[ニュース解説]AIが紡ぐ新たな流行:海外のSNSで流行する奇妙で中毒性の高い「猫のメロドラマ」とは

目次

はじめに

 海外のソーシャルメディア上で、これまでにない新しいタイプの「猫動画」が注目を集めているのをご存知でしょうか。それは、AIによって生成された、擬人化された猫たちが過酷な運命や愛憎劇を繰り広げる、短く奇妙なメロドラマです。本稿ではこの新しい現象について、その背景や技術的な側面を補足しながら、分かりやすく解説します。

参考記事

要点

  • AIによって、擬人化された猫が不倫、復讐、暴力といったメロドラマ(昼ドラ)のような物語を演じる短尺動画が生成され、SNSで人気を博している。
  • 動画は、筋肉質で人間のような体を持つ猫、奇妙で不穏なストーリー、速い展開、そしてビリー・アイリッシュの楽曲を猫の鳴き声でカバーしたBGMなどを特徴とする。
  • これらのコンテンツは、インターネット上で長年親しまれてきた「擬人化された動物ミーム」の系譜に連なる新しい現象である。
  • 背景には、テキストから動画を生成するAI技術の進化があり、誰でも簡単に奇抜なストーリーの動画を作成できるようになったことが挙げられる。

詳細解説

AIが生成する「猫のメロドラマ」とは?

 現在、TikTokやYouTubeショートなどのプラットフォームで数百万回以上再生されているのが、AIによって生成された一連の猫動画です。しかし、これらは私たちが普段目にするような、愛らしい猫の日常を切り取ったものではありません。

 動画に登場するのは、漫画のように太った猫や、不自然なほど筋肉質で脈打つ血管まで見える人間の体を持つ猫たちです。彼らは人間のように服を着て、二本足で歩き、仕事をしたり、豪邸に住んだりしています。そして、わずか30秒から1分程度の短い時間の中で、裏切り、不倫、事故、復讐といった、まるで昼のメロドラマのような凝縮された物語を演じます。

 参考記事で紹介されている例をいくつか見てみましょう。

  • ある動画では、のこぎりで木材を加工中に誤って自分の手を切り落としてしまった猫が、解雇された上に妻にも離婚され、人生のどん底に突き落とされます。
  • また別の動画では、サメが泳ぐ海に落ちた赤ちゃんを、カプリパンツを履いた筋肉質な猫がサメを殴り倒して救出し、養子にしてビバリーヒルズの豪邸で幸せに暮らします。
  • 中には、アメリカ南部の綿花畑で白人の猫に鞭で打たれる黒人の猫を描いた、暴力的で不穏な内容のものさえあります。

 これらの動画の多くには、ビリー・アイリッシュのヒット曲『What Was I Made For?』を、猫の鳴き声でカバーしたものがBGMとして使われており、その物悲しいメロディが奇妙な物語に一層の深み(あるいは不気味さ)を与えています。

なぜ人々はこれらの動画に惹きつけられるのか?

 インターネットの歴史において、猫を擬人化する文化は古くから存在しました。英語で書かれた面白いキャプションを付けた猫の写真(「I can haz cheezburger?」など)や、不機嫌な表情で一世を風靡した「グランピーキャット」などがその代表例です。

 今回のAI猫動画は、この「擬人化された猫」というインターネットミームの最新形態と捉えることができます。しかし、従来のものと大きく異なるのは、その物語の過激さと展開の速さ、そしてAIによって生み出された独特の不気味さです。視聴者は、その奇妙で予測不可能なストーリー展開に、思わず最後まで見てしまう中毒性を感じているのかもしれません。記事の筆者は、これらの物語が「富、裏切り、スキャンダル、許しについての現代の寓話」のようにも見えると考察しています。

技術的な背景:誰でも動画クリエイターになれる時代

 参考記事では深く言及されていませんが、この現象の背景にはテキストから動画を生成するAI(Text-to-Video)技術の急速な進化があります。

 以前は専門的な知識や高価なソフトウェアが必要だった動画制作が、現在では「筋肉質な猫がサメと戦う」といった簡単な文章(プロンプト)を入力するだけで、AIが自動的に動画を生成してくれるようになりました。OpenAIの「Sora」などがその代表例です。

 この技術の普及により、誰もがクリエイターとなり、自らのアイデアを簡単に映像化できるようになったのです。その結果、人々の注目を集めるために、より刺激的で、より奇抜なストーリーの動画が次々と生み出されるようになりました。今回取り上げた猫動画も、そうしたAI時代のコンテンツ制作のあり方を象徴する一例と言えるでしょう。

まとめ

 本稿で紹介したAI生成による「猫のメロドラマ」動画は、単なる一過性の奇妙なブームではありません。これは、AIという新しい技術と、インターネットのミーム文化が交差することで生まれた、新しい表現の形です。

 これらの動画は、私たちにエンターテイメントを提供すると同時に、AIがコンテンツ制作のあり方をどのように変えていくのか、そしてその中で何が面白いコンテンツとして受け入れられていくのかを問いかけています。今後、AIによるコンテンツ生成はさらに加速し、私たちの文化やコミュニケーションに、より大きな影響を与えていくことになるでしょう。

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