[ニュース解説]GeminiとAgentspaceがオンプレミス環境へ!GDCが拓くAI新時代

目次

はじめに

 近年、AI技術は目覚ましい進化を遂げ、多くのビジネスシーンで活用され始めています。しかし、機密性の高いデータを扱う企業や、厳しい規制要件を持つ業界では、データをクラウドに送信することなく、自社の管理下にある環境(オンプレミス)で最新のAI技術を利用したいというニーズが高まっていました。

 本稿では、Google Cloud Next ’25で発表された、Googleの最先端AIモデル「Gemini」とエンタープライズ検索ソリューション「Google Agentspace」をオンプレミス環境で利用可能にする「Google Distributed Cloud (GDC)」に関する発表について、公式ブログ「Bringing Gemini and Google Agentspace to you on-premises」をもとに解説します。

引用元情報

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・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

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要点

  • Googleの高性能AIモデル「Gemini」が、オンプレミス環境向けソリューション「Google Distributed Cloud (GDC)」上で利用可能になります(2025年第3四半期にパブリックプレビュー開始予定)。
  • これにより、規制、データ主権、低遅延、大容量データ処理などの理由でオンプレミス環境での運用が必須だった企業も、Geminiの高度なAI機能を利用できるようになります。
  • GoogleはNVIDIAと提携し、GeminiモデルをNVIDIA Blackwellシステム上で提供します。
  • エンタープライズ向け検索ソリューション「Google Agentspace search」もGDC上で利用可能になり(2025年第3四半期にパブリックプレビュー開始予定)、社内に散在する情報へのセキュアなアクセスを実現します。
  • 既存のVertex AIプラットフォームと組み合わせることで、GDC上で包括的なAI開発・運用環境が提供されます。

詳細解説

なぜオンプレミスAIが重要なのか?

 多くの企業、特に金融、医療、公共機関などでは、顧客情報や機密性の高い研究データなどを扱っています。これらのデータは、法規制や社内ポリシーにより、社外のクラウド環境に持ち出すことが制限されている場合があります。また、製造業におけるリアルタイム制御や、大量のデータを扱う研究開発など、ネットワーク遅延を極限まで抑えたい、あるいは膨大なデータを効率的に処理したいといった理由で、オンプレミス環境でのAI活用が求められるケースも少なくありません。

 従来、こうした企業がAIを活用しようとすると、オープンソースのモデルやツールを自社で組み合わせ、インフラの構築・管理を行う必要がありました。これは専門知識や多大な運用コストを要し、最新AI技術の導入における大きな障壁となっていました。

Google Distributed Cloud (GDC) とは?

 今回、GeminiAgentspaceのオンプレミス展開を実現する基盤となるのが「Google Distributed Cloud (GDC)」です。GDCは、Google Cloudのインフラストラクチャとサービスを、顧客のデータセンターやエッジロケーション(現場に近い場所)に拡張する、フルマネージドのソリューションです。

 GDCは、インターネット接続が常時ある環境(コネクテッド)だけでなく、外部ネットワークから完全に隔離された環境(エアギャップ)でも利用可能です。特にエアギャップ環境は、米国の政府機関における最高機密レベルのミッションでの利用も承認されており、極めて高いセキュリティとコンプライアンスが求められる環境に対応します。GDCはインフラ管理をGoogleが行うため、利用企業はインフラの心配をすることなく、AIアプリケーションの開発や活用に集中できます。

オンプレミス環境でのGemini活用

 Geminiは、Googleが開発した最も高性能なAIモデル群です。100万トークン(非常に長い文章や大量のデータ)のコンテキストを処理でき、テキスト、画像、音声、動画といった多様なデータ形式を扱えるマルチモーダル対応、そして100以上の言語に対応する能力を持っています。

 GDC上でGemini APIを利用することで、企業は以下のようなことが可能になります。

  • 自社データの活用 (RAG): Retrieval Augment Generation (RAG) という技術を用いて、Geminiに自社固有の文書やデータを参照させ、より文脈に沿った、パーソナライズされた回答を生成させることができます。これにより、モデル自体の再学習(ファインチューニング)を行うことなく、専門的な知識をAIに組み込めます。
  • 情報処理と知識抽出の自動化: 長文ドキュメントの要約、レポートやフィードバックからの感情分析、画像や動画へのキャプション自動生成などをAIが行うことで、従業員の生産性を向上させます。
  • 対話型エクスペリエンスの創出: Geminiを活用した高機能な顧客サポートエージェント、自然言語で操作できるチャットボット、従業員向けアシスタントなどを構築し、顧客エンゲージメントや社内業務効率を高めます。
  • 業界特化型エージェントの開発: 金融アドバイザー、セキュリティアシスタント、ロボット制御など、特定の業界や業務に特化した高度な機能を持つAIエージェントを開発できます。

 この実現のため、GoogleはNVIDIAと提携し、最新のNVIDIA Blackwellアーキテクチャを採用したシステム(DGX B200、HGX B200など)上でGeminiを提供します。これにより、オンプレミス環境でも高いパフォーマンスとセキュリティを両立します。

Vertex AIプラットフォームとの連携

 GDCでは、すでにVertex AIプラットフォームが利用可能です。Vertex AIは、AIモデルの開発、デプロイ、管理を加速するための統合プラットフォームです。GDC上のVertex AIは以下の機能を提供し、Geminiと組み合わせることで、オンプレミスでのAI活用をさらに強力に支援します。

  • 事前学習済みAPI: 翻訳、音声認識、OCR(光学的文字認識)など、特定のタスクに最適化されたGoogleの高度なモデルをAPI経由ですぐに利用できます。
  • 生成AI構築ツール: オープンソースやサードパーティ製のAIモデルを、GKE(Google Kubernetes Engine)上で効率的に実行し、迅速な起動と自動スケーリングを実現します。
  • RAG機能: 後述するGoogle Agentspace searchや、API管理ツールのApigeeと連携し、信頼性の高いRAGアプリケーションを構築できます。
  • 組み込みEmbedding APIとAlloyDB: テキストやデータの意味的な類似性を捉えるEmbedding(埋め込み)技術と、ベクトルデータを高速に処理できるAlloyDBデータベースにより、高度なパーソナライゼーションやレコメンデーション機能を実現します。

Google Agentspace searchによる社内情報へのアクセス統一

 多くの企業では、情報がファイルサーバー、社内Wiki(Confluenceなど)、課題管理システム(Jiraなど)、情報共有ポータル(SharePointなど)といった様々な場所に、テキスト、PDF、画像など異なる形式で散在しています。これらのサイロ化された情報の中から必要なものを探し出すのは困難であり、生産性の低下やイノベーションの阻害要因となっています。

 この課題を解決するのが、GDC上で提供される「Google Agentspace search」です。これは、社内のあらゆる情報へのアクセスを、権限を考慮した上で統一的に提供するエンタープライズ検索ソリューションです。

 Agentspace searchは以下の特徴を持ちます。

  • 企業ブランド対応のマルチモーダル検索エージェント: 自然言語での対話を通じて、社内の様々な情報源から関連性の高い情報を探し出し、複雑な質問にも回答できる検索インターフェースを提供します。組織全体の「信頼できる唯一の情報源」として機能します。
  • 構築済みデータコネクタ: Confluence, Jira, ServiceNow, SharePointといった一般的なオンプレミスシステムからデータを効率的に収集(インデックス化)するためのコネクタが用意されています。
  • 権限を考慮した検索結果: アクセス制御リスト(ACL)を厳密に適用し、ユーザーがアクセス権限を持つ情報のみを検索結果に表示するため、セキュリティとコンプライアンスを維持できます。
  • Agentspaceエージェント: Vertex AIと統合されており、検索エージェントをはじめとする様々な事前構築済みエージェントや、カスタムエージェントの構築が可能です。

まとめ

  今回のGoogle Cloud Next ’25での発表は、これまでクラウド利用に制約があった企業にとって、Geminiという最先端のAI技術を自社の管理下で安全に活用するための道を開く、画期的なものです。Google Distributed Cloud (GDC)を基盤とし、Gemini、Vertex AI、そしてGoogle Agentspace searchが連携することで、オンプレミス環境におけるAI活用の可能性は大きく広がります。  高度なセキュリティとコンプライアンスを維持しながら、AIによる業務効率化、新たな顧客体験の創出、そしてイノベーションの加速を目指す企業にとって、GDC上のGeminiAgentspaceは非常に強力な選択肢となるでしょう。2025年第3四半期に開始予定のパブリックプレビューに注目が集まります。

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