[ニュース解説]Google Veo 3で数分でつくられた動画でAIインフルエンサーが月数千ドル稼ぐ時代

目次

はじめに

 BBCが2025年12月27日に報じた内容をもとに、AI生成動画でソーシャルメディアで収益を上げる新しい潮流について解説します。イリノイ大学の学生が作成したAIインフルエンサー「Gigi」は、Google Veo 3を使い、わずか数分で動画を生成し、TikTokのクリエイターファンドで数千ドルを稼いでいます。

参考記事

要点

  • イリノイ大学の学生Simone Mckenzieが、Google Veo 3を使ってAIインフルエンサー「Gigi」を作成し、2ヶ月で数千ドルを稼いだ
  • BBCによれば、1本の動画が4日間で1,600ドル(約23万円)の収益を生み出し、数分で動画を生成できるため1日3本の投稿が可能である
  • 人間のインフルエンサーは、企画から撮影、編集まで数時間から数日かかるのに対し、AIクリエイターはほぼすべての工程を省略できる
  • ペンシルベニア大学の専門家によれば、この現象は急増しており、ゴールドマン・サックスの調査では2,500億ドル(約36兆円)規模のインフルエンサー業界を揺るがす可能性がある
  • AI生成動画は現実との区別が困難になりつつあり、特にメディアリテラシーが未発達な若年層への影響が懸念されている

詳細解説

AIインフルエンサー「Gigi」の誕生

 Simone Mckenzie氏は21歳のイリノイ大学の学生で、夏休みに収入を得る必要がありました。BBCによれば、彼女は従来型のインフルエンサーになることを検討しましたが、資金や時間、撮影環境がなかったため、Google Veo 3というAIチャットボットを使って「Gigi」という21歳の女性キャラクターを作成しました。

 Gigiは、日焼けした肌、緑色の目、そばかす、ウィングアイライナー、長い黒髪が特徴です。各動画の冒頭で「AIだと言わないで」と視聴者に訴えかけ、その後、溶岩のピザを食べたり、雪の結晶や綿菓子をリップグロスとして塗ったりする非現実的な映像を見せます。

 AI動画生成技術は、テキストプロンプトを入力するだけで、数分で完成した動画が得られます。従来のインフルエンサーが撮影機材や編集ソフトウェアに投資し、時間をかけて制作していたコンテンツを、大幅に簡略化できる点が特徴です。

制作プロセスの圧倒的な差

 BBCによれば、Mckenzie氏は動画の生成に数分しかかからず、1日に3本投稿することもあると述べています。これは従来の人間のインフルエンサーには不可能な制作ペースです。

 一方、130万人のフォロワーを持つ人間のインフルエンサーKaaviya Sambasivam氏(26歳)は、レシピ動画、日常vlog、メイクアップチュートリアルなど、動画の種類によって数時間から数日かかると説明しています。彼女は買い物、企画、背景とライティングの設定、撮影、編集というすべての工程を自分で行う必要があります。

 Sambasivam氏はCovid-19パンデミック中、実家に住みながらチャンネルを構築し始めました。当初は撮影機材がなく、携帯電話をダクトテープで壁に固定して撮影していたと言います。その後、インフルエンサーとして稼いだお金で三脚、照明、メイクアップ、動画用の食材を購入し、フォロワーを増やすのに数年を要しました。

 この制作プロセスの違いは、コンテンツ制作の民主化という側面も持ちます。ペンシルベニア大学のJessa Lingel准教授は、資金や時間がない人でもバイラル動画を作れるようになったと指摘しています。

インフルエンサー市場への影響

 BBCによれば、ゴールドマン・サックスの調査では、インフルエンサー業界はわずか数年で2,500億ドル(約36兆円)規模に成長しました。ソーシャルメディアインフルエンサーは、自分の生活(休暇、ペット、メイクアップルーティン)を使ってコンテンツを作成し、フォロワーを獲得してきました。

 コーネル大学のデジタル・ソーシャルメディア学者Brooke Duffy氏は、AIクリエイターが同じコンテンツをより速く、より安く、現実の制約なしに作成できるため、クリエイター空間を混乱させる可能性があると述べています。

 Mckenzie氏の事例では、1本の動画が4日間で1,600ドル(約23万円)を稼ぎ、2ヶ月間で数百万回の視聴を記録しました。TikTokのクリエイターファンドは、視聴回数に基づいてクリエイターに報酬を支払うプログラムで、AI生成コンテンツもこの仕組みの対象になっています。

 人間のインフルエンサーSambasivam氏は、「私は人間です。アウトプットには限界があります。調子が悪い月は最低限の投稿しかできません。ロボットには勝てません」と述べています。このコメントは、AI生成コンテンツとの競争における人間の限界を端的に表していると言えます。

AI生成コンテンツの多様化

 BBC記事では、複数のAIコンテンツクリエイターの事例が紹介されています。韓国在住の31歳のアメリカ人女性は、ヘッドフォンを着け、料理をし、髪をカールさせるAI生成の子犬「Gamja」を主役にしたTikTokページを運営しています。彼女は数百万回の視聴を獲得し、動画に登場させたい企業とのパートナーシップも得ています。

 27歳のDaniel Riley氏は、TikTokで最大級のAIコンテンツクリエイターの1人です。彼は自分の顔を一度も見せたことがありませんが、「タイムトラベル」動画で約60万人の登録者と数千万回の視聴を獲得しています。「POV: ポンペイの噴火の日に目覚める」や「POV: クレオパトラ女王として目覚める」といったタイトルで、古代史の架空の1日を30秒の動画で表現しています。

 Riley氏は、「通常なら数百万ドルかかる物語を語り、人々にスマートフォンを通じて異なる時代を見せることができる」と述べており、さらに月額制のブートキャンプで他の人にAI動画の作り方を教えるという別の収入源も開発しています。

 AI動画は、マクドナルドで働く猫のアニメーションのような不条理なものから、偽の玄関カメラ映像のような超現実的なものまで多岐にわたります。ホラー、コメディ、料理など、あらゆるジャンルを網羅していますが、いずれも実際には存在しないコンテンツです。

真偽の見分けがつかない時代へ

 Gigiは各TikTok動画の冒頭で「AIだと言わないで」と主張しますが、一部の視聴者は彼女が本物だと疑わずに信じています。BBCによれば、ペンシルベニア大学のLingel准教授は、特にメディアリテラシーがまだ発達していない若い子供たちにとって、現実とほぼ区別がつかないAI動画は深刻な問題だと指摘しています。

 Lingel准教授は「近いうちに、普通の人間が違いを見分けることはほぼ不可能になると思います。誤情報の増加、詐欺の増加、そして単に質の低いコンテンツの増加が見られることになります」と述べています。

 一方で、コーネル大学のDuffy氏は、AI動画は魅惑的で、漫画的で誇張された素材を提供すると指摘しています。「現実と欺瞞の境界線をまたぐように見える画像や投稿が、私たちの注意を引き、共有を促します」と説明しています。

 デジタル加工自体は新しいものではありません。Duffy氏によれば、まずPhotoshopのような画像編集プログラムがあり、次にFaceTuneのようなアプリがソーシャルメディア用に顔を変更することを容易にしました。しかし、今日の超現実的なAI動画の主な前身は、2010年代後半に登場した有名人のディープフェイクだったと言います。

 現在のAI動画は、はるかにリアルに見え、より速く拡散します。Duffy氏は「ある意味で、ミーム文化の一形態になっています」と述べています。

 ハーバード大学の調査では、14〜22歳のAIユーザーの多くが、画像や音楽などを生成するために使用していることが示されています。Duffy氏は、人間の識別能力が急速に進化する技術に追いつけるかどうかが問題だと指摘しています。

 AI生成の子犬Gamjaのクリエイターは、ほぼ毎日、オンラインで彼女のAI生成の子犬を心配する人々から連絡を受けると言います。彼らは、子犬が不健康な食べ物を食べていると考えているのです。なぜなら、彼らは本物の犬を見ていると思っているからです。

まとめ

 BBCの報道をもとに、AI生成動画がソーシャルメディアで急速に普及し、インフルエンサー業界に大きな影響を与えている現状を解説しました。Google Veo 3のようなツールを使えば、数分で動画を生成でき、従来の人間のインフルエンサーが数時間から数日かけて制作していたコンテンツを大幅に効率化できます。2,500億ドル規模の市場における競争の変化、真偽の見分けがつかなくなる課題など、今後の展開が注目されます。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次