はじめに
本稿では、米CNBCが 2025年9月25日に報じた内容を基に、AI開発の最前線で活躍する起業家、アレクサンダー・ワン(Alexandr Wang)氏からの、これからの時代を生きるために必要だと考えていることを解説します。
参考記事
- タイトル: 28-year-old AI billionaire’s advice for teens: ‘Spend all of your time’ doing this and you’ll have a ‘huge advantage’
- 発行元: CNBC
- 発行日: 2025年9月25日
- URL: https://www.cnbc.com/2025/09/25/ai-billionaire-alex-wang-teens-should-spend-all-of-your-time-on-this.html


要点
- AIを活用してコードを自動生成する「AIコーディング」(別名:Vibe Coding)を最大限に使いこなすことが、将来の大きな優位性を生む。
- この技術は、専門的なプログラミング知識がなくても、日常的な言葉で指示を与えるだけでソフトウェアを開発することを可能にする。
- 若者はこの新しいツールに習熟するために時間を投資すべきであり、それはコンピュータ革命の黎明期におけるビル・ゲイツのような先行者利益につながる。
- AIが人間の仕事を代替する可能性は存在するが、プログラミングスキル自体の価値は失われない。むしろ、AIに的確な指示を与えるための基礎知識として、その重要性はさらに高まる。
詳細解説
AI界の若きリーダー、アレクサンダー・ワン氏とは
今回のアドバイスの発信者であるアレクサンダー・ワン氏は、2016年にScale AI社を共同で設立した人物です。この会社は、AIモデルのトレーニングに不可欠な高品質のデータを提供することで急成長し、ワン氏は28歳という若さで純資産10億ドルを超える「ビリオネア」となりました。彼はAI業界の動向を深く理解する立場から、未来のキャリア形成について具体的な提言をしています。
「Vibe Coding」に全ての時間を費やすべき理由
ワン氏が若者、特に13歳くらいのティーンエイジャーに「全ての時間を費やすべき」とまで語るのが、「AIコーディング」、または彼が言うところの「Vibe Coding」です。
これは、AIに自然言語(私たちが普段話している言葉)で「こんなアプリを作って」「この部分のコードを書いて」と指示するだけで、AIが自動でソフトウェアのコードを生成する技術を指します。ReplitやCursorといったツールがその代表例です。
ワン氏は、この技術の登場を「非連続的な瞬間」と表現しています。これは、過去の延長線上にはない、全く新しいルールが生まれる転換点のことです。彼は、コンピュータ革命の初期に、ビル・ゲイツ氏が誰よりも早くコンピュータとソフトウェアの世界に没頭し、後の成功の礎を築いた逸話を引用します。
そして、「その瞬間が、まさに今起きている」と指摘します。つまり、今のうちにAIコーディングツールを誰よりも深く、そして長く使いこなし、その能力を最大限に引き出すスキルを身につけた者が、次の時代の勝者になるという考えです。
AIはプログラマーの仕事を奪うのか?
AIがコードを書けるようになるという話は、ソフトウェアプログラマーという職業の将来性についての懸念も生み出します。事実、ワン氏自身も「私がこれまでの人生で書いてきたコードは全て、今後5年以内にAIモデルによって生成可能になるだろう」と予測しています。
企業がAIコーディングプログラムの利用を増やし、一部では人間のプログラマーの代替として導入する動きも始まっています。
しかし、ワン氏や他の専門家は、それでもプログラミングスキルを学ぶ価値は失われないと主張しています。
AI時代にプログラミングを学ぶ本当の価値
GoogleのAI研究部門であるGoogle Brainの共同創設者、アンドリュー・ン(Andrew Ng)氏は、「コーディングが簡単になるにつれて、コードを書くべき人は減るのではなく、増えるべきだ」と述べています。
これは一見矛盾しているように聞こえるかもしれません。しかし、ここには重要な視点が含まれています。
- AIへの指示能力が最重要スキルになる
将来、コンピュータに「何を」「どのように」作ってほしいかを正確に伝える能力が、極めて重要なスキルになります。プログラミングの知識は、この「伝える力」の精度を飛躍的に高めます。 - AIツールの能力を最大限に引き出せる
コーディングスキルを持つ人材は、AIコーディングツールを誰よりも効果的に活用できます。AIが生成したコードの問題点を特定したり、より高度な要求をしたりすることが可能になるため、雇用主にとって非常に価値のある存在となります。
つまり、AIコーディングは専門家でなくても開発を可能にしますが、プログラミングの知識を持つ者は、AIをより強力なパートナーとして使いこなし、他者には作れない、より精密で質の高いものを生み出すことができるのです。
まとめ
本稿では、AI界の若きリーダー、アレクサンダー・ワン氏の提言を基に、AI時代の新たな学習戦略について解説しました。
重要なのは、AIを仕事を奪う脅威として恐れるのではなく、自身の能力を飛躍的に高めるための強力なツールとして捉え、誰よりも早くその活用法をマスターすることです。そして、そのツールを真に使いこなすためには、基礎となるプログラミングの知識が、AIに意図を正確に伝える「言語能力」として、これまで以上に重要になるでしょう。
変化の激しい時代だからこそ、本質的なスキルを見極め、そこに集中的に時間を投下することが、未来を切り拓く鍵となりそうです。

