーザーの興味関心に合わせてより的確な広告を表示できるようになり、広告効果が高まるため、広告主からの投資が増えています。
関税と消費低迷が打撃を与える消費者向けビジネス
一方で、消費者向けの製品を主力とする企業は厳しい状況にあります。特に、米国の関税政策による経済の不確実性が高まっていることが背景にあります。
スマートフォンやPC、そしてそれらに使われる半導体の需要が、消費者の支出抑制によって鈍化しています。半導体メーカーのクアルコム、サムスン電子、インテルは、貿易摩擦による経済の不確実性がビジネスに悪影響を与えていると警告しています。クアルコムの第3四半期の収益予測は市場予想を下回り、これは特に関税の影響を反映していると見られます。
この状況は、製品の90%を中国で生産し、売上の約半分をiPhoneが占めるアップルにとって、特に懸念材料です。関税が課された場合、生産拠点の移転(インドなど)やコスト削減で対応しようとしていますが、価格転嫁は市場シェアの低下を招き、利益を圧迫する可能性があります。
アマゾンも、そのEコマース(ネット通販)事業において影響を受ける可能性があります。中国から商品を仕入れている多くの販売業者が、利益率を守るために関税の影響を懸念し、大規模なセールイベントへの参加を見送る動きも報じられています。ただし、アマゾンの利益の大部分を占めるクラウド事業(AWS)は、マイクロソフトやGoogleと同様に堅調を維持すると予想されています。
AIインフラへの巨額投資と供給制約
AIの需要は旺盛ですが、それに応えるためのインフラ(データセンターなど)整備も課題となっています。マイクロソフトは今年度、AIインフラに800億ドル(約12兆円 ※現在のレートで換算)もの巨額を投じる計画ですが、それでもなお供給が需要に追いついていない(供給制約がある)状況だと警告しています。これはアルファベットも同様で、AIの能力を最大限に引き出すには、まだインフラ投資が必要であることを示唆しています。
日本への影響と考慮すべきこと
本稿で取り上げたビッグテックの動向は、対岸の火事ではありません。日本企業や私たちの生活にも様々な影響が考えられます。
- 消費者への影響: 関税の影響でiPhoneなどの輸入電子機器の価格が上昇する可能性があります。また、世界的な半導体需要の変動は、日本国内の自動車産業や電機メーカーの生産にも影響を与えかねません。
- 企業への影響: 日本の多くの企業が、マイクロソフト(Azure, Microsoft 365)やアマゾン(AWS)、Google(Google Cloud, Google Workspace)などのクラウドサービスやAI技術を利用しています。これらのサービスの価格設定や機能強化は、日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)や競争力に直結します。また、日本の部品メーカーや素材メーカーは、アップルやサムスンなどのグローバル企業のサプライチェーンに組み込まれているため、これらの企業の業績変動から間接的な影響を受ける可能性があります。
- AI活用の加速: マイクロソフトやGoogleなどがAI機能の強化を進めることで、日本国内でもAIを活用した新しいサービスや業務効率化の動きがさらに加速するでしょう。企業は、これらの技術をいかに自社のビジネスに取り込み、価値を創出していくかが問われます。
- 経済安全保障の観点: 半導体供給や貿易摩擦の問題は、経済安全保障の観点からも重要です。特定の国への依存リスクをどう管理し、国内の技術基盤を強化していくか、政府・企業双方にとって重要な課題となります。
まとめ
本稿では、ロイター通信の記事を元に、現在のビッグテックがAIという強力な追い風と、関税という厳しい向かい風の中で、業績の二極化が進んでいる状況を解説しました。マイクロソフトやアルファベットのように、AIへの先行投資によってクラウドや広告事業を伸ばす企業がある一方、アップルや半導体メーカーのように、消費者向けビジネスが貿易摩擦や経済の不確実性の影響を受けやすい企業もあります。
AIインフラへの巨額投資が進む中でも供給制約が見られる点は、AI需要の力強さを示しています。これらの動向は、製品価格、企業の競争力、そしてAI技術の社会実装といった面で、日本にも大きな影響を与えます。私たち一人ひとりも、こうした世界のテクノロジー動向に関心を持ち、その意味するところを理解しておくことが、今後の変化に対応していく上で重要になるでしょう。
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