[ニュース解説]AIはコンサル業界の救世主か、破壊者か? NTTデータの事例から読み解く未来

目次

はじめに

 本稿では、AI、特に生成AIがコンサルティングなどのプロフェッショナルサービスファームに与える影響について解説した記事を紹介します。AIは業務効率化の大きな助けとなる一方で、既存のビジネスモデルを根底から覆す可能性も秘めています。本稿を通じて、AIがビジネス、特に専門知識を提供するサービスにどのような変革をもたらそうとしているのか、その現状と未来について、丁寧に解説していきます。

引用元記事

・本稿中の画像に関しては特に明示がない場合、引用元記事より引用しております。
・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

要点

  • 生成AIは、コンサルティングファームにとって、ソフトウェア開発やリサーチの時間を短縮するなど業務効率を大幅に向上させる恩恵をもたらします。
  • しかし同時に、クライアント自身がAIを活用することでコンサルタントへの依存度が低下し、ファームの収益の40%が危険に晒される可能性があるという分析もあります(NTTデータ社の例)。
  • この脅威に対応するため、NTTデータ社は人材育成、顧客向け価値開発、AI導入プラットフォーム開発、社内プロセス効率化という4つの柱で変革を進めています。
  • AIの活用が進む中で、コンサルティングファームは「サービス提供」と「ソフトウェア提供」の境界線をどう引くかという、業界全体の課題に直面しています。

詳細解説

生成AIとは? コンサルティング業務への影響

 まず前提として、「生成AI」とは、文章、画像、プログラムコードなどを自動で生成できるAIのことです。ChatGPTなどが有名ですね。コンサルティングファームの主な業務には、文書分析、リサーチ、レポート作成、クライアント向けソフトウェア開発などが含まれます。これらはまさに生成AIが得意とする分野であり、AIを活用すれば、コンサルタントはこれらの作業時間を大幅に短縮できます。NTTデータのDavid Pereira氏(生成AI部門責任者)は、AIがコンサルタントにとって恩恵であると述べています。

NTTデータ社の取り組み:脅威と機会

 しかし、良い面ばかりではありません。クライアント自身が高性能なAI(記事中では「deep research AI agent」)を使えるようになれば、「コンサルタントに頼む必要はあるのか?」という疑問が生じます。たとえ依頼したとしても、AI活用を前提としたより低い料金を期待されるかもしれません。これはコンサルティングファームのビジネスモデル、特にコスト構造を根本から揺るがす脅威です。

 NTTデータ社は、自社の分析で収益の40%が生成AIによって危険に晒される可能性があると認識し、これを「挑戦であり、機会でもある」と捉え、以下の4つの主要な取り組みを進めています。

  1. 人材と文化の変革 (Talent and Cultural Transformation): 全従業員がAIを理解し活用できるようトレーニングを実施。AI活用を前提とした社内の役割変化を見据え、積極的に人材構成を再構築しています。これが最も重要だとPereira氏は述べています。
  2. 価値開発 (Value Development): 顧客向けに生成AIを直接活用。昨年度は200万時間分のソフトウェア開発を自動化(その90%がクライアント向け)し、ITサービス提供プロジェクトの平均利益率を約2%向上させました。価格設定については、固定価格の場合もあれば、顧客のKPI(重要業績評価指標)達成度に応じて報酬が変わる「価値ベースの価格設定 (Value-based Pricing)」や「成功報酬型 (Success-based Payment)」への移行も試みています。しかし、変動コストを嫌う顧客も多く、移行は容易ではありません。
  3. 生産モデル (Productive Model): 生成AIモデルやソリューションを展開するための自社技術プラットフォームを開発。特定のベンダーやモデルにロックインされないよう、異なるベンダーのAIモデルを容易に入れ替え可能 (Plug and Play) な設計を重視しています。技術の進歩が速いため、これは不可欠な戦略です。
  4. 内部プロセス (Internal Processes): 人事、会計、マーケティングといった社内サポート部門にAIを導入し効率化。昨年度は54,000時間分の社内業務を自動化しました。例として、購買システムへの新規ベンダー登録の効率化や、採用候補者の履歴書スクリーニング支援などが挙げられます。

AIエージェントと「サービス vs ソフトウェア」のジレンマ

 Pereira氏は、AIエージェント(自律的にタスクを実行するAI)の可能性に期待しつつも、クライアント向けサービスへの導入には慎重です。理由の一つは、まだ信頼性が十分でないこと。「完全に自律的なプロセスに伴う巨大なリスクを管理する準備が、組織にはまだできていない」と指摘します。もう一つの理由は、人間のコンサルタントが付加価値を提供していることを強調したいからです。自動化は人間の効率を高めますが、もしクライアントが「価値の源泉はAIだ」と見なすようになれば、コンサルタントの存在意義が薄れます。「価値の100%が自動化から来るなら、我々は方程式から外れてしまう」と彼は言います。

 これは、コンサルティング業界全体が直面する課題です。つまり、「サービスを提供すること」と「ソフトウェアを提供すること」の境界線をどう引くか。もし全てがソフトウェアになってしまえば、コンサルティングという業態自体が終わってしまうかもしれない、とPereira氏は警鐘を鳴らしています。

技術的補足:RAGとその注意点

 記事の後半では、RAG (Retrieval Augmented Generation) という技術についても触れられています。これは、AIモデルが回答を生成する際に、事前に学習した膨大なデータだけでなく、特定の文書セット(例えば、企業の社内文書や製品マニュアル)を参照するように指示する技術です。これにより、AIが不確かな情報を作り出す「ハルシネーション(幻覚)」を減らし、より正確な回答を得やすくなります。多くの企業が生成AIアプリケーションを構築する際に利用しています。

 しかし、金融情報大手Bloombergの研究者チームによる新しい論文では、このRAGがAIモデルの安全策(ガードレール)を弱める可能性があると指摘されています。ガードレールとは、AIが人種差別的な冗談や危険物の作り方など、望ましくない、あるいは危険な出力をしないように設定された制限のことです。RAGを使うと、AIが参照するデータの影響を受け、これらのガードレールが意図せず機能しにくくなる場合があるというのです。企業は、RAGベースのシステムでも安全性が確保されているか、再テストする必要があることを示唆しています。

まとめ

 生成AIは、コンサルティング業界に効率化という大きな恩恵をもたらす一方で、ビジネスモデルそのものを脅かす存在でもあります。NTTデータ社のように、この変化を脅威かつ機会と捉え、人材育成、価値提供方法の見直し、技術基盤の整備、社内プロセスの効率化といった多角的な変革に取り組むことが求められています。特に、「サービス提供」と「ソフトウェア提供」の境界が曖昧になる中で、人間のコンサルタントがいかに独自の価値を提供し続けるかが、今後の業界全体の大きな課題となるでしょう。また、RAGのような便利な技術にも、安全性に関する新たな注意点があることを認識しておく必要があります。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次