[開発者向け]Google、降水予測に特化したAI気象モデル「NeuralGCM」最新版を発表

目次

はじめに

 Google Researchが2026年1月12日、グローバル降水シミュレーションの精度を大幅に向上させたハイブリッドAI気象モデル「NeuralGCM」の最新成果を発表しました。本稿では、Science Advances誌に掲載された論文と公開された技術文書をもとに、衛星観測データで訓練された降水予測モデルの仕組みと性能、実用化への道筋について解説します。

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要点

  • NeuralGCMは物理ベースの流体力学ソルバーとニューラルネットワークを組み合わせたハイブリッドモデルで、NASAの衛星降水観測データで直接訓練されている
  • 15日間の中期天気予報において、ECMWF(欧州中期予報センター)の物理ベースモデルを上回る降水予測精度を記録した
  • 数十年規模の気候シミュレーションでは、IPCCレポートで使用される主要モデルと比較して平均誤差を40%削減し、極端降水イベント(上位0.1%)の再現性が大幅に向上した
  • 日次降水サイクルのタイミングと強度を従来モデルより正確に捉え、特に陸域と夏季での改善が顕著である
  • 全てのコードと訓練済みモデルがオープンソースとして公開されており、Apache License 2.0およびCC BY-SA 4.0ライセンスで利用可能である

詳細解説

ハイブリッドアプローチの技術的背景

 Google Researchによれば、NeuralGCMは大規模な大気プロセスには従来の流体力学ソルバーを使用し、雲形成や降水などの小規模物理プロセスにはニューラルネットワークを適用するハイブリッド設計となっています。

 従来の気象・気候モデルでは、雲は100メートル以下の規模で存在しますが、グローバルモデルの解像度は数キロメートル(天気予報)から数十キロメートル(気候モデル)のスケールとなっています。この解像度ギャップを埋めるため、従来モデルでは「パラメタリゼーション」と呼ばれる近似手法を使用してきました。パラメタリゼーションは、他の変数に基づいて小規模プロセスの影響を推定する方程式ですが、雲の物理は複雑であり、この手法には限界があります。

 NeuralGCMの重要な進化点は、再解析データ(物理モデルと観測を組み合わせた過去の大気状態の再構築)ではなく、NASAの衛星観測データで直接訓練された点にあります。再解析データ自体が雲の物理の複雑さゆえに降水の再現に苦労しているため、それを学習すると弱点も継承してしまいます。NeuralGCMの「differential dynamical core」という技術基盤により、衛星観測データでの直接訓練が可能になったとされています。

中期天気予報での性能評価

 Google Researchの発表では、WeatherBench 2を使用した15日間の天気予報評価において、NeuralGCMは現行解像度(280km)でECMWFの中期予報モデルを大半の降水指標で上回りました。

 評価は2020年の各日の正午と深夜に開始された予報(訓練には未使用のデータ)を対象に実施され、24時間累積降水量と6時間累積降水量の両方で、15日間すべての予報日においてNeuralGCMが優位性を示しています。この優位性は陸域でも維持されており、人間社会や生態系にとって重要な地域での精度向上が確認されています。

 ただし、NeuralGCMの現行解像度280キロメートルは実運用の天気予報には粗すぎると考えられます。Google Researchは、このアプローチをより細かいスケールで活用することで実運用ツールの改善につながる可能性があると指摘しています。

長期気候シミュレーションでの進展

 数年から数十年のスケールでは、平均降水パターンの理解が洪水管理、作物計画、飲料水供給の管理に役立ちます。Google Researchによれば、複数年にわたるNeuralGCMの実行結果を気候研究用の主要な大気モデルと比較したところ、NeuralGCMの平均誤差は1日あたり0.5ミリメートル未満でした。

 これは最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)レポートで使用された主要ツールと比較して平均40%の誤差削減を示しており、特に陸域での改善が顕著とのことです。2002年から2014年までのIMERG衛星降水観測データとの比較では、陸域でのNeuralGCMの平均誤差は1日あたり0.3ミリメートルでした。

 極端降水(特定地点での降雨量の上位0.1%)についても大幅な改善が見られました。極端イベントは過去の事例が少ないため再現が最も困難ですが、NeuralGCMは2002年から2014年の期間において、特に強い降水の強度をより正確に捉えています。物理ベースモデルでは、降水推定のパラメタリゼーションが軽い降水イベントを過剰に、強い降水イベントを過少に表現する「霧雨問題(drizzle problem)」として知られる傾向がありますが、NeuralGCMではこの問題が緩和されていると考えられます。

日次降水サイクルの再現性

 Google Researchの発表では、長期気候シミュレーションにおける1日の中での降水パターンも評価されています。例えばアマゾン熱帯雨林では、夏季に午後の強い雨が予想されるという非常に強い日次サイクルが存在します。

 従来の気候モデルでは、実際よりも数時間早く雨が降る傾向がありますが、NeuralGCMは特に陸域と夏季において、日中のピーク降水のタイミングと量をより正確に再現しています。評価が陸域と夏季に焦点を当てているのは、日周サイクルが顕著であり、従来モデルが苦戦する領域だからです。1日のうちいつ降水が発生するかを捉えることは、生態系、気象システム、水文学にとって大規模スケールで重要と考えられます。

オープンソース化と実用展開

 NeuralGCMの全コードはGitHub上でApache License 2.0の下で公開されており、訓練済みモデルの重みはCreative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International (CC BY-SA 4.0)ライセンスで配布されています。

 複数の解像度・タイプのモデルが利用可能です。天気予報用途では1.4度の確率的モデルが推奨されており、WeatherBench 2の大半の指標で最高性能を示しています。短期予報(最初の数日間)では0.7度の決定論的モデルがより高精度ですが、計算コストが高くなります。

 季節から気候スケールでは、高解像度モデルの安定性に課題があります。1.4度確率的モデルは約6ヶ月、決定論的モデルは約2年間安定して使用できるとされています。数十年規模の気候シミュレーションには、降水と蒸発を個別に予測する2.8度確率的モデルが20年間の大気単独シミュレーションで安定性を示しています。

 実用展開の事例として、Google Researchの発表ではシカゴ大学とインド農業・農民福祉省との協力プログラムが紹介されています。このプログラムではNeuralGCMを使用したモンスーン開始時期予測のパイロットプログラムが2025年夏に初めて実施され、3800万人に予測情報が届けられました。

技術的な実装と利用方法

 NeuralGCMを使用した天気予報の実装例が詳細に記載されています。基本的な流れは以下の通りです:

  1. ERA5データをモデル解像度に再グリッド化
  2. モデル状態を初期化してロールアウト
  3. 予測と参照軌跡を可視化のために結合

 モデルはJAXとDinosaurなどの依存関係とともにpipでインストール可能で、最適なパフォーマンスにはGPUまたはTPUが推奨されています。Google Cloud Storage上の事前計算済みシミュレーションデータセットも利用可能で、2020年の中期天気予報データセットや、年次から数十年規模の気候シミュレーションデータが含まれています。

 これらのデータセットはZarr形式でCC-BY 4.0ライセンスの下で提供されており、WeatherBench 2の一部として配布されているものもあります。座標軸にはtime(初期化時刻)、prediction_timedelta(初期化からの時間差)、longitude、latitude、level(気圧レベル)が含まれています。

まとめ

 Google ResearchによるNeuralGCMの最新成果は、衛星観測データでの直接訓練により、従来の物理ベースモデルの降水予測精度を大幅に上回る結果を示しました。中期天気予報から数十年規模の気候シミュレーションまで幅広い時間スケールでの改善が確認され、特に極端降水イベントや日次サイクルの再現性向上は実用的な価値が高いと考えられます。全てがオープンソース化されており、気象・気候科学の研究者や開発者にとって重要なツールとなる可能性があります。今後は気候変動下での長期降水予測の精度向上に向けた発展が期待されます。

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