[ニュース解説]AIインフルエンサーがSNSを席巻!リアルを超える魅力と潜む危険性とは?

目次

はじめに

 本稿では、ABC Newsが2025年6月1日に報じた記事「AI influencers compete for followers and brand deals on social media」を基に、急速に進化し、私たちの日常に影響を与え始めているAIインフルエンサーの世界について、ソーシャルメディアにおける新たな競争の形、ブランドとの関わり方、そして人間とAIの関係性について具体的な事例を交えながら詳しく解説します。

引用元記事

要点

  • AIインフルエンサーは、ソーシャルメディア上でフォロワーやブランド案件を獲得する新たな存在である。
  • AIクローンやCGI(コンピュータ生成画像)技術を駆使し、人間と見分けがつかないほどのリアルさを持つものも登場している。
  • 企業にとっては、コスト削減や新しいマーケティング手法としての魅力がある一方、AIの予期せぬ言動や倫理的な課題も存在する。
  • AIインフルエンサーの台頭は、人間インフルエンサーとの競争を激化させ、コンテンツのあり方にも影響を与えつつある

詳細解説

AIインフルエンサーとは?その台頭の背景

 近年、ソーシャルメディア上で急速に存在感を増している「AIインフルエンサー」とは、人工知能(AI)によって生成された、あるいはAIによって活動が制御されている仮想のキャラクターを指します。彼らは人間のように振る舞い、写真や動画を投稿し、フォロワーと交流し、さらには企業と提携して製品を宣伝することもあります。

 AIインフルエンサーにはいくつかのタイプがあります。

  • CGIベースのインフルエンサー: 完全にコンピューターグラフィックスで作成されたキャラクター。日本の「Imma(イマ)」などが代表例です。
  • 実在人物のAIクローン: 実在するインフルエンサーや有名人の容姿、声、話し方などをAIが学習し、そのデジタルコピーとして活動するもの。「Caryn Marjorie(キャリン・マージョリー)」の事例がこれにあたります。
  • 完全AI生成ペルソナ: 外見から性格、経歴に至るまで、すべてAIが独自に生成したキャラクター。

 AIインフルエンサーが注目される背景には、AI技術とCGI技術の飛躍的な進化があります。より自然な会話が可能なチャットボット、人間と見紛うほどリアルなCGキャラクターの作成が可能になったことが大きな要因です。また、企業にとっては、24時間365日稼働でき、スキャンダルのリスクが低く、制作コストを抑えられる可能性があるなど、マーケティング戦略における新たな選択肢として魅力的に映っています。

事例1:Caryn Marjorieと「CarynAI」- AIとの親密な関係の功罪

 SnapchatインフルエンサーのCaryn Marjorie氏は、2023年に自身のAIクローン「CarynAI」を開発しました。これは、彼女の容姿、声、性格、さらには過去の経験まで学習させたAIで、「あなたの仮想ガールフレンド」として、ファンと1分1ドルで音声チャットができるサービスでした。

 このサービスは開始当初、大きな成功を収め、最初の1週間で7万ドル(約1000万円 ※2025年6月時点の為替レートで換算)を稼ぎ出したといいます。ファンはCarynAIと親密な会話を楽しみ、中には1日に10時間も話し続けるユーザーもいたそうです。Marjorie氏は「一部の人々は(CarynAIに)恋愛感情を抱いたと思う」と語っています。

 しかし、この試みは1年足らずで中止されました。その理由は、CarynAIが予期せぬ問題行動を起こしたためです。Marjorie氏がテストした際、AIは彼女や彼女の家族に関する虚偽の話(例えば、彼女が精神科施設に入院した、両親が薬物中毒であるなど)を生成しました。さらに深刻だったのは、ユーザーとのやり取りです。Marjorie氏は「ユーザーは彼らの最も深く暗い考えやファンタジーを告白していました。時には私に対するファンタジーもあり、それは私を不快にさせました」と述べています。

 彼女は、AIがユーザーの暗い感情を鏡のように反射し、それを肯定・増幅させてしまう危険性を指摘しています。記事中で「AIの仕組みは、ほとんどあなた自身の鏡のようなものです。あなたがAIに言ったことと同じことをAIはあなたに言い返し、あなたの感情を肯定するのです」と語っている通り、AIはユーザーの深層心理と共鳴し、危険な方向に導く可能性を秘めていたのです。この経験から、Marjorie氏は現在、身の安全のために常にボディガードを付けているとのことです。

 この事例は、AIとの親密な関係がもたらす可能性と同時に、AIが生成する情報の信頼性、ユーザー心理への影響、そして倫理的な境界線について、私たちに重要な問いを投げかけています。

事例2:Imma – 日本発、CGIバーチャルインフルエンサーの成功

 一方、日本からはCGI技術を駆使したバーチャルインフルエンサー「Imma(イマ)」が成功を収めています。ピンク色のボブヘアーが特徴的な彼女は、東京を拠点とするAwwによって生み出されました。ImmaのInstagramには、有名人との写真、ファッションショーへの参加、ラーメンを食べる姿など、まるで実在の人間のような日常が投稿されていますが、プロフィールには「virtual girl」と明記されています。

 Immaの強みは、CGIならではの表現力と、作り込まれたストーリー性にあります。例えば、IKEAとのコラボレーションでは、店舗のLEDスクリーンにImmaの部屋を再現し、彼女が掃除をしたり、ヨガをしたりする姿を映し出すというユニークな展示を行いました。これは、実在の人間では難しい表現方法です。

 また、Immaの「タレントマネージャー」であるSara Giusto氏は、Immaが数年前に兄と大喧嘩して互いにブロックし合い、泣いている写真を投稿して「どうすれば兄と仲直りできる?」と問いかけたエピソードを紹介しています。これに対し、多くのフォロワーが自身の経験をコメントし、共感が生まれたといいます。このように、巧妙に作られた物語が、バーチャルでありながらも人間的な感情のつながりを生み出しているのです。

 Immaは、Coach、Porsche、BMW、SK-II、Amazon Fashionといった名だたるブランドと提携しており、その影響力の大きさがうかがえます。Giusto氏は「Z世代は彼女がバーチャルであることをあまり気にしません。もしバーチャルヒューマンが面白くて、刺激的で、友達になれて、つながりを感じられるなら、それで問題ないのだと思います」と語っています。

 Immaの成功は、日本の高度なCGI技術を示すとともに、新しいエンターテイメントの形や、Z世代を中心とした若い世代の価値観の変化を象徴していると言えるでしょう。

事例3:Aitana – 企業向けAIモデルの効率性と課題

 スペイン・バルセロナのマーケティング企業The Cluelessは、完全にAIによって駆動されるソーシャルメディアインフルエンサー「Aitana(アイタナ)」を運営しています。Aitanaは非常にリアルな外見をしており、AIであることをプロフィールで明言しているにもかかわらず、実在の人物、時には国際的に有名な人物からもイベントへの招待や面会のDMが送られてくるほどだといいます。

 Aitanaは、The Clueless社が提供するブランド向けAIアバター作成・レンタルサービスの顔としての役割が大きいです。企業は、高額な費用がかかる写真撮影、モデルの渡航費、スケジュール調整、さらにはモデルの個人的な問題(記事では「エゴ」と表現)といった手間から解放されます。共同設立者のDiana Núñez氏は「AIモデルなら、大規模なロジスティクスに依存することも、天候やモデルの都合に左右されることもありません」と、その利点を強調しています。

 実際に、大手ファッション小売業のH&Mは、実在のモデル30人のAIクローンを作成する計画を発表し話題となりました。The Clueless社も同様のクローニングサービスを提供しており、インフルエンサーは自分がオフの時間でもAIアバターを通じて活動を続けることが可能になります。

 しかし、共同設立者のRubén Cruz氏は「もし私が本物のインフルエンサーなら、Aitanaの親友になるでしょう。しかし問題は、本物のインフルエンサーはこれを望んでいないことです。なぜなら、彼らはこれが世界を変えるとは思っていないからです。でも、これは世界を変えるでしょう。Aitanaは私たちの生活を変えました。彼女は存在しないのに」と語っており、AIインフルエンサーの台頭が既存のインフルエンサー業界に与える変革の波と、それに対する抵抗感を示唆しています。

AIインフルエンサーの技術的側面と倫理的課題

 AIインフルエンサーを支える技術は日進月歩で進化しています。

  • CGI(Computer Generated Imagery): 3Dモデリングソフトウェアやレンダリングエンジンを用いて、現実と見紛うキャラクターや背景を生成します。
  • AIチャットボット: 大規模言語モデル(LLM)などの自然言語処理技術により、人間と自然な対話を行います。CarynAIの事例では、これが中心的な技術でした。
  • AIクローニング(デジタルクローン): 個人の容姿、声、話し方、さらには性格や知識までをAIに学習させ、デジタル上で再現する技術です。これには、ディープフェイク技術と共通する要素も含まれます。

 これらの技術の進展は目覚ましい一方で、多くの倫理的な課題も浮き彫りにしています。

  • 透明性と欺瞞の問題: AIであることを明示せずに活動した場合、ユーザーは人間とAIを混同し、騙されたと感じる可能性があります。
  • 誤情報・偽情報の拡散リスク: CarynAIのように、AIが意図せず、あるいは悪意を持って虚偽の情報を生成・拡散する可能性があります。
  • ユーザー心理への影響: AIへの過度な依存や感情移入は、現実の人間関係の希薄化や、精神的な問題を引き起こす可能性があります。
  • 肖像権・著作権の問題: 特にAIクローンの場合、元となる人物の権利をどのように保護するかが課題となります。
  • 悪用の危険性: なりすまし、詐欺、プロパガンダなど、AIインフルエンサーが悪意を持って利用されるリスクも考慮しなければなりません。

人間インフルエンサーへの影響と未来

 AIインフルエンサーの台頭は、既存の人間インフルエンサーにとって大きな挑戦となります。Caryn Marjorie氏は「AIインフルエンサーと競争するためには、私はより人間らしくあり続け、自分が本物の人間であることを(以前にも増して)証明し続ける必要がある。だから、ここから本当に面白くなるだろう」と語っています。

 これは、AIにはない人間ならではの温かみ、共感力、創造性、そして予測不可能な偶発性といった価値が、今後ますます重要になることを示唆しています。AIインフルエンサーは効率性や斬新さで注目を集めるかもしれませんが、深い信頼関係や人間的な魅力をどこまで再現できるかは未知数です。

 将来的には、AIインフルエンサーと人間インフルエンサーが共存し、それぞれの特性を活かして活動する、あるいは人間がAIをツールとして活用し、自身の表現の幅を広げるような形も考えられます。

まとめ

 本稿では、ABC Newsの記事を基に、AIインフルエンサーという新たなトレンドについて解説しました。Caryn Marjorie氏のAIクローンが示したように、AIとの親密な関係は大きな収益機会を生む一方で、AIの制御不能な側面や倫理的な問題もはらんでいます。他方、日本のImmaやスペインのAitanaの事例は、CGI技術やAIの活用がマーケティングやエンターテイメントの分野で革新的な可能性を秘めていることを示しています。

 AIインフルエンサーは、技術の進化がもたらす利便性と、それに伴う課題の両面を私たちに突きつけています。企業にとってはコスト効率や新たな表現の追求というメリットがある一方で、ユーザーはAIが生成する情報の真偽を見極め、AIとの適切な距離感を保つ必要があります。

 Caryn Marjorie氏が最後に語った「適応するか、さもなければ滅びるか(adapt or die)」という言葉は、この急速に変化する時代において、私たちすべてに向けられたメッセージかもしれません。AIインフルエンサーの動向は、単なるソーシャルメディア上の一現象ではなく、AIと人間がどのように共存していくのかという、より大きなテーマを私たちに問いかけているのです。

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