はじめに
本稿では、New York Postが報じた「AI could ‘devastate’ Earth’s population down to the size of the UK by 2300, expert warns: ‘People really don’t have a clue’」という記事をもとに、人工知能(AI)の急速な発展が、将来の社会、特に人口動態にどのような影響を与える可能性があるのかについて解説します。
引用元記事
- タイトル: AI could ‘devastate’ Earth’s population down to the size of the UK by 2300, expert warns: ‘People really don’t have a clue’
- 発行元: New York Post
- 発行日: 2025年6月2日
- URL: https://nypost.com/2025/06/02/tech/ai-could-devastate-earths-population-down-to-the-size-of-the-uk-by-2300-expert-warns-people-really-dont-have-a-clue/

要点
- オクラホマ州立大学のコンピュータサイエンス専門家、スバッシュ・カック氏は、AIが社会に遍在することで、現在の約80億人の世界人口が2300年までにわずか1億人にまで減少する可能性があると予測している。
- この人口減少の主な原因は、AIによる雇用の代替であり、これにより人々が子供を持つことに消極的になり、出生率が大幅に低下するためである。
- カック氏は、この未来が核戦争や映画「ターミネーター」のようなシナリオではなく、AIが人間の仕事を広範囲にわたって代替することによって静かに進行すると指摘している。
- 既にヨーロッパ、中国、日本、特に韓国では人口減少の傾向が見られ、このトレンドを反転させることは非常に困難であるとされている。
- SpaceXのイーロン・マスク氏も同様の人口減少と出生率低下について警告しており、火星移住計画の理由の一つとして挙げている。
詳細解説
近年、AI(人工知能)技術は目覚ましい進歩を遂げ、私たちの生活のあらゆる側面に影響を与え始めています。自動運転車から医療診断、さらには芸術作品の創作に至るまで、AIの応用範囲は拡大の一途をたどっています。しかし、この技術革新がもたらす未来について、警鐘を鳴らす専門家もいます。
AIによる雇用の代替と社会への影響
引用元の記事で紹介されているスバッシュ・カック氏は、オクラホマ州立大学でコンピュータサイエンスを教える専門家であり、「Age of Artificial Intelligence(人工知能の時代)」の著者でもあります。カック氏は、AIが人間の仕事を広範囲にわたって代替する未来を予測しています。彼によれば、「コンピュータやロボットが決して意識を持つことはないでしょうが、私たちの生活で行うことのほとんどは代替可能なので、文字通り私たちが行うすべてのことを行うようになるでしょう」とのことです。
AIが法律、学術、さらには恋愛といった分野にまで進出し、人間を時代遅れにするのではないかという懸念が技術専門家の間で広がっています。カック氏が特に強調するのは、この雇用の代替が社会構造に与える深刻な影響です。仕事がAIに奪われる未来が現実味を帯びる中で、人々は子供を持つことに躊躇するようになる可能性があります。特に、子供を育てるには莫大な費用がかかる現代において、将来的に子供たちが安定した職に就けるかどうかの不安は、出生率の低下に直結すると考えられます。
人口激減のシナリオ
カック氏の理論では、AIによる雇用代替が進むことで出生率が急落し、その結果として世界人口は壊滅的な打撃を受けるとされています。彼は、「結果として世界人口は崩壊し、2300年か2380年には地球全体の人口がわずか1億人まで減少する可能性があると示唆する人口統計学者がいます」と警告しています。現在の世界人口が約80億人であることを考えると、これは衝撃的な減少と言わざるを得ません。
カック氏はこの予測について、「これは単なる私の個人的な意見ではありません。本には全てのデータがあります」と述べ、この人口減少が既に私たちの目の前で起こっている現象だと主張しています。具体例として、「人々は子供を持つのをやめています。ヨーロッパ、中国、日本、そして現在最も急激な人口減少が起きているのは韓国です」と指摘しています。日本も名指しされており、私たちにとって他人事ではない問題です。
彼によれば、これらの傾向が今後も継続するとは断言できないものの、「多くの人々がさまざまな理由で子供を持つため、これらを反転させることは非常に困難です」と述べています。その理由の一つとして、「もちろん社会的なものがあります。あなたの心の奥底には、未来がどのようになるかという感覚があるのです」と、人々の将来に対する漠然とした不安感が出産行動に影響を与える可能性を示唆しています。
イーロン・マスク氏の警告と火星移住
このような人口減少への警鐘は、カック氏だけが鳴らしているわけではありません。SpaceXの創設者であるイーロン・マスク氏も、以前から出生率の低下と人口減少について強い懸念を表明しており、それを火星移住計画の理論的根拠の一つとしています。カック氏は、「だからこそマスク氏は、人類は宇宙へ行くべきだ、他の場所に植民地を建設すべきだ、そうすれば地球にそのような悲劇が襲った場合でも、再び種をまくことができると言っているのです」と述べています。
静かなる危機
カック氏は、人類が絶滅するかどうかについては確信がないとしつつも、「私たちの目の前で人口崩壊が起きていることは絶対に確実です」と断言しています。重要なのは、この未来が映画「ターミネーター」のような派手な破壊や戦争によってもたらされるのではなく、AIによる社会構造の静かな変革、すなわち雇用の喪失とそれに伴う出生行動の変化によって引き起こされるという点です。
カック氏の警告は、AI技術の発展がもたらす光と影の一側面を浮き彫りにしています。技術の進歩そのものは中立的ですが、それが社会にどのような影響を与えるかは、私たちがどのようにその技術と向き合い、社会システムを設計していくかにかかっています。
まとめ
本稿では、New York Postの記事を基に、AIの普及が将来の人口に深刻な影響を与え、2300年までには世界人口が現在の英国の人口(約6700万人、記事では1億人と表現されているが、英国の人口規模にまで減少するという比喩)程度まで激減する可能性があるという専門家の警告を紹介しました。 この予測は、AIが人間の仕事を代替することで経済的な不安が増大し、人々が子供を持つことをためらうようになるというシナリオに基づいています。これは遠い未来のSF的な話ではなく、既にいくつかの国で見られる人口減少の兆候や、AI技術の急速な進化を考慮すると、私たちが真剣に議論し、備えるべき課題であると言えるでしょう。