はじめに
多くの企業で生成AIの業務活用が本格化する中、その導入は新たな局面を迎えています。単に大規模言語モデル(LLM)を構築・導入するだけでなく、AIを既存の社内システムや外部サービスと、いかにして安全かつ効率的に連携させるか、という課題が浮上しています。
本稿では、この課題を解決する上で重要な役割を担う「API管理」に焦点を当てたGoogle CloudのAPI管理プラットフォーム「Apigee」について、自律的にタスクをこなす「AIエージェント」がAPIをツールとして利用する際の技術的な動向を含め、解説していきます。
参考記事
- タイトル: The agentic experience: Is MCP the right tool for your AI future?
- 発行元: Google Developers Blog
- 発行日: 2025年7月24日
- URL: https://developers.googleblog.com/ja/the-agentic-experience-is-mcp-the-right-tool-for-your-ai-future/
- タイトル: Apigee API Hub とは
- 発行元: Google Cloud
- URL: https://cloud.google.com/apigee/docs/apihub/what-is-api-hub?hl=ja
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要点
- 企業のAI導入における真の課題は、LLMの構築そのものだけでなく、既存のAPIエコシステムとの安全かつ管理された統合である。
- AIがAPIを「ツール」として利用するためのプロトコルとしてMCP(Model Context Protocol)が登場しているが、まだ発展途上であり、企業が求めるセキュリティやガバナンスの要件には対応していない。
- AI活用の成否を分ける基盤となるのは、まず堅牢なAPI管理プログラムの存在である。
- Google CloudのApigeeは、既存のAPIにセキュリティ、スケーラビリティ、ガバナンスといったエンタープライズレベルの管理機能を提供し、AIとの安全な連携を実現する。
- Apigeeは、MCPに認証・認可機能などを追加するオープンソースの参照実装を提供しており、APIを「AIプロダクト」として管理・配布する具体的な道筋を示している。
詳細解説
AI活用の新たなステージ:「AIエージェント」とは?
まず、本稿のテーマである「AIエージェント」について理解を深めましょう。
従来のAIが特定の質問に答えたり、文章を生成したりする「応答型」のものが中心だったのに対し、AIエージェントは、与えられた目標を達成するために、自律的に計画を立て、複数のステップを実行する能力を持ちます。
例えば、「今月の東京本社の売上データを集計し、グラフ化してレポートを作成後、関係部署のマネージャー全員にメールで送付する」といった複雑なタスクを、AIエージェントは自動で実行できます。
しかし、AIエージェントがこのようなタスクを実行するためには、現実世界のデータにアクセスしたり、他のシステムを操作したりするための「手足」が必要です。その役割を果たすのがAPI(Application Programming Interface)です。APIは、様々なソフトウェアやサービスが持つ機能を、外部から利用するための「窓口」や「接続口」だとお考えください。AIエージェントは、このAPIというツールを使いこなすことで、初めて実世界で価値のあるタスクを実行できるのです。
AIとAPIを繋ぐ「MCP」という考え方
AIエージェントが様々なAPIをツールとして自在に使いこなすためには、「どのAPIがどのような機能を持つのか」「どうすればその機能を使えるのか」といった情報をAIが理解できる形式で提供する必要があります。
そこで登場したのがMCP(Model Context Protocol)というコンセプトです。これは、APIをAIエージェント向けの「ツール」として定義し、その使い方を記述するための、いわば「APIの取扱説明書の標準フォーマット」のようなものです。MCPによって、AIは利用可能なツールを発見し、その使い方を自律的に学習できるようになります。
しかし、このMCPはまだ発展途上の技術です。特に、現在のMCPの仕様では、企業の業務利用において不可欠なセキュリティ、例えば「誰がそのAPIを使っていいのか(認証)」や「どの機能まで使わせていいのか(認可)」といった制御の仕組みが十分に考慮されていません。
なぜ今「API管理」が重要なのか? – Apigeeの役割
AIが自律的に、しかも大量のAPIを操作するようになると、APIの管理はこれまで以上に重要になります。もしAPIが何の管理もされずに野放しにされていれば、以下のような深刻なリスクが生じます。
- セキュリティリスク: 不正なアクセスによる情報漏洩やシステム改ざん。
- コンプライアンス違反: 誰がいつどのデータにアクセスしたかの追跡が不可能になる。
- システムの不安定化: 無秩序なアクセス集中によるサーバーダウン。
こうしたリスクを防ぎ、APIを企業資産として安全に活用するために不可欠なのが、API管理プラットフォームです。そして、Google Cloudが提供する「Apigee」は、この分野をリードするソリューションの一つです。
Apigeeは、既存のAPIの前に「関所」のようなレイヤーを設けることで、以下のようなエンタープライズレベルの管理機能を提供します。
- セキュリティ: APIキーやOAuthといった業界標準の方法で、アクセスを厳格に制御します。
- スケーラビリティ: アクセス急増時にも安定したパフォーマンスを維持します。
- ガバナンスと可観測性: APIの利用状況を詳細に監視・分析し、誰が、いつ、どのようにAPIを利用したかを正確に把握できます。
Apigeeによる解決策:APIを「AIプロダクト」へ
Apigeeを活用することで、発展途上であるMCPの課題を解決し、企業が安心してAIエージェントを導入できるアーキテクチャを構築できるようになります。
Apigeeは、まさにMCPに欠けている認証・認可といったセキュリティ機能を後付けで追加するための、オープンソースの参照アーキテクチャを公開しています。これにより、企業は自社のセキュリティポリシーを維持したまま、APIをAIエージェントに安全に公開することが可能になります。
さらにApigeeは、「APIプロダクト」というユニークな概念を提唱しています。これは、複数のAPIを特定の目的のためにパッケージ化し、利用権限や利用上限などを設定して「製品」のように管理・提供する考え方です。
この考え方をAIに応用し、AIエージェントが利用するAPI群を「AIプロダクト」として管理することを提案しています。これにより、AIが利用するツールセットを、他のソフトウェア製品と同様に、セキュリティとガバナンスを効かせながら、管理・配布することが可能になります。

まとめ
本稿では、Google Developers Blogの記事を基に、AIエージェント時代におけるAPI管理の重要性について解説しました。
企業が生成AIの導入を成功させ、ビジネス上の成果を最大化するためには、単に優れたAIモデルを持つだけでは不十分です。自社が持つ貴重なデータや機能(API)を、いかに安全に、そして管理された形でAIに提供できるかが、決定的に重要な鍵となります。
MCPのような新しい技術動向を注視しつつも、その根幹にあるのは、Apigeeが提供するような堅牢なAPI管理基盤です。AI活用への道のりは、まず自社のAPI戦略を見直し、整備することから始まると言えるでしょう。