[ニュース解説]米国警察がAI活用で未解決事件に新展開——証拠分析の効率化と懸念される透明性の課題

目次

はじめに

 米国の警察機関が膨大な証拠データの分析にAIを活用し、未解決事件の捜査を再始動させています。Axiosが2026年1月24日に報じた内容によれば、ClosureやLongeyeといったAIスタートアップのツールが複数の警察署で導入され、数時間分の録音や古い記録を数分で処理できるようになりました。本稿では、この報道をもとに、警察のAI活用の実態と、透明性をめぐる課題について解説します。

参考記事

要点

  • 米国の警察がAIツールを使って未解決事件、行方不明者捜査、裁判準備を効率化している
  • ClosureとLongeyeという2つのAIスタートアップが、膨大な証拠データの検索・分析ツールを警察に提供している
  • Cellebriteの調査では、捜査官の70%近くが全てのデジタルデータをレビューする時間がないと回答した
  • ACLUやEFFは、AIの透明性不足がバイアスや説明責任の問題を引き起こす可能性を懸念している
  • 弁護側もJusticeTextというAIツールを使って警察のボディカメラ映像を効率的に分析している

詳細解説

現代警察が直面する「証拠過多」の問題

 Axiosによれば、現代の警察活動における最大の制約は証拠の不足ではなく、証拠が多すぎることです。AIはこの膠着状態を打破し、人員不足の警察署が何年分ものデータに埋もれた重要な手がかりを見つけることを可能にすると報じられています。

 警察におけるAI活用は2つの波に分けられます。第1の波はドローン、ナンバープレート読取装置、銃声検知システムなど、街頭での監視や迅速な対応を目的としたものでした。そして今、第2の波として、刑務所からの通話記録、聴取記録、SNSの令状返還データ、写真、古い事件ファイルなどを精査し、関連する瞬間を迅速に浮かび上がらせる捜査支援AIが登場しています。

 この背景には、デジタル証拠の爆発的増加があります。現代の捜査では、スマートフォン、防犯カメラ、SNS、通信記録など、多種多様なデジタルデータが証拠として扱われるようになりました。しかし、これらを人力で全て確認することは現実的に困難です。

ClosureとLongeyeの導入事例

 AIスタートアップのClosureとLongeyeは、過重労働の刑事や鑑識捜査官が見落としがちな証拠の山を検索する新しいツールを警察に提供しています。

 Axiosによれば、アラスカ州のアンカレッジ警察は試用期間を経てClosureツールを採用し、アンカレッジ議会は5年間で37万5,000ドルの契約を承認しました。ワシントン州レドモンド警察とペンシルベニア州ワイオミッシング警察は、Longeye AIツールを使って未解決事件と進行中の事件捜査を加速させています。これらの機関によれば、このツールにより数時間分の録音メッセージや聴取記録を数分で処理でき、事件を前進させることができたとのことです。

 具体的な仕組みとしては、捜査官が刑務所の通話記録、聴取記録、写真などの大規模データセットを単一のワークスペースにアップロードまたは取り込み、それを一つのコーパスとして検索できるようにします。システムは音声を文字起こしし、画像にラベルを付け、重要なテキストメッセージをハイライト表示するため、刑事は何時間もの聴取や読解作業から、迅速な検索と取得作業へと移行できます。

 また、AIソフトウェアは多くの外国語や先住民言語で証拠を分析し、翻訳できるため、単一言語の捜査官でも手がかりや自白を検索できるとされています。多言語対応機能は、米国のような多民族社会において、言語の壁を越えた捜査を可能にする重要な機能と考えられます。

現場の声:アンカレッジ警察署長の証言

 アンカレッジ警察署長のSean Case氏はAxiosに対し、「対処する能力がないために選別される事件がある」と語っています。

 Case氏によれば、AIはアラスカ先住民の未解決事件や行方不明者捜査を再開するのに役立っており、新しい刑事が数十年前の文書やスキャンされた記録を含む事件ファイル全体を取り込むことを可能にしています。「捜査官が事件ファイルを把握するのに、数週間ではなく数時間で済むようになります」とのことです。

 これは特に重要な点です。刑事が交代したり、長期間放置されていた事件を再開する際、膨大な過去の記録を読み込むことは大きな負担でした。AIによる要約と検索機能は、この引き継ぎ作業を劇的に短縮すると考えられます。

AIツール開発者の哲学:「ワトソン」としてのAI

 Closure社のCEOであるAaron Zelinger氏(元Palantirエンジニア)はAxiosに対し、AIツールは意思決定を自動化するためのものではなく、人間が検証するための関連資料を浮上させるためのものだと述べています。

 「シャーロック・ホームズを助けるための多数の『ワトソン』を作っているのです」とZelinger氏は表現しました。この比喩は、AIが最終判断を下すのではなく、人間の捜査官を支援する役割に徹することを強調したものと言えます。

 また、Zelinger氏はAIが捜査の透明性を低下させるのではなく、向上させるべきだと主張しています。ユーザーが毎回元の証拠に戻ることを要求することで、透明性が保たれるというのです。全ての証拠は反対尋問と裁判所の精査を受けなければならず、「私たちはAIに法執行の意思決定を自動化させたくない」と述べています。

捜査現場の実態:データレビューの時間不足

 Cellebriteが実施したトレンド調査では、捜査官の70%近くが事件の全てのデジタルデータをレビューする十分な時間がないと回答しました。これは小規模で人員不足の部署だけでなく、全ての警察署がAIによる事件支援を検討するよう圧力をかけていると報じられています。

 この数字は、デジタル証拠の量が捜査能力を上回っている現状を示しています。スマートフォンの普及、監視カメラの増加、SNSの利用拡大により、一つの事件で扱うべきデータ量は指数関数的に増加しています。

市民団体の懸念:透明性とバイアスの問題

 一方で、アメリカ自由人権協会(ACLU)は、刑事司法の中核的な文書やプロセスでAIを使用することは、バイアスや信頼性に関連するリスクを含む「重大な市民的自由と公民権の懸念」を引き起こすと警告しています。

 また、電子フロンティア財団(EFF)は、警察機関がAIシステムを使用しているかどうかを公衆が判断することさえ困難であり、その不確実性が説明責任や記録請求を複雑にすると述べています。

 これらの懸念は正当なものと考えられます。AIシステムがどのような基準で証拠を選別し、どのような判断基準で重要性を評価しているかが不明瞭な場合、結果として特定の人種や社会階層に不利な捜査が行われる可能性があります。また、AIの判断プロセスが「ブラックボックス」化すると、弁護側が証拠の信頼性を争うことが困難になる恐れもあります。

Closureの高度な機能:代替理論の提示

 興味深いことに、ClosureはAIツールが全ての証拠を検証した後、刑事に代替理論や容疑者を提示することさえできるとされています。

 Case氏によれば、このプロセスは刑事が裁判前に「緩い部分を引き締める」のに役立ち、法廷での不意打ちを減らすことができるとのことです。ただし、このような高度な分析機能については、その判断基準の透明性がより一層重要になると思います。

弁護側のAI活用:JusticeText

 Axiosによれば、弁護側もAIを活用しています。シカゴ大学の2人の学部生が設立したJusticeTextという企業は、生成AIを使って過重労働の公選弁護人や弁護士が警察のボディカメラ映像を迅速にナビゲートするのを支援する技術を開発しました。

 これは重要な動向です。捜査側だけがAIを使用し、弁護側が従来の手法に留まる場合、刑事司法システムの公平性が損なわれる可能性があります。両側がAIツールを活用できる環境が整うことで、より公正な司法手続きが実現されると考えられます。

透明性と適正手続きのバランス

 Axiosは記事の結論として、「警察が証拠をナビゲートするためにAIに依存するほど、適正手続きはこれらのツールがどのように機能するかの透明性にかかっています」と述べています。

 この指摘は核心を突いています。AIツールが捜査の効率化に貢献することは明らかですが、その判断プロセスが不透明なままでは、冤罪のリスクや差別的な捜査の可能性を排除できません。法執行機関、AI開発企業、市民団体、そして司法機関が協力して、透明性と説明責任を確保する仕組みを構築する必要があると思います。

まとめ

 米国の警察機関ではAIを活用した証拠分析ツールが急速に普及し、未解決事件の捜査再開や効率化に寄与しています。一方で、ACLUやEFFなどの市民団体は、透明性の欠如やバイアスのリスクを懸念しており、適正手続きの観点から慎重な議論が求められています。今後、AIが司法の現場でどのように活用され、どのような規制や透明性の仕組みが整備されるかが注目されます。

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