[事例紹介]AIが拓く音楽制作の新境地:インドの巨匠とGoogleの実験から学ぶ未来

目次

はじめに

 近年、AI(人工知能)技術は目覚ましい発展を遂げ、様々な分野で活用されています。音楽制作の世界も例外ではなく、AIがクリエイターの創造性を刺激し、新たな表現を生み出す可能性を秘めているとして注目されています。

 本稿では、Googleが開発した実験的なAI音楽ツール「Music AI Sandbox」を用いて、インド音楽界のレジェンドであるShankar Mahadevan氏がどのように音楽制作の実験を行ったかを紹介するGoogle Blogの記事を取り上げ、その内容を詳しく解説します。AIが音楽制作、特に多様な伝統を持つインド音楽とどのように融合し、クリエイティビティを拡張するのか、その可能性と具体的なプロセスを紹介します

引用元記事

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要点

 本稿で紹介する記事の要点は以下の通りです。

  • グラミー賞受賞歴のあるインド音楽界の重鎮、Shankar Mahadevan氏が、Google DeepMindとYouTubeが共同開発した実験的AIツール群「Music AI Sandbox」を活用した音楽制作に挑戦しました。
  • このプロジェクトは、AIと豊かなインドの音楽的伝統(カーナティック音楽、ヒンドゥスターニー音楽、フォーク、ダンス、宗教音楽など)の融合を探ることを目的としました。
  • Mahadevan氏は、自身のプロデューサー、作詞家、サウンドエンジニアと共に、ムンバイのスタジオで30時間以上を費やし、Music AI Sandboxが映画音楽制作にどのように役立つかを検証しました。
  • その結果、「Rubaroo」(ヒンディー語で「対面」の意味)という楽曲が制作されました。
  • 制作過程では、Music AI Sandboxにテキストプロンプト(指示文)を入力して、ドーラクやタブラといったインドの楽器を含む音楽サンプルを生成し、それをループさせながらボーカルメロディーを重ね、さらに追加の楽器要素をAIで生成しました。
  • 歌詞のインスピレーションを得るために、別のGoogle Labsの実験ツール「TextFX」も活用しました。
  • この実験は、AIが人間の創造性を補完・増幅し、アーティストが独自の芸術的ビジョンを保ちながら表現の限界を押し広げる未来を示唆しています。

詳細解説

Music AI Sandboxとは?

 まず、今回の実験で中心的な役割を果たした「Music AI Sandbox」について説明します。これは、GoogleのAI研究部門であるGoogle DeepMindが、動画プラットフォームのYouTubeと協力して開発した、実験段階にある一連のAIツールです。Shankar Mahadevan氏のような音楽業界のプロフェッショナルの意見を取り入れながら開発が進められています。

 具体的には、既存の楽曲を変形させたり、新たな楽器パートやボーカルパートを作成したり、作品の新しい方向性を探ったりするのに役立つように設計されています。ミュージシャンがAIを創造的なパートナーとして活用するためのツール群、と考えると分かりやすいでしょう。

Shankar Mahadevan氏とのコラボレーション

 Googleのチームは、インド音楽界で広く知られ、グラミー賞も受賞しているShankar Mahadevan氏と協力しました。インド音楽は、ボリウッド(インド映画産業)や地域の映画産業で知られるように、非常に多様で豊かな伝統を持っています。カーナティック音楽やヒンドゥスターニー音楽といった古典から、民族音楽、ダンス音楽、宗教音楽まで、その影響力は絶大です。この多様性こそが、Music AI Sandboxの可能性を探る上で最適なキャンバスとなりました。

 実験はMahadevan氏のムンバイにあるスタジオで行われ、彼のクリエイティブプロセスに深く入り込みました。単にAIツールを提供するだけでなく、彼のチーム(プロデューサー、作詞家、サウンドエンジニア)と共に、映画のサウンドトラック制作という具体的な目標に向けて、AIをどのように活用できるかを30時間以上かけて探求しました。

楽曲「Rubaroo」の制作プロセス

 このコラボレーションから生まれた楽曲が「Rubaroo」です。制作プロセスでは、Music AI Sandboxが具体的にどのように使われたかが示されています。

  1. 音楽サンプルの生成: Mahadevan氏は、Music AI Sandboxに「ドーラク(インドの太鼓)とタブラ(インドの太鼓)を使ったサンプル」といったシンプルなテキスト指示を与え、AIに音楽の断片(サンプル)を生成させました。これは、特定の楽器や雰囲気を持つ短い音楽フレーズをAIが作り出す機能です。
  2. DAWでの活用とメロディー制作: 生成されたサンプルを、デジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)と呼ばれる音楽制作用ソフトウェアに取り込み、ループ再生させました。そのループに合わせて、Mahadevan氏がボーカルのメロディーを即興で歌い、曲の骨格を作り上げていきました。
  3. 追加要素の生成: 曲のアイデアが固まってきたところで、再びMusic AI Sandboxを使い、さらに追加の楽器要素(例えば、特定の雰囲気を持つ伴奏パートなど)をAIに生成させ、曲に厚みを持たせました。
  4. 歌詞制作の補助: 音楽だけでなく、歌詞制作においてもAIが活用されました。Google Labsの別の実験ツール「TextFX」に、曲のタイトルでもある「Rubaroo」という単語を入力。「Simile(直喩)」や「Scene(場面描写)」といった機能を使うことで、比喩表現や情景描写のアイデアを得て、作詞のインスピレーションとしました。

 Mahadevan氏は、「音楽は何かしらのきっかけによって生まれると強く信じている。それは物理的なもの、視覚的なもの、聴覚的なもの、何でもあり得る。Sandboxは、メロディーを作ったり、特定の曲を望むジャンルに変換したりする際に、特定の方向に脳を刺激し、考えさせてくれる」と述べています。AIがゼロから曲を作るのではなく、人間の創造性を「刺激」し、「方向付け」する役割を果たしたことがうかがえます。

AIと創造性の未来

 この実験は、AIが単なるツールに留まらず、人間の創造性を補完し、増幅する可能性を示しています。特に、多様な音楽的背景を持つインド音楽とAIを組み合わせることで、伝統的な要素と革新的な技術が融合した、新しい音楽表現が生まれる可能性が示唆されました。アーティストは、AIの助けを借りて新しいアイデアを探求し、表現の幅を広げながらも、自身の独自の芸術的ビジョンを維持することができます。

まとめ

 本稿では、Google Blogの記事を基に、インド音楽界の巨匠Shankar Mahadevan氏とGoogleのAI音楽ツール「Music AI Sandbox」を用いた実験的な音楽制作について解説しました。

 今回の事例はインド音楽に関するものですが、日本においても示唆に富んでいます。日本の音楽シーンも、J-POP、アニメソング、演歌、伝統音楽(雅楽、民謡など)と非常に多様です。Music AI Sandboxのようなツールは、日本のクリエイターにとっても、大きな影響を与える可能性があり、今後が楽しみです。

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