[ニュース解説]アリババ、米規制下で独自のAIチップ開発を加速:Nvidia依存からの脱却なるか

目次

はじめに

 本稿では、中国の巨大IT企業アリババが、米国の半導体輸出規制に対応するため、独自の新型AIチップを開発しているというニュースについて解説します。米中の技術覇権争いが激化する中で、アリババがどのような戦略をとっているのか、分かりやすくお伝えします。

参考記事

  • タイトル: Alibaba is developing a new AI chip — here’s what we know so far
  • 発行元: CNBC
  • 発行日: 2025年8月29日
  • URL: https://www.cnbc.com/2025/08/29/alibaba-is-developing-a-new-ai-chip-heres-what-we-know-so-far.html

要点

  • アリババは、AIの「推論」タスク向けに、従来よりも汎用性の高い新型AIチップを開発中である。
  • この動きは、米国による高性能AIチップの対中輸出規制強化を受け、Nvidia製品への依存を低減させることが目的である。
  • チップの製造は、これまでの台湾TSMCから中国国内の企業に切り替えられており、技術的な自立とサプライチェーンの国内完結を目指している。
  • 開発されたチップは外部に販売されず、アリババ自身のクラウドコンピューティングサービスで利用される計画である。

詳細解説

アリババが開発する「推論用」AIチップとは?

 今回アリババが開発しているのは、AIの「推論(Inference)」に特化した半導体チップです。AIの処理には大きく分けて「学習(Training)」と「推論」の2つの段階があります。

  • 学習: 大量のデータをコンピュータに読み込ませ、AIモデルを賢くする段階です。膨大な計算能力を必要とし、Nvidiaの高性能GPUなどが主に使われます。
  • 推論: 学習済みのAIモデルを使って、画像認識や音声アシスタント、自動翻訳など、具体的なタスクを実行する段階です。

 アリババの新型チップは、この「推論」をより効率的に、そして幅広い用途で実行できるように設計されています。同社は2019年にも推論用チップ「Hanguang 800」を発表していますが、今回のチップはそれよりもさらに汎用性が高いと報じられています。

開発の背景にある米国の輸出規制

 この開発の最大の背景は、米国による中国への半導体輸出規制です。米国政府は、先端技術が中国の軍事力強化に利用されることを懸念し、Nvidia製の高性能AIチップ(H100やBlackwellシリーズなど)の中国向け輸出を厳しく制限しています。

 これを受け、Nvidiaは規制に準拠した中国市場向けの製品「H20」を開発しました。しかし、このH20でさえも一時的に米政権から販売をブロックされるなど、中国企業にとってNvidia製品の安定的な調達は非常に困難な状況にあります。アリババは中国最大のクラウド事業者であり、Nvidiaの主要顧客の一社ですが、このままでは事業の根幹を揺るがしかねません。そこで、Nvidia製チップへの依存を減らし、自社で代替チップを開発するという動きが加速しているのです。

製造も「国産化」へシフト、その重要性

 今回の報道で特に注目すべきは、新型チップの製造元です。かつてアリババのAIチップは、世界最大の半導体受託製造企業である台湾のTSMCが製造していました。しかし、今回のチップは中国国内の企業が製造していると報じられています。

 これは、米国の規制が半導体の「設計」だけでなく「製造」にも及ぶ可能性を考慮し、サプライチェーン全体を国内で完結させようという、中国の「技術自立」に向けた強い意志の表れです。これにより、地政学的なリスクから自社の事業を守る狙いがあります。

アリババのビジネス戦略

 アリババは、この新型チップを外部の企業に販売する予定はありません。代わりに、自社が展開するクラウドコンピューティングサービスを通じて、計算能力(コンピューティングパワー)として顧客に提供します。

 つまり、ユーザーはチップそのものを購入するのではなく、アリババのクラウドサービスを利用することで、間接的にこの新型チップの性能を活用することになります。これは、自社開発チップによってサービスのコストを下げ、性能を最適化することで、クラウド事業者としての競争力を高めるという戦略です。もちろん、今後も必要に応じてNvidia製チップの利用は継続するとしています。

まとめ

 アリババによる独自のAIチップ開発は、単なる新製品の発表に留まりません。これは、米国の厳しい輸出規制という逆境の中で、中国のテクノロジー企業がいかにして生き残りを図り、独自の技術生態系を築こうとしているかを示す象徴的な動きです。サプライチェーンの国産化まで含めたこの戦略は、アリババだけでなく、HuaweiやBaiduといった他の中国企業にも共通する流れとなっています。米中間の技術覇権争いは、今後も世界のテクノロジー業界の勢力図を大きく塗り替えていく可能性があり、日本の企業や私たちにとっても注目すべき重要な動向と言えるでしょう。

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