はじめに
本稿では、世界有数のコンサルティング企業であるアクセンチュア社が2025年6月20日に発表したニュースリリース「Accenture Changes Growth Model to Reinvent Itself for the Age of AI」を基に、同社が断行する大規模な組織変更とその背景にある戦略について、解説していきます。
この組織変更は、単なる一企業の再編ニュースではありません。AIがビジネスの中心となる時代において、企業がどのように自らを「再発明」し、価値を提供し続けていくべきかという、普遍的かつ重要なテーマに対するアクセンチュアの回答といえます。
引用元記事
- タイトル: Accenture Changes Growth Model to Reinvent Itself for the Age of AI
- 発行元: Accenture
- 発行日: 2025年6月20日
- URL: https://newsroom.accenture.com/news/2025/accenture-changes-growth-model-to-reinvent-itself-for-the-age-of-ai
要点
- アクセンチュアは2025年9月1日付で、これまで個別に運営してきた主要5サービス部門(戦略、コンサルティング、ソング、テクノロジー、オペレーションズ)を、「Reinvention Services(リインベンション・サービス)」という単一の統合事業部門に再編する。
- この変更の最大の目的は、AI時代におけるクライアントの「事業変革(Reinvention)」を、より迅速かつ統合的に支援することである。
- 新組織では、データとAIを全てのサービスに標準装備のように組み込み、縦割りの組織構造を排して、エンドツーエンドでの価値提供を加速させる。
- これは、コンサルティング業界のビジネスモデルが、従来の「戦略助言」から「AIを活用した変革の実行支援」へと本格的にシフトしていることを象徴する、極めて重要な動きである。
詳細解説
なぜ今、アクセンチュアは大規模な組織変更に踏み切ったのか?
今回の組織変更の背景には、現代のビジネス環境における二つの大きな潮流があります。
一つは、クライアント企業のニーズの変化です。市場の不確実性が高まり、競争が激化する中で、企業はもはや悠長な戦略レポートを求めていません。求めているのは、「より速く、より具体的で、測定可能な成果」です。アクセンチュアは自らを「クライアントの変革パートナー」と位置付けており、この期待にこれまで以上に応える必要がありました。
そしてもう一つが、生成AI(Gen AI)の爆発的な普及です。生成AIは、単なる業務効率化ツールではありません。ビジネスモデルそのものを根底から覆し、新たな価値創造の源泉となる「ゲームチェンジャー」です。アクセンチュアは、このAIの力を最大限に活用し、クライアントの変革をリードするためには、従来の組織構造では不十分だと判断しました。つまり、AIを一部の専門家だけの武器にするのではなく、全社のあらゆるサービスに血液のように行き渡らせる必要があったのです。
変更の核心:「Reinvention Services」とは何か?
今回の変更で最も重要なポイントは、これまでアクセンチュアの強みを支えてきた以下の5つの主要サービスが、一つの傘の下に統合されることです。
- ストラテジー&コンサルティング: 企業の経営戦略や事業戦略を策定する頭脳部分。
- ソング(Song): デジタルマーケティングや顧客体験の向上を担うクリエイティブ集団。
- テクノロジー: システム開発やITインフラ構築を担う技術部隊。
- オペレーションズ: 業務プロセスのアウトソーシング(BPO)などを通じて、企業の日常業務を支える実行部隊。
これまでは、それぞれが高い専門性を持つ独立した組織でした。しかし、これからは「Reinvention Services」として運営されます。
これを分かりやすく例えるならば、これまで各分野の専門医がそれぞれの診察室で患者を診ていた総合病院が、「患者の完全な健康回復(=事業変革)」という唯一の目標のために、全専門医と最新の医療機器(=AI)が一体となった「統合治療センター」を設立するようなものです。
この統合により、以下のようなメリットが生まれます。
- 縦割りの解消とスピード向上: 戦略を立てるチーム、システムを開発するチーム、マーケティングを行うチームが一体となることで、部門間の連携ロスがなくなります。これにより、クライアントの課題に対して、構想から実行、そして成果創出までをシームレスかつ迅速に行えるようになります。
- AIの標準装備: これまでは各部門が個別に取り組んでいたAIの活用が、新組織では標準的な機能として全てのサービスに組み込まれます。戦略を立てる段階からAIによるデータ分析が活用され、開発されるシステムにもAIが搭載され、マーケティングや業務運用もAIによって最適化される、という「AIドリブン」なアプローチが徹底されます。
この変革が日本のビジネスパーソンに与える示唆
アクセンチュアのこの動きは、日本企業にも以下の二つの重要な示唆を与えてくれます。
一つは、自社の「変革」における組織のあり方を見直すきっかけとなることです。多くの日本企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する中で、「部門間の壁」に悩まされています。経営企画部門が立てた戦略がIT部門にうまく伝わらない、IT部門が導入したシステムが現場で使われない、といった問題です。アクセンチュアが自社の組織を統合したように、真の変革のためには、目的達成のために組織の壁を越えて連携する仕組みが不可欠であることを示しています。
もう一つは、これからの時代に求められるパートナーシップの形です。もはや「戦略だけ」「システム開発だけ」を個別に発注する時代は終わりを告げようとしています。アクセンチュアが目指すように、企業のビジネスモデルそのものを「再発明(Reinvention)」するために、AIという強力な武器を共に使いこなし、最後まで伴走してくれるパートナーの価値が飛躍的に高まっていくでしょう。
まとめ
本稿では、アクセンチュアが発表した新成長モデルへの移行について解説しました。
今回の「Reinvention Services」への組織統合は、単なる社内再編ではなく、AIが主導する時代を勝ち抜くための、極めて戦略的な一手です。それは、クライアントのビジネスを「再発明」するという強い意志の表れであり、そのために自らの組織構造さえも大胆に変革するという覚悟を示しています。