はじめに
Anthropicが2025年10月29日、アジア太平洋地域で初となる東京オフィスの開設を発表しました。同社CEOのDario Amodei氏が来日し、日本AI安全研究所との協力覚書締結を実施しています。本稿では、この発表内容をもとに、Anthropicの日本展開の意義と今後の展望について解説します。
参考記事
- タイトル: Anthropic officially opens Tokyo office, signs Memorandum of Cooperation with the Japan AI Safety Institute
- 発行元: Anthropic
- 発行日: 2025年10月29日
- URL: https://www.anthropic.com/news/opening-our-tokyo-office?subjects=announcements
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要点
- Anthropicはアジア太平洋地域初となる東京オフィスを開設し、CEOのDario Amodei氏が来日して高市首相と面談を実施した
- 日本AI安全研究所と協力覚書(MoC)を締結し、AI評価手法の開発と新たなトレンドの監視で協力する
- 日本のAI採用率は世界上位25%に位置し、学術研究や文書編集など生産性向上タスクでの活用が中心となっている
- 楽天、野村総研、パナソニック、クラスメソッドなど日本の主要企業がClaudeを導入し、生産性の大幅な向上を実現している
- 森美術館との長期的なパートナーシップを拡大し、「六本木クロッシング2025」展への協力を発表した
詳細解説
東京オフィス開設の背景と意義
Anthropicによれば、今回の東京オフィス開設は同社の国際展開における重要なマイルストーンと位置づけられています。Dario Amodei氏は来日中に高市首相との面談、自民党デジタル化推進本部委員会での講演、顧客との会合、そして日本AI安全研究所との協力覚書締結を実施しました。
Amodei氏は「技術と人間の進歩は対立するものではなく、共に前進する」という日本の技術観がAnthropicの理念の中核にあると述べており、この価値観の共有が日本を事業拡大の重要拠点として位置づける理由になっていると説明されています。
アジア太平洋地域では、Anthropicの年換算収益が過去1年間で10倍以上に成長しており、東京オフィスはこの成長を支える基盤として機能することになります。
AI評価における国際協力の枠組み
Anthropicは日本AI安全研究所と協力覚書を締結し、AI評価手法の開発と新たなトレンドの監視で協力することを発表しました。この協力覚書では、AIシステムの能力評価、テスト、リスク理解のための共通基準を構築することが目指されています。
AI評価手法とは、AIモデルの性能や安全性を客観的に測定するための標準化された手順や指標のことです。AIシステムがより強力になるにつれ、その能力とリスクを正確に評価する国際的な枠組みが重要性を増しています。
この協力は、米国のCenter for AI Standards and Innovation(CAISI)や英国のAI Security Instituteとの既存の協力関係を補完するものです。Anthropicによれば、2024年11月には米英の両機関がClaude 3.5 Sonnetの共同評価を実施しており、国際機関がAI評価科学を共同で進展させる実例となっています。
さらにAnthropicは広島AIプロセスフレンズグループに今週参加しており、2023年に署名した安全で信頼できるAI開発を促進する国際的な枠組みへのコミットメントを深めています。広島AIプロセスは、G7を中心とした国際的なAIガバナンスの枠組みとして、安全性とイノベーションのバランスを重視した取り組みです。
日本におけるAI活用の特徴
Anthropicのデータによれば、日本のAI採用率は世界上位25%に位置しています。日本では、AIが人間の能力を代替するのではなく補強する協働ツールとして活用されており、学術研究、ライティング、文書編集などの生産性向上タスクが主な用途となっています。
Anthropic日本法人の代表取締役社長は、「最も成功するAI導入は人間の能力を代替するのではなく強化するものであるという我々の信念を、日本での動向が裏付けている」と述べています。日本企業は、AIによって人々が創造的な問題解決、繊細なコミュニケーション、信頼関係の構築など、人間が最も得意とする分野に集中できるようになると理解していると説明されています。
この活用パターンは、創造性やコミュニケーションの質を向上させることに焦点を当てており、人間の判断を代替するのではなく補完する方向性を示していると考えられます。
日本企業の具体的な活用事例
Anthropicは複数の日本企業における具体的な成果を紹介しています。
楽天では、Claudeを自律的なコーディングプロジェクトに活用し、開発者の生産性を劇的に向上させています。野村総研では、文書分析にかかる時間を数時間から数分に短縮しながらも精度を維持しています。パナソニックは、業務運用と消費者向けアプリケーションの両方でClaudeを統合しています。
特に注目されるのは、クラスメソッドの事例です。同社は主要なクラウドインテグレーターとして、10倍の生産性向上を達成したと報告しており、Claude Codeが最近のプロジェクトのコードベースの99%を生成したとされています。
Claude Codeは、Anthropicが提供する開発者向けのコード生成支援ツールで、ターミナルから直接Claudeにコーディングタスクを委任できる機能を持っています。99%という数値は極めて高い自動化率を示していますが、これは特定のプロジェクト条件下での結果であり、すべてのケースで同様の効果が得られるわけではない点に注意が必要でしょう。
今週AnthropicはまたBuilder Summitを東京で初めて開催し、Claudeを活用して構築を行っている150以上のスタートアップや創業者と会合を持ちました。これは、アジア太平洋地域で見られる急速な成長の勢いを反映していると説明されています。
日本の創造的コミュニティへの支援
Anthropicは森美術館とのパートナーシップを拡大することを発表しました。同社は、2025年に開催予定の展覧会「六本木クロッシング2025:過ぎゆくは時、我ら永遠なり」への協力を含め、美術館と長期的に複数の方法で連携していきます。
六本木クロッシングは、2004年に始まった展覧会シリーズの第8回で、特定の時点における日本の現代アートシーンのスナップショットを提供することを目的としています。この協力は、高い評価を受けた「MACHINE LOVE:ビデオゲーム、AI、現代アート」展での連携に続くものです。
AI企業が美術館と協力関係を構築することは、技術と文化の交差点における対話を促進する取り組みと言えます。特に現代アートの文脈では、AIが創造性や表現にどのような影響を与えるかという問いが重要なテーマとなっており、こうした協力が新たな視点を提供する可能性があります。
今後の展開
Anthropicは、日本で出会った人々や組織が「技術の進歩は人間の進歩を可能にしなければならない」という信念を共有していると述べています。同社は、この目標に向けて産業界、政府、文化の各分野のパートナーと協力するチームを東京で構築しているとのことです。
今後数ヶ月のうちに、Anthropicはソウルとベンガルールにも同様のアプローチで展開を進め、アジア太平洋地域での拡大を継続する予定です。この段階的な展開は、各地域の特性を理解しながら慎重に市場参入を進める戦略と考えられます。
東京オフィスでのキャリア機会については、Anthropicの採用ページで確認できます。
まとめ
Anthropicのアジア太平洋地域初となる東京オフィス開設は、同社の国際展開における重要な一歩といえます。日本AI安全研究所との協力覚書締結や広島AIプロセスへの参加は、AI評価における国際協力の枠組み構築を進めるものと言えます。日本企業の活用事例は、AIが人間の能力を補強するツールとして機能する可能性を示しています。今後、ソウルやベンガルールへの展開も予定されており、アジア太平洋地域での動向が注目されます。
