[ニュース解説]AI失業の最前線:AIによる雇用の置き換えはすでにアウトソースで始まっている

目次

はじめに

 近年、AI(人工知能)の進化に伴い、「AIに仕事が奪われるのではないか」という議論が活発になっています。多くのビジネスパーソンが、自身のキャリアへの影響を懸念していることでしょう。

 本稿では、AIによる雇用の変化が、私たちの身近なところではなく、別の場所から静かに始まっていることを中心に、AIと雇用の現在地について詳しく解説します。

参考記事

要点

  • MITのレポートによると、AIによる雇用の代替は、現時点では企業の正社員ではなく、主にアウトソーシング(外部委託)やオフショア(海外委託)の業務で発生している。
  • 企業は従業員を直接解雇する代わりに、外部委託契約をAIで置き換えることで、大幅なコスト削減を実現している。
  • 短期的には全雇用の3%が、長期的には27%がAIに代替される可能性があると予測されている。
  • AI予算の多くは営業・マーケティング分野に投じられているが、投資対効果(ROI)が高いのはバックオフィス業務の自動化である。
  • 生成AIへの投資の大部分(95%)はまだ利益を生んでいないものの、企業は生産性の向上を実感している。

詳細解説

まず影響を受けるのは「アウトソーシング業務」

 多くの人が抱く「AIによる失業」のイメージは、ある日突然、自分の仕事がAIに取って代わられる、といったものかもしれません。しかし、MITのレポートが示す現実は少し異なります。現在、AIが代替しているのは、企業の内部にいる正社員の仕事ではなく、これまで外部の専門業者に委託されてきた業務、すなわちBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が中心です。

 BPOとは、企業の業務プロセスの一部(例えば、コールセンター、データ入力、経理処理など)を外部に委託することです。特に、人件費の安い海外の業者に委託することをオフショアと呼びます。これらの業務は、多くがマニュアル化された定型的な作業であるため、AIによる自動化との親和性が高いのです。

. 企業は、正社員の解雇というリスクの高い選択を避け、まずは外部委託契約の終了という形でAI導入を進めています。これにより、企業は大きな経済的利益を得ています。記事によれば、ある企業はわずか8,000ドル(約120万円)のAIツールを導入することで、年間800万ドル(約12億円)ものコスト削減に成功したと報告されています。これは、AIがもたらすコスト削減効果の大きさを象徴する事例と言えるでしょう。

短期的な影響と長期的な展望

 AIによる仕事の代替について、短期的・長期的な視点からの予測も示されています。

 短期的には、全仕事の約3%がAIに代替される可能性があるとされています。これはまだ限定的な影響に見えるかもしれません。しかし、長期的に見ると、その割合は約27%にまで拡大する可能性があると予測されており、これは決して無視できない数字です。

 特に、AI導入が先行しているテクノロジー業界やメディア業界では、経営者の80%以上が「今後2年以内に採用数を減らす可能性がある」と回答しており、業界によってAIの影響が顕在化するスピードには差があることがうかがえます。

AI投資の現状と課題

 興味深いことに、AIへの投資配分と、その効果には少しギャップが見られます。レポートによると、AI関連予算の約半分は営業やマーケティングといった、顧客と直接関わるフロントオフィス業務に投じられています。これは、AIを活用して売上を直接向上させたいという企業の期待の表れでしょう。

 しかし一方で、前述のコスト削減事例のように、現在もっとも高い投資対効果(ROI)を上げているのは、経理や総務といったバックオフィス業務の自動化です。フロントオフィス業務におけるAIの貢献度は、売上との因果関係を証明しにくいという課題もあり、多くの企業がその活用方法を模索している段階と言えます。

 また、話題の生成AIについては、投資している企業の95%が「まだリターンを得られていない」と回答しています。これは、多くの企業がまだ実証実験や試行錯誤の段階にあることを示唆しています。それでも、多くの企業がAI導入によって「大幅な生産性向上」を実感していることも事実であり、将来的な収益への貢献が期待されています。

まとめ

 本稿では、AIによる雇用の変化の最前線を解説しました。現在起きている変化の核心は、「AIは正社員の仕事を奪うのではなく、まず外部委託されてきた業務から代替している」という点です。企業はコスト削減を主な目的に、リスクの低い領域からAI導入を進めているのです。

 しかし、これは対岸の火事ではありません。長期的には、より広範な職種に影響が及ぶ可能性が示唆されています。日本においても、BPOは多くの企業で活用されており、海外と同様の動きが加速する可能性は十分に考えられます。

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