はじめに
近年、私たちの情報収集のあり方を根本から変えようとしているのが、AI(人工知能)技術の進化です。特に注目されているのが、従来のキーワード検索とは一線を画す「AI検索エンジン」の台頭です。
本稿では、Appleの幹部によるAI検索エンジンが将来的にGoogleのような標準的な検索エンジンに取って代わる可能性があると発言した記事をご紹介します。
引用元記事
- タイトル: Alphabet shares sink 7% after Apple’s Cue says AI will replace search engines
- 発行元: CNBC
- 発行日: 2025年5月7日
- URL: https://www.cnbc.com/2025/05/07/alphabet-shares-sink-on-report-apple-may-add-ai-search-to-its-browser.html
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要点
- Appleのサービス担当上級副社長であるエディ・キュー氏が、「AI検索エンジンが将来的にGoogleのような標準的な検索エンジンに取って代わる」との見解を示しました。
- この発言は、Alphabet(Googleの親会社)に対する米司法省の反トラスト法違反訴訟の公判中に行われました。
- キュー氏は、AppleのSafariブラウザにOpenAI、Perplexity、Anthropicといった企業のAI検索サービスを将来的に追加する可能性を示唆しました。
- この報道を受け、Alphabet社の株価は7%以上急落し、Apple社の株価も2%下落しました。
- 背景には、GoogleがiPhoneのデフォルト検索エンジンになるためにAppleに年間数十億ドル(2022年には最大200億ドル)を支払っているという密接な関係と、その関係が揺らぐ可能性への懸念があります。
- キュー氏はまた、Safariブラウザでの検索数が4月に初めて減少したことを明らかにし、その原因をAI利用の増加にあるとしました。
詳細解説
今回のニュースは、単にAppleの幹部がAIの将来性について語ったというだけではありません。いくつかの重要な背景と技術的な側面が絡み合っています。
司法省によるAlphabet訴訟とAppleの証言
エディ・キュー氏の発言は、米司法省がAlphabet社を相手取って起こした独占禁止法違反訴訟の場でなされました。この訴訟では、Googleが検索市場および広告技術市場で不当に支配的な地位を築いているかどうかが争点となっています。特に、GoogleがAppleのようなプラットフォームプロバイダーに巨額の支払いをして自社検索エンジンをデフォルトに設定させている行為が問題視されています。Googleにとって、この訴訟の結果は広告収益という事業の根幹を揺るがしかねない重大なものです。
※米司法省によるAlphabet(Google)訴訟の背景: Googleが検索サービスやオンライン広告市場で支配的な地位を濫用し、競争を阻害しているという疑いに基づくものです。特に、スマートフォンメーカーなどに多額の費用を支払い、自社の検索エンジンをデフォルトに設定させている行為が問題視されています。
※エディ・キュー(Eddy Cue)氏とは?: Appleのサービス担当上級副社長であり、Apple Music、Apple TV+、iCloud、Apple Payなど、同社の重要なサービス部門を統括する人物です。彼の発言はAppleの将来戦略に大きな影響力を持つとされています。
AppleとGoogleの蜜月関係とその変化の兆し
記事によると、GoogleはiPhoneのデフォルト検索エンジンであり続けるために、Appleに対して2022年には年間200億ドルもの大金を支払っていたとされています。これはAppleにとっても莫大な収益源であり、Googleにとってはより多くの検索トラフィックとユーザーを獲得するための重要な手段です。
しかし、キュー氏の「AI検索エンジンが標準検索エンジンに取って代わる」という発言や、SafariブラウザにOpenAI(ChatGPTの開発元)、Perplexity AI、Anthropic(Claudeの開発元)といった新興AI企業の検索サービスを導入する可能性に言及したことは、この盤石に見えた関係に変化が生じる可能性を示唆しています。AppleがGoogle以外の選択肢を検討し始めていることは、Googleにとって大きな脅威となります。
AI検索の台頭と既存検索エンジンの課題
キュー氏が指摘したように、Safariブラウザでの検索数が初めて減少に転じた背景には、ユーザーが情報を得る手段としてAIチャットボットやAI検索サービスを利用し始めている現状があります。従来の検索エンジンがキーワードに基づいて関連性の高いウェブページのリストを提示するのに対し、AI検索は自然な対話形式でより直接的な回答や要約、さらにはコンテンツ生成まで行うことができます。この利便性が、ユーザーの行動を変化させているのです。
Alphabet社やApple社の株価が下落したのも、この市場の構造変化に対する投資家の懸念の表れと言えるでしょう。
AI検索エンジンとは
AI検索エンジンは、大規模言語モデル(LLM)などの技術を基盤としています。これにより、ユーザーの質問の意図を深く理解し、単に情報を検索するだけでなく、情報を統合・分析して、より人間にとって自然で理解しやすい形で提供することができます。
例えば、OpenAIのChatGPT、AI検索に特化したPerplexity AI、そして高い倫理基準を持つAI開発を目指すAnthropicのClaudeなどは、それぞれ特色あるAIサービスを提供しており、これらがブラウザの検索オプションとして統合されれば、ユーザー体験は大きく変わる可能性があります。
まとめ
Appleの幹部によるAI検索の将来性に関する発言と、それに伴う市場の反応は、検索エンジンの世界が大きな変革期にあることを示しています。長らく検索市場の覇者であったGoogleも、AIという新たな波によってその地位が揺らぎ始めています。
私たちユーザーにとっては、より便利で直感的な情報アクセス手段が登場する可能性に期待が持てますが、同時に、情報の正確性やプライバシーといった新たな課題にも向き合っていく必要があります。
日本においても、この変化は情報収集のあり方、ビジネスの進め方、そしてAI技術との向き合い方など、多岐にわたる影響を及ぼすでしょう。今後の動向を注視し、変化に対応していく柔軟性が求められます。
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