[ニュース解説]AIの電力消費、爆発的増加の真実:IEAレポートから読み解く現状と未来

目次

はじめに

 近年、ニュースで「AI」という言葉を目にしない日はないほど、私たちの社会に急速に浸透しています。その一方で、AIの進化がもたらす電力消費の増加について、漠然とした不安を感じている方も多いのではないでしょうか。AIはどれほどの電力を消費し、それは私たちのエネルギー供給にどのような影響を与えるのでしょうか?

 本稿では、国際エネルギー機関(IEA)が発表したAIとエネルギーに関する詳細なレポートに基づき、MIT Technology Reviewに掲載された記事「These four charts sum up the state of AI and energy」を引用しながら、AIとエネルギー消費の現状と未来について、分かりやすく解説します。

引用元情報

・本稿中の画像に関しては特に明示がない場合、引用元記事より引用しております。
・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

要点

  • AIの電力消費は急増中: AI技術の発展に伴い、データセンターの電力需要が爆発的に増加しています。今後5年間で、現在の日本の総電力消費量を超える可能性があります
  • 当面は化石燃料が主力: データセンターが必要とする電力は、短期的には天然ガスや石炭などの化石燃料によって賄われる割合が大きくなります。しかし、2030年以降は再生可能エネルギーや原子力が重要な役割を果たす可能性があります。
  • 全体から見れば一部: データセンターの電力需要増加は大きいものの、2030年までの世界の電力需要増加全体で見ると、電気自動車(EV)、エアコン、その他家電製品による需要増の方が大きいと予測されています。ただし、地域によってはデータセンターが電力需要増の主要因となる場合もあります。
  • 地域集中と都市近郊: データセンターは特定の地域に集中し、都市部の近くに建設される傾向があります。これは、電力網にとって特有の課題(地域的な供給逼迫や化石燃料依存)を生む可能性があります。

詳細解説

1. AIは電力の大食漢:急増するデータセンターの需要

 AI、特に大規模なモデルの学習や推論には、膨大な計算処理能力が必要です。この計算処理を行うのがデータセンターであり、その稼働には大量の電力が消費されます。

 IEAのレポートによると、データセンターの電力消費量は2020年には300テラワット時(TWh)未満でしたが、今後5年間で1,000テラワット時近くまで増加する可能性があると指摘されています。1,000TWhという数字は、現在の日本の年間総電力消費量(約939TWh ※2022年度)を上回る規模であり、いかにAIの電力需要が急増しているかが分かります。(※1TWhは10億キロワット時)

 現在、世界のデータセンター容量の約45%は米国に集中しており、次いで中国が多くを占めています。この傾向は2035年まで続くと予測されており、これらの国々での電力供給が大きな課題となります。

2. 電力の供給源:化石燃料から再生可能エネルギー・原子力へ?

 急増するデータセンターの電力をどのように賄うのか、これは非常に重要な問題です。IEAのレポートでは、短期的には天然ガスや石炭といった化石燃料による発電量が、特に米国を中心に増加すると予測されています。

 一方で、長期的には再生可能エネルギー(太陽光、風力など)が重要な役割を果たすと期待されています。IEAは、2035年までに世界の電力需要増加分の約半分が再生可能エネルギーで賄われると比較的楽観的な見通しを示しており、特に欧州では85%に達すると予測しています。

 また、大手テック企業が注目する原子力も、2030年以降、二酸化炭素排出を抑えながら安定的に電力を供給する手段として存在感を増す可能性があります。

 ただし、エネルギーコンサルタント会社BloombergNEFの別のレポートでは、IEAの予測よりも化石燃料の役割が大きくなり、2035年までの追加発電量の3分の2を占めるとの見方もあり、今後の動向を注視する必要があります。

3. 全体像の中での位置づけ:AIだけではない電力需要の増加

 AIとデータセンターの電力需要増加は著しいですが、エネルギー問題の全体像を見ることも重要です。IEAの予測によれば、2030年までの世界の電力需要増加において、電気自動車(EV)、エアコン、その他家電製品は、それぞれデータセンターよりも大きな需要増をもたらします。データセンターが占める割合は、2030年までの総需要増加分の約8%強にとどまります。

 ただし、これは世界全体で見た場合の話です。経済成長が著しい国々では、エアコンなどの需要増がデータセンターを上回るでしょう。一方で、米国のように消費者や産業界の電力需要が比較的横ばいであった国では、高性能コンピューティング(AIを含む)による新たな需要増が、全体の増加分に占める割合はより大きくなります。

4. データセンターの立地特性と電力網への影響

 データセンターは、他の大規模な電力消費施設(セメント工場、アルミ精錬所、炭鉱など)とは異なる特徴を持っています。

 第一に、特定の地域に集中する傾向があります。世界全体で見ればデータセンターの電力消費は総需要の約1.5%ですが、アイルランドでは20%、米国のバージニア州では25%にも達します。現在開発中のデータセンターの半数が既存の集積地に建設されていることからも、この傾向は続くと考えられます。

 第二に、工場や鉱山など他のエネルギー集約型施設と比較して、都市部に近い場所に立地する傾向があります。

 このように、データセンターが互いに近接し、かつ人口密集地の近くに位置することは、地域レベルで大きな影響を与える可能性があります。具体的には、都市部近郊での化石燃料発電所の増設につながったり、地域の電力網に大きな負荷を与えたりする(あるいはその両方)といった課題が考えられます。

まとめ

 本稿では、IEAのレポートとMIT Technology Reviewの記事を基に、AIとデータセンターがもたらす電力消費の現状と未来について解説しました。

 AIとデータセンターは、間違いなく今後の電力需要を牽引する大きな要因の一つです。エネルギー問題の全体像の一部ではありますが、その特異な性質を理解し、持続可能なエネルギー供給体制を構築していくことが、今後の重要な課題となるでしょう。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次