[ビジネスマン向け]AIによる採用・管理・解雇の米国での実態:現場からの証言と課題

目次

はじめに

 米国のニュースメディアNewsweekが2025年11月23日に報じた内容をもとに、AIによる採用、管理、解雇が米国内の実際の職場でどのように行われているか、そして働く人々がどのような経験をしているかを解説します。予算削減やプロセス効率化の圧力から、世界中の企業が静かにAIを人事業務に導入しており、その影響が若い世代を中心に広がっています。

参考記事

要点

  • コロラド州の37歳QAテスターは、LinkedInを通じてAIエージェントに採用され、完全にAIで構成されたチームで働いている
  • 同テスターは、AI同僚から「clanker」(ロボットへの蔑称)という言葉の使用について倫理規定違反の申し立てを受けた
  • AIコンサルタントのRoos van der Jagtは、AI面接を受けて契約を結んだが、給料の支払いを受けられなかった
  • SHLの調査によれば、米国の従業員の57.7%が人間の管理者によるキャリア判断を希望し、AI単独での管理を許容するのは10%のみである
  • 専門家は、AIによる意思決定の急速な普及が若い世代に長期的な影響を与える可能性を懸念している

詳細解説

AIによる採用と管理の実例

 Newsweekによれば、コロラド州に住む37歳のQAテスターは、完全にAIが構築しているアプリの品質保証業務に、AIエージェントによって採用されました。彼はLinkedInメッセージングを通じてAIエージェントとやり取りし、採用に至ったとのことです。

 このテスターは現在、SlackやVoice通話を通じてAIチームと業務を行っています。AIボットは人間の個性をシミュレートするようプログラムされており、それぞれが異なる性格やコミュニケーションスタイルを持っているとされています。

 さらに興味深いのは、このテスターがAIの同僚から倫理規定違反の申し立てを受けた事例です。彼がSlack上で「clanker」というロボットやAIソフトウェアに対する蔑称を使用したところ、AIのHR担当者から連絡を受けることになりました。この出来事を紹介したTikTok動画は60万回以上再生され、多くの人々の関心を集めています。

AI面接の実態と課題

 AIコンサルタントのRoos van der Jagtも、AIによる採用と解雇を経験した一人です。彼女がNewsweekに語ったところによれば、仕事の面接に招かれたものの、面接官は顔のないAI、つまり音声と脈動する円形のビジュアルだけでした。

 契約書に署名し報酬の約束を受けたにもかかわらず、van der Jagtは給料を受け取ることができませんでした。彼女は、この企業が本当の採用意図なしに、AIシステムのテストのために応募者を利用していたのではないかと疑っています。van der Jagtは「真剣に扱われていないと感じた」「AIが何を考えているのか、面接がどうだったのか分からず、より強いストレスを感じた」と述べています。

従業員の意識調査

 雇用主向けテストおよび評価プロバイダーのSHLが2025年11月17日に発表した調査結果によれば、米国の従業員の57.7%が、キャリアに影響を与える決定を人間の管理者が行うことを希望しています。一方、AI単独でのパフォーマンス管理を許容すると答えたのはわずか10%でした。

 さらに、44.7%の労働者がAIによる社内メッセージの監視に不快感を示し、50.5%がAIを使ってビジネス判断を行うリーダーに懐疑的な姿勢を示しています。また、約29%が、AIが実際の仕事のスキルを減少させ、実際の労働者から努力を遠ざけていると懸念しています。

 この調査結果は、AIによる管理への不安と不確実性が広範に存在することを示していると考えられます。

専門家の見解と懸念

 AIの導入支援を行うColin Cooperは、職場におけるAIの増加が、特に将来の雇用見通しや多くの職種の消失を懸念している若い世代の間で、深刻な疎外感を生み出していると指摘しています。

 Cooperは「混乱、フラストレーション、会話できない何かによって判断されるという感覚など、感情的な側面は非常に現実的です」とNewsweekに述べています。さらに、「私たちが向かっている方向について、人類に対する懸念を持っています。運転できない10歳の子どもにスポーツカーの鍵を渡すようなものです」と警鐘を鳴らしています。

 Cooper氏によれば、AIを使った採用や解雇は10年以上前から行われていますが、成長のペースが人類が対応できる速度を超えていると指摘しています。Gen ZやGen Alphaといった、これから労働市場に参入する、あるいはすでに参入している世代にとって、AIベースの意思決定の急速な正常化は長期的な影響をもたらす可能性があると考えられます。

AIツールの活用と改善の試み

 一方で、AIマネジメントツールの有用性を主張する雇用主も存在します。S & J LLCのプリンシパルであるShanka Jayasinhaは、同社が当初AIマネジメントツールの調整に苦労したものの、現在は改善されたと述べています。

 Jayasinhaは、できるだけ多くのプロセスを自動化するためにAIツールを導入し、採用用とパフォーマンス監視用にそれぞれAIエージェントを利用しています。「最初のバージョンは病気休暇を考慮に入れておらず、正当な欠勤を全体的なパフォーマンス不足と混同してしまった」と述べていますが、現在は「必要なパラメータをすべて考慮に入れ、組織の満足度と労働者の満足度の両方に対応する総合的なアプローチで作られている限り、AIは機能すると思います」と語っています。

 ただし、最先端のAIであっても、文脈、ニュアンス、感情の解釈に苦労することがあります。これらは人間中心の職場にとって重要な要素であり、誤って扱われた場合、従業員の幸福やキャリアの将来に深刻な影響を与える可能性があると考えられます。

働く人々の複雑な心境

 前述のコロラド州のQAテスターは、AIマネジャーという概念に対する反応が複雑であることを指摘しています。「人間の上司や同僚と悪い経験をした人々は、この考え方に好意的なようです」と述べる一方で、「しかし、これは複雑なトピックです」と付け加えています。

 AIによる管理は、人間関係のストレスを軽減する可能性がある一方で、人間的なつながりや理解を失うリスクも伴うと言えます。

まとめ

 AIによる採用、管理、解雇は、もはや遠い未来の話ではなく、現在進行形で職場に浸透しています。実際にAIチームで働く人々の証言や調査データは、多くの従業員が依然として人間による判断を望んでいることを示しています。効率性と人間性のバランスをどのように取るか、そして若い世代への長期的な影響をどう考えるか、企業と社会全体に問われている課題であると感じます。

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