[ニュース解説]NVIDIAの牙城を崩すか?AMDが次世代AIチップ「MI400」発表、OpenAIも採用へ

目次

はじめに

 現在、AIチップ市場はNVIDIAが圧倒的なシェアを誇っていますが、AMDが発表した新技術は、その牙城に挑む可能性を秘めています。本稿では、半導体大手のAMDが発表した次世代AIチップに関する米メディアCNBCの記事「AMD reveals next-generation AI chips with OpenAI CEO Sam Altman」を基に、その内容を詳しく解説します。

引用元記事

要点

  • AMDは、2025年に出荷予定の次世代AIチップ「Instinct MI400」シリーズを発表した。
  • 発表会にはOpenAIのサム・アルトマンCEOが登壇し、同社のAIモデル開発にAMDの新チップを採用することを明言した。
  • 新チップは「ラック規模システム」に対応し、データセンター全体を一つの巨大なコンピュータとして機能させることが可能である。
  • 性能だけでなく、導入・運用コストの両面でNVIDIAに対する優位性を主張し、オープンな技術標準を推進することで、NVIDIAの独占市場に本格的な競争を仕掛ける。

詳細解説

なぜ今、AIチップが重要なのか?

 まず、本題に入る前にいくつかの重要な前提知識について解説します。

  • AIチップ(GPU)の役割
     AI、特にChatGPTのような生成AIは、膨大な量のデータを処理して学習します。このとき、複雑な計算を同時に、かつ大量にこなす能力(並列処理能力)が求められます。この処理に最適なのが、もともとはゲームなどの画像処理用に開発されたGPU(Graphics Processing Unit)です。現在では、AIを開発・運用するための必須のハードウェアとなっており、「AIチップ」とも呼ばれています。
  • 王者NVIDIAと「CUDA」の壁
     現在のAIチップ市場は、NVIDIAが90%以上という圧倒的なシェアを握っています。その強さの秘密は、高性能なGPUだけでなく、「CUDA」という独自のソフトウェアプラットフォームにあります。開発者はCUDAを使うことで、NVIDIAのGPUの性能を最大限に引き出すことができ、長年にわたってAI開発の標準となってきました。これにより、他の企業が参入しにくい「エコシステム(経済圏)」が形成されています。
  • AIの「学習」と「推論」
     AIのプロセスは大きく分けて、モデルを一から作る「学習(Training)」と、その完成したモデルを使って実際に文章を生成したり質問に答えたりする「推論(Inference)」の二つがあります。これまでは「学習」に注目が集まっていましたが、AIサービスが普及するにつれて、「推論」の効率性やコストが非常に重要になってきています。

AMDが発表した新技術の「すごい」ポイント

 今回AMDが発表した内容は、これらの背景を踏まえると、その重要性がより深く理解できます。

1. データセンターを丸ごと一つのコンピュータに:「ラック規模システム」

 AMDが発表した次世代チップ「Instinct MI400」シリーズの最大の特長は、「Helios」と呼ばれるラック規模システムに対応している点です。

 通常、データセンターでは「サーバーラック」という棚に多数のサーバーを設置して運用します。AMDの「Helios」は、このラック全体をあたかも「一つの巨大な計算エンジン」のように扱えるように設計されています。これにより、数千個ものAIチップをシームレスに連携させ、これまで以上に大規模で複雑なAIモデルを効率的に動かすことが可能になります。

 これは、データセンター全体でAIを動かす「ハイパースケール」な運用を目指すGoogleやMicrosoftのような巨大IT企業にとって、非常に魅力的な技術です。

2. 「推論」性能での優位性

 AMDは、特に「推論」における性能の高さを強調しています。記事によると、AMDのチップは競合(NVIDIA)よりも多くの高速メモリを搭載しているため、大規模なAIモデルを分割せずに単一のGPUで処理できます。これにより、AIが応答を返すまでの速度が向上し、運用コストも削減できると主張しています。AIサービスの需要が「推論」にシフトする中で、これは大きな強みとなります。

3. 「脱・NVIDIA依存」を掲げるオープン戦略

 AMDは、NVIDIAの独自技術であるCUDAやNVLink(チップ間を接続する技術)に対抗するため、オープンな技術標準を推進しています。ソフトウェアはオープンソースのフレームワークを、そしてチップ間接続には「UALink」というオープンな規格を採用しています。

 これにより、顧客企業は特定のベンダーに縛られる「ベンダーロックイン」を回避し、より柔軟にシステムを構築できます。これは、NVIDIA一強体制に懸念を持つ企業にとって、大きなメリットとなります。

OpenAIの採用が意味するもの

 今回の発表会で最も注目されたのは、OpenAIのサム・アルトマンCEOが登壇し、AMDチップの採用を明言したことです。

 ChatGPTを開発したAI業界のリーダーであるOpenAIは、これまでNVIDIAの最大の顧客の一つでした。そのOpenAIがAMDのチップを採用するという事実は、AMDの技術力がトップレベルであることを証明する強力な「お墨付き」となります。これは、他の企業がAMD製チップの導入を検討する上で、非常に大きな後押しとなるでしょう。

コストパフォーマンスでの挑戦

 AMDは、性能だけでなく価格競争力でもNVIDIAに挑みます。記事によれば、AMDはチップ自体の価格(買収コスト)だけでなく、消費電力を抑えることによる運用コスト(TCO: 総保有コスト)の両方で優位性があると主張しています。

 具体的には、「1ドルあたりに生成できるAIの出力(トークン)が40%多い」としており、これはAIの運用コストを直接的に下げる効果があります。AIの運用には莫大な電力がかかるため、低消費電力であることは極めて重要です。

まとめ

 今回のAMDによる次世代AIチップ「Instinct MI400」シリーズの発表は、単なる新製品の発表に留まりません。これは、NVIDIAが長年支配してきたAIチップ市場の勢力図を塗り替える可能性を秘めた発表と言えるでしょう。

 高性能、オープンな規格、そして高いコストパフォーマンスという三つの武器を手に、AMDはAI業界の巨人NVIDIAに正面から挑んでいます。そして、その挑戦を業界のリーダーであるOpenAIが支持したことの意義は大きいものです。今後の展開を注視する必要があります。

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