[ニュース解説] AIアートの最前線:ルーベン・フローとベンジャミン・バルドーが語る創造の未来

目次

はじめに

 近年、目覚ましい進化を遂げるAI(人工知能)は、ビジネスや研究開発だけでなく、アートの世界にも大きな影響を与え始めています。本稿では、AIを駆使して革新的なアート作品を生み出す二人のアーティスト、ルーベン・フロー氏とベンジャミン・バルドー氏へのインタビュー記事「AI Artifacts: An interview with Ruben Fro and Benjamin Bardou」(Meta AI Blog掲載)をもとに、AIとアートの興味深い関係性をご理解いただけるよう、分かりやすく解説していきます。彼らの作品は、AIが単なる道具ではなく、新たな創造性を引き出すパートナーとなり得ることを示唆しています。

引用元:

要点

  • 二人のアーティストによるAIアートプロジェクト:
    • ルーベン・フロー氏: Meta社のオープンソースAI(SAM 2)を活用し、フランス国立図書館(BnF)の自動書籍搬送システム(TADs)をテーマにした視聴覚作品「Deep Diving」を制作。機械が世界をどう認識するかを視覚化。
    • ベンジャミン・バルドー氏: Meta社のオープンソースAI(Llama)を用い、著名な画家エドガー・ドガの作品を再解釈する「Memories of Paintings」を制作。AIの「人工的な想像力」を通して、芸術作品の記憶を探求。
  • AIは創造プロセスを支援するツール: 両アーティストは、AIをコーディング支援や初期アイデア生成などに活用。AIが人間の創造性を代替するのではなく、拡張する存在であると捉えている。
  • オープンソースAIの活用: 特定企業に縛られない、公開されたAIモデル(SAM 2, Llama)を利用することで、より自由な発想での創作活動が可能に。
  • AI、AR/VRの芸術における可能性: AIはアートの制作・解釈・体験方法を変革し、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)は、今後さらに 몰입感のある体験を提供すると展望。

詳細解説

インタビュー背景:AI Action Summitとアートプロジェクト

 インタビューは、フランスで開催された「AI Action Summit」に合わせて企画されたものです。Meta社は、フランス国立図書館(BnF)、Fisheye Immersiveなどの機関と協力し、オープンソースAIを活用したアートインスタレーションを二人のアーティストに依頼しました。

ルーベン・フロー氏と「Deep Diving」

 東京を拠点とするVFXアーティストのルーベン・フロー氏は、「Deep Diving」という作品で、フランス国立図書館(BnF)の舞台裏を探求しました。BnFにはTADsと呼ばれる、ロボットが書籍を運ぶ自動化システムがあります。フロー氏はこの「知識を運ぶ機械」に着目し、もし機械が世界を見るとしたらどう見えるのか、を表現しようと試みました。

 そのために、彼は「Volumetric Capture(ボリュメトリックキャプチャ)」という、空間全体を3Dデータとして記録する技術や、Meta社が開発した「SAM 2」というAIモデルを使用しました。SAM 2は画像の中から特定の物体や領域を精密に認識・分割(セグメンテーション)できるAIです。フロー氏はこのAIなどを利用し、機械が見るであろう断片的で、時にノイズが混じるようなデジタルな視点を、詩的な映像として再構築しました。彼はAIを、機械的な論理と人間の感情をつなぐ架け橋と捉えています。

ベンジャミン・バルドー氏と「Memories of Paintings」

 フランスの映像作家ベンジャミン・バルドー氏は、印象派の画家エドガー・ドガ(踊り子などの絵画で有名)の作品をテーマに選びました。彼のプロジェクト「Memories of Paintings」は、ドガの作品そのものを再現するのではなく、私たちが絵画を思い出すときの「記憶の中のイメージ」をAIで表現しようとする試みです。

 バルドー氏は、Meta社の「Llama」という、文章生成や対話が得意な大規模言語モデル(LLM)の一種を使用しました。彼はAIに指示を与え、ドガの作品について学習させることで、ドガ風の画像を生成させました。これはAIの「Latent Space(潜在空間)」を探求する行為だと彼は言います。潜在空間とは、AIが学習したデータの特徴やパターンが格納されている、目には見えない抽象的な空間のことです。彼はこの空間を散策するようにAIと対話し、ドガ作品に対する自身の記憶と、AIが学習データから形成した「集合的な記憶」とを重ね合わせようとしました。生成された画像は、彼がドガの絵画を見たときに感じる美的感覚を表現するための素材として使われています。

AIを制作プロセスに組み込む

 両アーティストは、AIを制作の初期段階から活用しています。フロー氏はコーディング支援や3Dデータ生成に、バルドー氏はドガの美学に近づくための画像生成(リサーチプロセス)にAIを用いています。

 AIの導入には課題もあります。思い通りの出力を得るための調整(Fine-tuning)や、既存の制作フローへの統合には手間がかかると言います。しかし、両者ともこれらの課題は一時的なものだと考えており、将来的にはPhotoshopなどの既存ツールのように、AIが直感的に使えるようになると予測しています。重要なのは、AIを単なる自動化ツールとしてではなく、アイデアを発展させたり、新たな視点を与えてくれたりする「共創者」として捉えることです。

AI、AR、VRの未来

 インタビューの最後で、両氏はAI、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)といった技術がアートと社会に与える影響について語っています。AIはすでに情報検索や文章作成など、私たちの日常に浸透し始めており、創造性や問題解決能力を高める力を持っています。AR/VR技術も進化を続けており、将来的にはメガネのようなデバイスを通じて、デジタルな情報や体験が現実世界とシームレスに融合する時代が来ると予測しています。アートの世界においても、これらの技術は、私たちが世界を認識し、表現し、他者と繋がるための新しい方法を切り拓いていくでしょう。

まとめ

 本稿では、AIを活用して独創的なアート作品を生み出すルーベン・フロー氏とベンジャミン・バルドー氏へのインタビュー記事を通して、AIとアートの現在地と未来についてご紹介しました。彼らの活動は、特にオープンソースAIが、アーティストにとって強力な表現ツールとなり得ることを示しています。AIは人間の仕事を奪う存在ではなく、私たちの創造性を刺激し、これまで不可能だった表現を可能にするパートナーとなり得るのです。今後、AIとテクノロジーがアートの世界をどのように変えていくのか、注目していきたいところです。

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