[ニュース解説]AppleのAI責任者が突然の交代──Microsoft・Google出身者が新体制を率いる

目次

はじめに

 Apple(アップル)が2025年12月2日、AI部門のトップであるJohn Giannandrea(ジョン・ジャナンドレア)氏の退任と、後任にMicrosoftとGoogleで経験を積んだAmar Subramanya(アマール・スブラマニヤ)氏を迎えることを発表しました。本稿では、NBCニュースとCNBCの報道をもとに、この人事の背景とAppleが直面するAI競争の現状について解説します。

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要点

  • AppleのAI責任者John Giannandrea氏が2026年春に引退し、Microsoft・Google出身のAmar Subramanya氏が後任となる
  • Giannandrea氏は2018年から同職を務め、CEO直属のシニアバイスプレジデントだったが、Subramanya氏はソフトウェア責任者Craig Federighi氏への報告となり、組織構造が変更される
  • AppleはAI分野で競合他社に後れを取っており、改良版Siriのリリースが2026年まで遅延するなど開発に課題を抱えている
  • Apple株は2025年に13%上昇したものの、Nvidia(34%)、Google親会社Alphabet(65%)などAIに積極投資する企業には及ばない
  • AppleはOpenAIのChatGPT統合に加え、GoogleのGemini、Perplexity、Anthropicとの提携交渉を進めている

詳細解説

突然の人事交代とレポートラインの変更

 NBCニュースによれば、Giannandrea氏は2018年からAppleでAI・機械学習戦略を統括し、Tim Cook CEOに直属する体制でした。一方、後任のSubramanya氏は、ソフトウェア責任者のCraig Federighi氏への報告となります。この変更について、Cook氏は「Craigは既にAppleのAI取り組みで重要な役割を果たしており、より個人化されたSiriを来年ユーザーに届ける作業を監督してきた」と説明しています。

 慎重な後継者計画で知られるAppleにおいて、このような組織変更は異例と言えます。CNBCは、これを「Apple Intelligenceスイート発表以来、最も目に見える組織再編」と評しており、AI開発体制の抜本的見直しを示唆していると考えられます。

新責任者の経歴と役割

 CNBCによれば、Subramanya氏はLinkedInのプロフィールによると、直近ではMicrosoftでコーポレートバイスプレジデントを務め、それ以前はGoogle DeepMind AI部門に10年以上在籍していました。新体制では、Appleの基礎モデル開発、AI研究、AI安全性に関するチームを率いることになります。

 また、Giannandrea氏が統括していた他のチームは、COOのSabih Khan氏とサービス責任者のEddy Cue氏の下に移管されるとのことです。この再編により、AI機能がAppleの各事業部門により密接に統合される体制になると思います。

Apple IntelligenceとSiri改良の遅延

 AppleのAI戦略の中核となる「Apple Intelligence」について、CNBCは「ユーザーや評論家から良い評価を得ていない」と報じています。特に重要な要素である大幅に改良されたSiriアシスタントは、当初の計画から遅れ、2026年まで延期されました。

 NBCニュースによれば、Appleは今年初め、AI機能を搭載したSiriのアップグレード版リリースを遅らせ、「当初考えていたよりも時間がかかる」と表明していました。Cook氏は10月の決算発表で「良い進捗を見せており、来年のリリースを予定している」と述べています。Bloombergの報道では、Appleは2026年春のリリースを目標としているとのことです。

 この遅延は、OpenAIのChatGPT発表(2022年)以降、急速に進化するAI分野において、Appleが開発面で課題を抱えていることを示していると考えられます。

他社との提携戦略

 AppleのiOSとmacOSは既にChatGPTと統合されていますが、NBCニュースによれば、その機能はやや限定的とされています。報道では、Appleは最近、GoogleのGemini、Perplexity、AnthropicのAIモデルとの統合に向けた交渉を進めているとのことです。

 この多様な提携戦略は、Appleが自社開発だけでなく、外部の先進的なAI技術を積極的に取り入れる方針を示していると思います。競合他社の強みを活用しながら、Apple独自のエコシステムに統合する戦略と言えます。

AI投資と株価への影響

 NBCニュースによれば、Apple株は2025年に13%のリターンを記録し、AmazonとMicrosoftを上回りました。しかし、AI分野への積極投資を行う企業との比較では、Oracle(20%)、Nvidia(34%)、Alphabet(65%)に後れを取っています。それでも、Appleは時価総額4.2兆ドルで、Nvidiaに次ぐ世界第2位の上場企業の地位を維持しています。

 CNBCは、Appleが8月に「AI投資を大幅に増やしている」と発表したものの、Microsoft、Google、Metaとは「異なるゲームをしている」と指摘しています。これらの企業がAIデータセンター、チップ、最先端モデルに数十億ドルを投資している一方、Appleのインフラ投資ははるかに少額です。

 その理由として、Appleがクラウドの強力なコンピュータと通信するのではなく、デバイス上でAIを実行することを優先していることが挙げられます。この「オンデバイスAI」戦略は、プライバシー保護とユーザー体験の観点で優位性がある一方、最先端のAI性能では制約となる可能性があると考えられます。

ハードウェア競争の新たな展開

 CNBCは、Appleにとってもう一つの懸念材料として、伝説的なハードウェアデザイナーJony Ive(ジョニー・アイブ)氏の動向を報じています。iPhone開発に携わったIve氏は、自身のスタートアップをOpenAIに64億ドルで売却し、AI研究所が独自のハードウェアをリリースする支援をしています。

 Ive氏とOpenAIのCEO Sam Altman氏は、既に最初のプロトタイプを完成させ、2年以内に公開する可能性があるとのことです。アナリストは、Appleが2007年のiPhone発表以来、顧客との間に「ロイヤリティの堀」を築いてきたと評価していますが、AI駆動のハードウェアという新たな競争が迫っていると言えます。

まとめ

 AppleのAI責任者交代は、同社がAI競争で直面する課題と、組織体制の見直しを象徴する出来事と言えます。Microsoft・Google出身の新責任者Subramanya氏の下、基礎モデル開発とAI安全性への注力が期待されます。Siri改良の遅延や他社との提携拡大は、Appleが独自のオンデバイスAI戦略を維持しながら、競合に追いつこうとする努力の表れと思います。2026年に向けて、Appleがどのような成果を示すか注目されます。

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