[ニュース解説]AIは検索をどう変えた? アクセス激減に苦しむサイト運営者の現実

目次

はじめに

 近年、Google検索はAI技術の導入により大きな変化を遂げています。特に「AI Overviews」と呼ばれるAIによる要約回答機能は、ユーザーにとっては便利な一方で、これまでGoogle検索からのアクセスに頼ってきた多くのウェブサイト運営者にとっては深刻な事態を引き起こしています。本稿では、Bloombergに掲載された記事「Google AI Search Shift Leaves Website Makers Feeling ‘Betrayed’」を基に、この問題の現状、背景、そして今後のウェブのあり方について分かりやすく解説します。

引用元情報

要点

  • Google検索に導入されたAI Overviews(AIによる要約回答)により、多くの独立系ウェブサイトへのアクセス数が急減しています。
  • DIY、旅行、料理、ファッションなど、様々なジャンルのサイト運営者が広告収入の大幅な減少に苦しんでおり、事業の縮小や閉鎖を余儀なくされるケースも出ています。
  • これは、長年続いてきた「質の高いコンテンツを作ればGoogleが読者を送ってくれる」というウェブサイト運営者とGoogleとの共生関係を揺るがす事態です。
  • Googleは問題を認識しつつも、AI機能の導入を進めており、運営者からは「裏切られた」との声が上がっています。
  • この状況が続けば、ウェブ全体の情報品質の低下につながる可能性も指摘されています。

詳細解説

1. 何が起きているのか?:AI Overviewsの衝撃

 皆さんがGoogleで何かを検索した際、検索結果の一番上にAIが生成した要約が表示されるのを見たことがあるかもしれません。下図の赤枠内が「AI Overviews」です。ユーザーは検索結果ページ内で直接答えを得られるため、個別のウェブサイトをクリックして訪問する必要性が低下します。

 Bloombergによると、DIYブログ「Charleston Crafted」を運営するMorgan McBride氏は、Googleの広告に出演するほど良好な関係を築いていましたが、AI Overviewsの導入後、サイトへのアクセスが70%以上も減少したと述べています。同様の報告は、旅行ブログ「The Planet D」など、多くのサイト運営者から寄せられており、Similarweb社の調査でも、小規模から中規模の独立系サイトのトラフィック減少傾向が確認されています。

※補足:ウェブサイト運営とトラフィック
 多くの個人や小規模事業者が運営するウェブサイト(ブログなど)は、サイト内に表示される広告(ディスプレイ広告)や、商品紹介リンクからの購入(アフィリエイト)によって収益を得ています。これらの収益は、サイトを訪れる人の数(トラフィック)に大きく依存します。そのため、Google検索からのトラフィック減少は、運営者にとって死活問題となるのです。

2. なぜGoogleはAI導入を進めるのか?

 Googleは、ユーザーがより迅速に回答を得られるように、また、情報を深く掘り下げる選択肢も提供するために検索を進化させている、と説明しています。AI技術の進展に伴い、ユーザーの情報収集方法も変化しているため、それに対応しようとしているのです。

 しかし、その過程で、これまでGoogle検索のエコシステムを支えてきた独立系ウェブサイト運営者との間に軋轢が生じています。

3. Googleの対応とウェブサイト運営者の苦悩

 Googleは、この問題について一部のウェブサイト運営者を本社に招き、対話の場を設けたこともあります。Bloombergによれば、Google側は運営者のサイトが「有益なコンテンツ」であると認め、謝罪もしたものの、AI時代において検索の仕組みが根本的に変わったため、トラフィック回復の保証はできないと伝えたとのことです。

 さらに、Googleは近年、検索アルゴリズム(検索結果の順位を決める計算式)に多くの変更を加えています。その結果、独立系サイトよりもRedditやQuoraといったフォーラムサイトや、大手メディアの記事が優先される傾向が見られると運営者は指摘しています。

 Googleは長年、「EEAT」(Experience:経験、Expertise:専門性、Authoritativeness:権威性、Trustworthiness:信頼性)というガイドラインを掲げ、質の高いコンテンツ作りを推奨してきました。しかし、運営者たちは「EEATに従って質の高い記事を書いても、トラフィックが回復しない」と訴えています。アウトドアギアレビューサイト「Mountain Weekly News」の創設者は、「誰のために記事を書いているのか分からなくなった」と語っています。

※補足:【技術的側面】AI回答の精度とアルゴリズム
 AI Overviewsが提供する回答は、時に不正確であったり、存在しない商品を推奨したりすることがあると記事では指摘されています。これは、AIが学習する元となるウェブ上の情報の質に依存するためです。また、GoogleはAI生成による低品質なスパムサイトを排除しようとしていますが、その過程で良質な独立系サイトまで影響を受けてしまっている可能性も考えられます。アルゴリズムの変更は非常に複雑で、その意図や影響を正確に把握することは困難です。

 4. ウェブの未来への懸念

 この状況が続けば、質の高い情報を提供してきた独立系のウェブサイト運営者が立ち行かなくなり、結果としてウェブ全体の情報の質が低下するのではないか、という懸念が専門家から示されています。AIが要約を作るためには、元となる質の高い情報源が必要ですが、その情報源自体が減少してしまう可能性があるのです。

 また、Googleはレシピ検索においても、ブログ記事の内容を要約して表示する機能をテストしています。これも、料理ブログ運営者にとってはトラフィックと収益のさらなる減少につながる恐れがあります。

 5. 運営者の模索と「裏切り」

 影響を受けた運営者の多くは、Googleに「裏切られた」と感じています。長年、Googleのガイドラインに従い、良質なコンテンツを提供することで共存してきた関係性が、一方的な方針転換によって崩されたと感じているからです。

 一部の運営者は、事業を閉鎖したり、スタッフを解雇したりせざるを得なくなっています。また、旅行ブログ「The Planet D」の運営者のように、Google検索への依存から脱却し、YouTubeなど他のプラットフォームに活路を見出そうと模索する動きも出てきています。

 まとめ

 本稿では、Google検索におけるAI機能の導入が、独立系ウェブサイト運営者に与えている深刻な影響について解説しました。AI Overviewsなどの新機能は、ユーザーの利便性を向上させる可能性がある一方で、これまでウェブの情報基盤を支えてきた多くの運営者のビジネスモデルを根底から揺るがしています。 この問題は、単にウェブサイト運営者だけの問題ではなく、私たちがインターネット上でどのような情報にアクセスできるようになるのか、というウェブ全体の未来に関わる重要なテーマです。Googleとコンテンツ制作者との関係性が今後どのように変化していくのか、そしてウェブの情報エコシステムがどのように維持されていくのか、注意深く見守る必要があります。ウェブサイト運営者にとっては、Google検索だけに依存せず、多様な集客チャネルを開拓していくことの重要性が増していると言えるでしょう。

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