はじめに
Anthropicが2025年12月4日、データクラウド企業Snowflakeとの戦略的パートナーシップの大幅拡大を発表しました。2億ドル規模の複数年契約により、12,600以上のグローバル企業がSnowflakeプラットフォームを通じてClaudeモデルを利用できるようになります。本稿では、このパートナーシップの内容と、エンタープライズ向けAIエージェント展開の具体的な取り組みについて解説します。
参考記事
- タイトル: Snowflake and Anthropic announce $200 million partnership to bring agentic AI to global enterprises
- 発行元: Anthropic
- 発行日: 2025年12月4日
- URL: https://www.anthropic.com/news/snowflake-anthropic-expanded-partnership
要点
- AnthropicとSnowflakeが2億ドル規模の複数年契約を締結し、12,600以上のグローバル企業にClaudeモデルを提供する
- Claude Sonnet 4.5を搭載したSnowflake Intelligenceにより、構造化データと非構造化データの両方から自然言語で洞察を得られる
- Snowflakeの内部ベンチマークでは、複雑なテキストからSQLへの変換タスクで90%以上の精度を達成している
- 金融サービス、ヘルスケア、ライフサイエンスなど規制産業向けに、ガバナンスとコンプライアンス対応を強化している
- Intercom、Simon Dataなどの企業がすでにSnowflake上のClaudeを活用し、顧客サービスとデータ分析の効率化を実現している
詳細解説
パートナーシップの規模と範囲
今回発表された2億ドル規模の複数年契約は、AnthropicとSnowflakeの既存の協力関係を大幅に拡大するものです。Anthropicによれば、ClaudeモデルはAmazon Bedrock、Google Cloud Vertex AI、Microsoft Azureを通じてSnowflakeプラットフォームで提供され、12,600以上のグローバル企業が利用できるようになります。
このパートナーシップの特徴は、単なる技術提供にとどまらず、エンタープライズ向けのAIエージェント展開に焦点を当てた共同GTM(Go-To-Market)イニシアチブを含んでいる点です。企業は厳格なセキュリティ基準を維持しながら、構造化データと非構造化データの両方からClaudeを使用して洞察を得ることができます。
Snowflake CEOのSridhar Ramaswamy氏は発表の中で、「Snowflakeの最も戦略的なパートナーシップは、規模だけでなく、共に創造できるイノベーションと顧客価値の深さで測られる」と述べています。Anthropicは、製品レベルでの共同イノベーションと世界中の顧客への実行実績を持つ、選ばれたパートナーグループに加わったとされています。
Snowflake社内でのClaude活用
興味深いのは、Snowflake自身がClaudeを広範に内部運用に活用している点です。Claude Codeは、Snowflakeのエンジニアリング組織全体で開発者の生産性とイノベーションを向上させています。また、Snowflake Intelligence上に構築されたClaude搭載のGTM AIアシスタントは、営業チームがデータを一元化し、自然言語で質問し、取引サイクルを加速する回答を見つけることを可能にしています。
Claude Codeは、Anthropicが提供する開発者向けコマンドラインツールで、ターミナルから直接コーディングタスクをClaudeに委任できる機能です。Snowflakeのような大規模なエンジニアリング組織での採用は、このツールの実用性を示す事例と考えられます。
技術的な統合内容
Anthropicの発表では、数千のSnowflake顧客がすでにSnowflake Cortex AIを通じて月間数兆のClaudeトークンを処理していることが明らかにされています。パートナーシップの次の段階では、Claudeの高度な推論能力とSnowflakeのガバナンスされたデータおよびAI環境により、複雑な多段階分析を処理できるAIエージェントの展開に焦点が当てられます。
具体的な機能として、以下の4つが挙げられています。
Snowflake Intelligenceによるエンタープライズインテリジェンス:
Claude Sonnet 4.5がSnowflake Intelligenceを支援し、構造化データと非構造化データの両方から自然言語を使用して回答を提供するエンタープライズインテリジェンスエージェントとして機能します。ビジネスユーザーは平易な英語で質問でき、Claudeが必要なデータを判断し、企業のSnowflake環境全体から引き出して回答を提供します。
Snowflakeの内部ベンチマークによれば、複雑なテキストからSQLへの変換タスクで90%以上の精度を達成しているとされています。この精度水準は、エンタープライズ環境での実用性を示す重要な指標と考えられます。
マルチモーダル分析:
Snowflake Cortex AI Functionsを通じて、顧客はClaude Opus 4.5を含むClaudeモデルを使用して、テキスト、画像、音声、従来の表形式データをすべてSQLを使用してクエリできます。Snowflakeは発表当日にClaude Opus 4.5をホストしたことも特筆されています。
マルチモーダルAIは、異なる種類のデータ(テキスト、画像、音声など)を統合的に処理できる技術で、エンタープライズ環境では多様なデータソースからの洞察抽出に有用と思われます。
カスタムマルチエージェントソリューション:
Snowflake Cortex Agentsにより、顧客はClaudeを搭載した本番環境対応のデータエージェントを構築できます。これらのエージェントは、組み込みの精度と効率性を持って、構造化データと非構造化データを取得し、推論します。
ガバナンスと可観測性:
Snowflake Horizon Catalogは、エンドツーエンドのガバナンスと責任あるAI制御を提供します。規制産業のチームは、AIエージェントをパイロットから本番環境へ自信を持って移行できます。
金融サービス、ヘルスケア、ライフサイエンスなどの規制産業では、データガバナンスとコンプライアンスが特に重要です。Snowflakeの既存のガバナンス機能とClaudeの推論能力を組み合わせることで、これらの業界での本番展開のハードルが下がる可能性があると思われます。
顧客事例
発表では、すでに成果を上げている具体的な顧客事例が紹介されています。
Simon Data:
コンポーザブル顧客データプラットフォームプロバイダーであるSimon Dataは、厳格なガバナンス基準を維持しながら、Snowflake上のClaudeを使用してデータ内の以前は隠れていたパターンや関係を発見しています。
Intercom:
AI優先のカスタマーサービスソフトウェアを構築するIntercomは、Snowflake Cortex AIを通じてClaudeを使用し、Fin AIエージェントを強化しています。Intercomのエンジニアリング担当副社長Dave Lynch氏は、「これは、顧客との協働方法を変革し、サポートボリュームに対するFin AIエージェントの自動化率の向上を実現しました。特に最大かつ最も要求の厳しい顧客との関わりが、全体的により効率的かつ効果的になっています。以前は実現不可能だったことができるようになりました」と述べています。
ウェルスマネジメント企業の想定事例:
ウェルスマネジメント企業は、Claude搭載のSnowflake Intelligenceを使用して、顧客の保有資産、関連する市場データ、コンプライアンスルールを統合し、パーソナライズされたポートフォリオ推奨を生成するエージェントを作成できます。これらはすべて、SnowflakeのAI Data Cloudのセキュリティとガバナンスの境界内で実行されます。
Anthropic CEOのコメント
Anthropic CEO兼共同創設者のDario Amodei氏は、「企業は、セキュアで信頼できるデータ環境の構築に何年も費やしてきました。そして今、妥協なくそれらの環境内で機能するAIを求めています。このパートナーシップは、Claudeをデータがすでに存在するSnowflakeに直接統合します。これは、フロンティアAIをビジネスにとって genuinely useful(真に有用)にするための意味のある一歩です」と述べています。
このコメントは、エンタープライズAIの課題が技術的能力だけでなく、既存のデータインフラストラクチャとの統合やセキュリティ、ガバナンスにあることを示唆していると思われます。
導入方法
顧客は、Snowflakeが提供するクイックスタートガイドを通じてSnowflake上のClaudeを開始できます。Anthropicの発表によれば、Claudeは、Amazon Bedrock、Google Cloud Vertex AI、Microsoft Azureを含む、世界で最も著名な3つのクラウドサービスすべてで利用可能な唯一のフロンティアモデルとされています。
まとめ
AnthropicとSnowflakeの2億ドル規模のパートナーシップは、エンタープライズ向けAIエージェントの実用化を加速する重要な取り組みと考えられます。既存のデータインフラストラクチャ内でClaudeの高度な推論能力を活用できることは、特に規制産業での採用を促進する可能性があります。Intercomなどの事例が示すように、顧客サービスやデータ分析の効率化が期待できます。
