[ニュース解説]アメリカの大学で起きるAI検出ツールの「軍拡競争」——誤検出に苦しむ学生たちの実態

目次

はじめに

 NBC Newsが2026年1月28日に報じた記事によれば、アメリカの大学キャンパスで、AI検出ツールとAI「ヒューマナイザー」ツールの間で激しい競争が起きています。AI検出ツールの精度問題により、AIを使用していない学生が誤って不正の疑いをかけられるケースが増加しており、一部の学生は退学に追い込まれる事態にまで発展しています。本稿では、教育現場におけるAI検出をめぐる現状と課題について解説します。

参考記事

要点

  • AI検出ツールの精度問題により、AIを使用していない学生が誤って不正行為の疑いをかけられるケースが増加している
  • 学生は「ヒューマナイザー」と呼ばれるツールを使ってAI検出を回避したり、自己監視ツールで作業履歴を記録したりして対応している
  • AI検出ツールは非英語話者を誤検出しやすく、優れた文章を書く学生ほどAI生成と判定される傾向がある
  • 誤検出のストレスから退学を選択する学生や、文章の質を意図的に下げる学生が出ている
  • TurnitinやGPTZeroなどの企業は検出精度向上を図っているが、教授陣は対応に追われ無償労働が増加している

詳細解説

AI検出ツールをめぐる現状

 NBC Newsによれば、生成AIの急速な普及により、多くの大学教授が学生の課題をAI検出ツールでチェックするようになりました。TurnitinやGPTZeroといった企業が提供するこれらのツールは、大規模言語モデルを使って課題が作成されたかどうかを判定します。一部の大学では、このような方法で数百人の学生の不正を摘発したと報告しています。

 しかし、AI検出ツールは登場以来、その信頼性について繰り返し批判されてきました。特に非英語話者を誤検出しやすく、正当な理由なく盗用の疑いをかけられるケースが報告されています。複数の学生が、誤った告発によって受けた精神的苦痛や処罰をめぐって大学を訴える事態にまで発展しています。

誤検出の深刻な影響

 Liberty Universityの遠隔学習生であったBrittany Carrさんの事例は、誤検出がもたらす深刻な影響を示しています。NBC Newsの報道では、彼女は3つの課題でAI使用を疑われ不合格となりました。自分のがん診断や鬱についての個人的な体験を書いた課題でさえ、AI生成と判定されました。修正履歴を提示し、ノートに手書きで下書きを作成した証拠も示しましたが、大学側は「誠実な執筆」に関する講座の受講とAI使用を謝罪する声明への署名を求めました。

 このストレスにより、Carrさんは最終的にLiberty Universityを退学することを決めました。退学後の転学先はまだ決まっていないとのことです。彼女は「AI検出ツールに引っかからないように書いている」と述べ、自分の文章が本来の洞察を提供できていないと感じていました。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校でAI検出を研究する大学院生のAldan Creoさんも、データサイエンスの課題でAI使用を疑われました。彼は問題解決のプロセスを段階的に説明する習慣があり、それがChatGPTの特徴と似ていると指摘されました。この経験以降、Creoさんは誤検出を避けるため、意図的に誤字を残したりスペイン語の文法構造を使ったりして、文章の質を「下げる」対応を取っています。

AI検出ツールの精度をめぐる議論

 AI検出ツールの精度については、研究によって結果が分かれています。NBC Newsが紹介した独立した分析によれば、スタンフォード大学の査読前研究ではGPTZeroがAI生成文章の検出には優れているものの、人間が書いた文章を区別する信頼性は限定的と結論づけています。一方、別の研究では同社の検出ツールがほぼ完璧な精度を持つとされています。Turnitinについては、2023年と2024年の研究で偽陽性率は低いものの、AI生成またはAI修正された文章の4分の1以上を検出できなかったと報告されています。

 両社は、大規模言語モデルの急速な進化と自社の検出ソフトウェアの更新により、これらの欠陥を示す研究は時代遅れになっていると強調しています。

 カリフォルニア州立大学モントレーベイ校のErin Ramirez准教授は、AI検出ツールに依存する人は自分の文章で試したことがないと指摘しています。NBC Newsの取材で彼女は「優れた文章を書く人ほど、AIだと判定される傾向がある」と述べ、自身の論文をAI検出ツールにかけると毎回98%と判定されるものの、AI は一切使用していないと説明しました。

 AI検出の確率スコアは、ユーザーによって誤解されることも多いと考えられます。検出ツールはAIで生成された「可能性が高い」文章にフラグを立てるものであり、チャットボットで作成されたことを確認するものではありません。また、一部の検出ツールでは、効果的に評価するために少なくとも300語の文章が必要です。

「ヒューマナイザー」ツールの台頭

 NBC Newsによれば、AI検出への対策として、学生の間で「ヒューマナイザー」と呼ばれる新しいツールが広がっています。これらのツールはエッセイをスキャンし、AI生成と判定されないように文章を修正する方法を提案します。無料のものもあれば、月額20ドル程度の有料サービスもあります。

 ヒューマナイザーを使う学生の中には、不正行為の検出を逃れるために使う者もいれば、AIを全く使用していないにもかかわらず誤検出を避けるために使う者もいます。

 25年以上にわたって盗用検出ツールを提供してきたTurnitinは、ヒューマナイザーを「学問的誠実さに対する増大する脅威」と見なしており、2025年8月にこれらのツールで修正された文章を検出するためのソフトウェア更新をリリースしました。同社の最高製品責任者Annie Chechitelliさんは、NBC Newsの取材で、最大50ドルのサブスクリプション料金を請求してAI検出ツールに引っかからないように文章を調整する150のツールのリストを把握していると述べました。

 学術的誠実さソフトウェア企業Cursiveの創設者Joseph Thibaultさんが追跡したデータでは、10月時点で43のヒューマナイザーツールが合計3,390万回のウェブサイト訪問を記録し、需要が急増していることが示されています。

学生による自己監視の動き

 Grammarlyを開発するSuperhuman社は、NBC Newsの報道によれば、「Authorship」と呼ばれるツールを開発しました。これは基本アカウントに含まれており、学生がGoogle DocsやMicrosoft Wordで執筆する際に自分自身を監視し、後で再生できるようにします。どのセクションがタイピングされたか、別のソースから貼り付けられたか、AIで生成されたかが表示されます。

 同社の教育部門責任者Jenny Maxwellさんは、過去1年間だけで最大500万件のAuthorship レポートが作成されたと述べています。ただし、ほとんどの場合は提出されていません。

 このツールは、2023年にノースジョージア大学でGrammarlyの使用がAI違反とされ保護観察処分を受けたとされるMarley Stevensさんの体験を語ったTikTok動画に触発されて開発されました。Stevensさんは実際には綴りと句読点の修正にGrammarlyの拡張機能を使っただけだったと主張しています。

 先月卒業したStevensさんは、NBC Newsの取材で、各教授のAI使用に関するポリシーを追跡するのが難しく、AIが組み込まれていないソフトウェアで文章を書くことがますます困難になっていると述べました。「GoogleにもAIが組み込まれ、MicrosoftにもAIが組み込まれている。文字通りすべてにAIが入っている。図書館に行って本を借りて百科事典を使わない限り、AIを使わずに論文を書く方法はない」と指摘しています。

教育機関と企業の対応

 Turnitinは、検出ツールのスコアだけを学生が不正行為をしたかどうかの判断材料にすべきではないと学校に伝えていると、同社の最高製品責任者Chechitelliさんは述べています。NBC Newsによれば、むしろ学生とAIをどのように、なぜ使用したかについて会話を促すべきだとのことです。GPTZeroもプラットフォーム上で、教員が検出ツールを使って学生を罰することのないよう注意を促す免責事項を掲示しています。

 しかし、カリフォルニア州立大学サンノゼ校の社会学助教授Morgan Sanchezさんは、ソフトウェアが学生の課題にフラグを立てた後、誤った告発を避けるために教授が学生と会話することは時間がかかると指摘しています。多くの教員が毎学期数十人、時には数百人の学生を抱えているため、これは「緊張感を生み出すというより、無報酬の労働を増やしている」と述べています。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校の学問的誠実性オフィスの責任者Tricia Bertram Gallantさんは、NBC Newsの取材で、監視されていない課題では、学生がAIを使用しないようにすることがいかに困難な作業であるかを教員が認識すべきだと助言しています。「監視されていない評価なら、AIを禁止しようとしても無駄です。AIが使われたことを証明しようとしても無駄で、結局それにより多くの時間を費やすことになります」と述べています。

 一方で、国際学術誠実性センターの名誉会長でもあるBertram Gallantさんは、政府にAIと学術不正産業を規制するよう圧力をかけ、テクノロジー企業に学生が不正に製品を使うことを困難にするよう求める人が増えることを望んでいます。「学術機関が作り出したわけではない問題を解決するために、学術機関が何をすべきかという話ばかりになっている」と指摘しています。

学生からの反発

 NBC Newsによれば、誤検出を理由にAI検出ツールの使用を中止すべきだと考える学生もいます。ニューヨーク州北部では、バッファロー大学にソフトウェアの使用中止を求めるオンライン請願が昨年1,500以上の署名を集めました。

 昨春卒業したKelsey Aumanさんがこの請願を始めたきっかけは、複数の課題でAIを使用していないことを証明するために戦った経験でした。同様の経験をした同級生が十分にいたため、「終身学術重罪犯」という名前のグループチャットまで作られたそうです。Aumanさんは、別の紛争を避けるために、提出前に自分の論文を複数のAI検出ツールにかけるようになりましたが、それらもまた誤って自分が書いたものをチャットボットで生成されたとフラグを立てたため、さらに不安が高まったと述べています。

 バッファロー大学は、AI使用に関する全学的なルールはなく、教員が学生を学術不正で報告するには検出ツールのスコア以外の証拠が必要だと述べています。

まとめ

 NBC Newsが報じたように、アメリカの大学ではAI検出ツールの精度問題が深刻な課題となっています。誤検出により正当な学生が不利益を被り、一方で「ヒューマナイザー」ツールの台頭により新たな「軍拡競争」が生まれています。教育現場におけるAI利用の適切なガイドライン設定と、検出ツールに頼らない学問的誠実性の確保が今後の重要な課題と考えられます。

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