はじめに
英国の半導体設計企業Arm Holdingsが2026年1月7日、ロボティクス分野に特化した「Physical AI」部門の新設を発表しました。Reutersが同日に報じたこの組織再編により、Armは自動車とロボティクスを統合した新事業部門を立ち上げ、今後の成長市場として注目されるロボット産業への本格参入を目指します。本稿では、この発表内容をもとに、Armの戦略とロボティクス市場の動向について解説します。
参考記事
- タイトル: Exclusive: Arm launches ‘Physical AI’ unit, joining rush to robotics by tech and automakers
- 著者: Max A. Cherney、Abhirup Roy
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2026年1月8日
- URL: https://www.reuters.com/business/autos-transportation/arm-launches-physical-ai-division-expand-robotics-market-2026-01-07/
要点
- Arm Holdingsは組織を3つの主要事業部門に再編し、その1つとして「Physical AI」部門を新設した
- Physical AI部門はロボティクスと自動車分野を統合し、両分野で求められる電力制約、安全性、信頼性への要件が類似していることが統合の理由である
- Armは自社でチップを製造せず、スマートフォンの大半やノートPC、データセンターチップなどに採用される基盤技術を提供するライセンスモデルで収益を得ている
- CES 2026ではロボティクスが主要テーマとなり、ヒューマノイドロボットを展示する企業が多数見られた
- Boston Dynamicsやテスラなどがロボット開発を進めており、MobileyeがロボティクスベンチャーMenteeを9億ドルで買収するなど業界全体で投資が活発化している
詳細解説
Armの組織再編とPhysical AI部門の位置づけ
Reutersによれば、Armは今回の再編により、「Cloud and AI」「Edge」「Physical AI」の3つの主要事業部門を設立しました。Cloud and AI部門はクラウドとAI関連、Edge部門はモバイルデバイスやPC製品を担当し、Physical AI部門は自動車事業とロボティクス事業を統合したものとなります。
Physical AI部門の責任者であるDrew Henry氏は、Physical AIソリューションが「労働力を根本的に強化し、余剰時間を生み出す」可能性があり、その結果、国内総生産(GDP)に大きな影響を与える可能性があると述べています。また、Armのチーフ・マーケティング・オフィサーであるAmi Badani氏は、同部門がロボティクス専任のスタッフを増員する計画であることを明らかにしました。
自動車とロボティクスを1つの部門に統合した理由として、Badani氏は両分野における顧客要件の類似性を挙げています。電力制約、安全性、信頼性といった要件は、自動運転車でもヒューマノイドロボットでも共通して求められるものです。実際、複数の自動車メーカーがヒューマノイドロボット開発にも参入している状況を考えると、この統合は戦略的に理にかなっていると考えられます。
Armのビジネスモデルとロボティクス参入の意義
Armは自社でチップを製造するのではなく、世界のスマートフォンの大半やその他のデバイスを動かす基盤技術を供給しています。同社はライセンス料を請求し、その設計が使用される際にロイヤリティを徴収することで収益を得るビジネスモデルを採用しています。
Rene Haas CEOが約4年前に就任して以来、Armは最新技術の価格を引き上げる手法を開発し、独自のフルチップ設計も検討してきました。今回のPhysical AI部門の設立は、こうした事業拡大の取り組みの一環と位置づけられます。
ロボティクス市場は長期的に見て大きな成長ポテンシャルを持つ分野とされています。Armの技術は、世界中の数多くの自動車メーカーや、現代自動車傘下のBoston Dynamicsなどのロボティクス企業に採用されており、既に一定の実績基盤があります。このため、Physical AI部門の設立により、既存の顧客基盤を活用しながら新市場への展開が可能になると考えられます。
CES 2026に見るロボティクス市場の盛り上がり
Reutersの報道によれば、今年のCES(Consumer Electronics Show)では、ロボティクスが大きなテーマとなりました。ラスベガスの広大な会議場では、大小さまざまな企業がヒューマノイドロボットを展示し、自動車製造の補助、トイレ清掃、ポーカーのディーリング(ただし非常にゆっくりとしたペース)といった作業を実演していました。
技術および自動車業界の企業は、人間の形をした機械をAIと自動化の次のフロンティアと見なしており、ヒューマノイドロボットへの関心が急速に高まっています。テスラのCEOイーロン・マスク氏は、同社のヒューマノイドロボットプロジェクト「Optimus」を同社の将来にとって重要と位置づけており、最終的にはロボットが車両事業を上回り、人間が行いたくない幅広いタスクを実行することで膨大な経済価値を生み出す可能性があるとしています。
CES会場では、多くのロボットが何らかの形で人工知能を搭載しており、これがさらに能力を向上させていると報告されています。PwCの米国自動車業界リーダーであるC.J. Finn氏は、「実際の支出と本当に前進しているのは、機械とAIのレベルを組み合わせて精度を高め、生産性を向上させ、あるいは生産方法を変える場合」だと述べています。これは、単なる機械的なロボットではなく、AIによる高度な判断能力を持つロボットこそが市場価値を持つという認識を示していると言えます。
主要プレイヤーの動向
Reutersによれば、Boston DynamicsのCEOであるRobert Playter氏は、現時点でヒューマノイドロボットに関して「多少のハイプサイクル(過度な期待)がある」と指摘しつつも、同社は既に「数千台の四足歩行ロボットを市場に投入し、実際に収益を上げている」と述べています。Boston Dynamicsと現代自動車は、生産準備が整ったAtlasヒューマノイドロボットを公開し、韓国の自動車メーカーが2028年までに米国工場への配備を開始すると発表しました。
自動運転技術企業のMobileye(Intelが一部所有)は、ロボティクス企業Menteeを9億ドルで買収する計画を発表しました。また、AIのリーダー企業であるNvidiaは、次世代の自動運転車を動かすことを目指した「Alpamayo」と呼ばれるツールおよびその他のPhysical AI製品を発表しています。
これらの動きは、ロボティクスが単なる研究開発の段階を超え、実用化と商業化の段階に入りつつあることを示していると考えられます。半導体設計からAIチップ、自動運転技術まで、多様な技術領域の企業がロボティクス市場に参入している現状は、この分野が今後数年間で大きく成長する可能性を示唆しています。
まとめ
Armの「Physical AI」部門新設は、ロボティクスと自動車という2つの成長分野を統合し、共通する技術要件に対応する戦略的な組織再編と言えます。CES 2026でのロボティクスの盛り上がりや、テスラ、Boston Dynamics、Mobileye、Nvidiaといった主要企業の動きを見ると、Physical AI市場は今後さらに注目を集めると思います。日本企業にとっても、この分野での技術開発や協業の機会を検討する価値があるのではないでしょうか。
