[ビジネスマン向け]AI需要が変える半導体市場と投資トレンド:Samsung好決算とBlackRockの資金シフトが示す業界の転換点

目次

はじめに

 AI需要の拡大が、半導体製造と投資市場の両面で大きな変化を引き起こしています。Reutersが2025年10月13日に報じたSamsung Electronicsの好調な業績予測と、CNBCが10月11日に報じたBlackRockが観察する投資トレンドの変化は、AI市場の成長が産業構造にもたらす影響を示しています。本稿では、これら2つの報道をもとに、AI需要が半導体市場と投資の流れをどのように変えているかを解説します。

参考記事

メイン記事(Reuters報道): 

投資市場の動向(CNBC報道):

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要点

  • Samsung Electronicsは2025年第3四半期に10.1兆ウォン(71.1億ドル)の営業利益を記録する見込みで、これは2022年以来最高の第3四半期利益である
  • AI関連のサーバー需要増加により、DRAM等の従来型メモリチップ価格が前年同期比171.8%上昇した
  • BlackRockは投資家が従来のテクノロジーセクターからAI特化型ETFへ資金をシフトさせている傾向を観察している
  • iShares A.I. Innovation and Tech Active ETF(BAI)は開始以来36%上昇し、Nvidia、Broadcom、Meta、Microsoftなどを主要保有銘柄としている
  • Samsungは最新のHBMチップをNvidiaに供給できておらず、SK HynixやMicronに遅れを取っているが、OpenAIやTeslaとの供給契約により市場センチメントは改善傾向にある

詳細解説

Samsung Electronicsの業績回復:AI需要が牽引する従来型メモリチップ市場

 Reuters報道によれば、Samsung Electronicsは2025年7-9月期に10.1兆ウォン(71.1億ドル)の営業利益を記録する見込みです。これは前年同期比10%増となり、2022年以来最高の第3四半期利益となります。この予測はLSEGが31人のアナリストの推計を集計したSmartEstimateに基づいています。

 アナリストたちは、この業績回復の主な要因を従来型メモリチップの価格上昇に求めています。ChatGPTなどのAIサービスへの投資増加により、ハイパースケーラーや一般的なサーバーへの負荷が高まり、メモリチップ需要が拡大しました。TrendForceのデータによれば、サーバー、スマートフォン、PCで広く使用されているDRAMチップの価格は、第3四半期に前年同期比171.8%も上昇しています。

 この価格上昇は、顧客が在庫を再構築するプロセスにおけるサーバー需要の増加によって支えられています。AI開発の進展により、データセンターやクラウドサービスプロバイダーが設備投資を積極化させていることが背景にあると考えられます。

HBM市場での課題:競合との差が鮮明に

 一方で、Reuters報道では、SamsungがAI開発に不可欠なHBM(High-Bandwidth Memory)チップの販売で苦戦していることも指摘されています。HBMチップは、チップを垂直に積層することで消費電力を削減し、大規模データセットの処理を可能にする技術です。

 アナリストによれば、Samsungは最新の12層HBM3Eチップをまだ主要顧客であるNvidiaに供給できていません。この遅れは、同社の利益と株価に影響を与えています。対照的に、SK HynixやMicronはAI駆動の需要からより多くの利益を得ています。

 また、Samsungが中国市場へのエクスポージャーを持っていることも制約要因となっています。米国が中国への先端チップ販売を制限しているため、Samsungの成長が抑制されているという分析もあります。

市場センチメントの改善:OpenAIとTeslaとの契約が転機に

 Reuters報道では、Samsungの事業見通しについて前向きな材料も紹介されています。同社がOpenAIやTeslaなどの主要顧客との供給契約を確保したことで、メモリおよび受託半導体製造事業に対する市場センチメントが改善する見込みだとアナリストは指摘しています。

 Samsungの株価は、2025年7月にTeslaとのチップ供給契約を発表して以来、43%以上上昇しました。また、10月上旬のOpenAI CEO Sam Altmanによる韓国訪問時には、Samsung、SK Hynix、OpenAIがStargateプロジェクトへの先端メモリチップ供給に関するパートナーシップを発表しています。

 NH Investment & SecuritiesのシニアアナリストであるRyu Young-ho氏は、OpenAIとAMDとのAIチップ供給契約も、AMDがSamsungの主要HBM顧客の一つであるため、Samsungに利益をもたらすと述べています。さらに、Teslaとの165億ドルのファウンドリ契約は、Samsungが苦戦している受託チップ製造事業が、計画通りにプロジェクトを遂行すれば、主要テクノロジー企業からより多くの受注を獲得できるという期待を高めたとも指摘しています。

不確実性の要素:関税とレアアース規制

 Reuters報道では、前向きな展望と同時に、不確実性についても言及されています。アナリストは、チップに対する米国の関税の可能性や、中国による先端チップおよび製造装置に使用されるレアアース材料の輸出規制強化などが、リスク要因として残っていると警告しています。

 これらの地政学的リスクは、サプライチェーンの安定性や製造コストに影響を与える可能性があり、今後の業績予測においても注視すべき要素と言えるでしょう。

BlackRockが捉える投資トレンドの変化:AI特化型ETFへのシフト

 CNBC報道によれば、BlackRockの米国株式ETF部門責任者であるJay Jacobs氏は、ビッグテック投資家の間で顕著な変化を観察しています。投資家たちは従来のテクノロジーセクターから離れ、AIなどのより特定のテーマに焦点を当てた投資に移行しているといいます。

 Jacobs氏はCNBCの番組「ETF Edge」で、「今年最も大きな取引の一つは、人々が従来のテクノロジーセクターを離れ、BlackRockのBAI(iShares A.I. Innovation and Tech Active ETF)のようなAI特化型ETFにより細分化された投資を行っていることです」と述べています。

 このファンドは、半導体製造業者から大規模言語モデルまで、AIエコシステム全体への投資機会を提供するとJacobs氏は説明しています。BlackRockのiSharesウェブサイトによれば、BAIの主要保有銘柄には、Nvidia、Broadcom、Meta Platforms、Microsoftが含まれています。

BAIの実績とブロックチェーン投資の台頭

 CNBC報道では、BAIのパフォーマンスについても詳しく報じられています。Factsetの計算によれば、電子技術とテクノロジーサービス株がBAIの保有銘柄の85%以上を占めています。2025年10月9日金曜日には、テクノロジー株主体のナスダックとともに約5%下落しましたが、2024年10月21日の開始以来36%上昇しています。

 Jacobs氏はまた、ブロックチェーン関連株についても強気の見方を示しています。Ethereumへの強い熱意が、大きな投資家の関心を引き起こしているとのことです。同氏は、BlackRockのiShares Ethereum Trust ETF(ETHA)が、Ethereumの現物価格を追跡するパッシブ運用ファンドとして、この傾向の恩恵を受けていると主張しています。金曜日の終値時点で、過去12週間で約42%上昇しています。

 Jacobs氏は「Ethereumは本当にブロックチェーン技術への賭けであり、ステーブルコインやトークン化などを通じてそれを使用する他の方法への賭けです。人々はこの潜在的に非常に破壊的なテーマをプレイしたいのです」と述べています。

規制環境の変化が後押し

 CNBC報道では、暗号通貨分野の機会についても触れられています。Amplify ETFsの創設者兼CEOであるChristian Magoon氏は、ブロックチェーンインフラの開発や展開に直接関与する企業に投資する、アクティブ運用型のAmplify Transformational Data Sharing ETF(BLOK)を通じて、ブロックチェーンへのエクスポージャーを提供していると説明しています。

 Magoon氏は「決済のためのステーブルコインであれ、不動産や株式で起こりうる資産のトークン化であれ、ブロックチェーンに関する様々なユースケースがあります。これは、テクノロジーだけでなく、フィンテック、そしてもちろん暗号通貨コミュニティにも影響を与える主要なテーマだと考えています」と述べています。

 また、新しい規制が業界の追い風になっていると指摘しています。2025年7月、ドナルド・トランプ大統領がGENIUS Actステーブルコイン法案に署名し、これがステーブルコインへの投資家の信頼を高める可能性があるとされています。

 Magoon氏は「私たちはその分野のパイオニアであり、現政権や取引所、大規模な資本市場参加者からの規制の動きを考えると、上昇傾向は続くと考えています」と付け加えています。BLOKは金曜日に5%以上下落しましたが、過去1年間で約89%上昇しています。

※見解:AI需要が生み出す産業構造の二極化

 これら2つの報道から見えてくるのは、AI需要の拡大が産業構造に複雑な影響を与えているという事実です。特に以下の2点が印象的でした。

 第一に、「AI需要」といっても、その恩恵を受ける企業と取り残される企業の差が鮮明になっているという点です。Samsungは従来型メモリチップでは好調な業績を上げていますが、より付加価値の高いHBM市場では出遅れています。一方、SK HynixやMicronはAI特化型チップで先行しています。同じ半導体業界でも、技術革新のスピードについていけるかどうかで、明暗が分かれる構図が見て取れます。

 第二に、投資家の行動が非常に機敏であることです。BlackRockが観察しているように、投資家は漠然とした「テクノロジーセクター」への投資から、AIやブロックチェーンといった具体的なテーマへの投資に素早くシフトしています。これは、市場が成熟しつつあり、投資家がより戦略的になっていることを示しているのではないでしょうか。

 AI導入支援の現場にいる立場から見ると、こうした市場の変化は中小企業にも影響を及ぼす可能性があります。大手企業がAI投資を加速させる一方で、中小企業が同じペースで投資を進めることは容易ではありません。しかし、BlackRockの報告が示すように、投資市場は既にAI時代を前提に動いています。中小企業も、自社のビジネスモデルにおいてAIをどう位置づけるか、真剣に検討する時期に来ているのではないでしょうか。

 また、地政学的リスクについても注意が必要です。Reutersの報道が指摘する米中間の貿易摩擦やレアアース規制は、グローバルサプライチェーンに依存する企業にとって無視できないリスクです。日本企業も、こうしたリスクを織り込んだ事業計画が求められるでしょう。

まとめ

 AI需要の拡大は、半導体製造の現場と投資市場の両方に大きな変化をもたらしています。Samsung Electronicsの好調な従来型チップ事業と、HBM市場での課題は、技術革新のスピードについていくことの重要性を示しています。一方、BlackRockが観察する投資トレンドの変化は、市場がすでにAI時代を前提に動いていることを物語っています。ビジネスマンとして、こうした大きな潮流をどう自社の戦略に活かすか、考える価値があるのではないでしょうか。

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