はじめに
米国の経済格差が新たな局面を迎えています。Axiosが2026年1月12日に報じた分析によれば、米国社会は「Have-Nots(停滞層)」「Haves(安定層)」「Have-Lots(超富裕層)」という3つの明確な経済階層に分断されつつあります。本稿では、AI革命が富の集中をどのように加速させているのか、各階層の実態とともに解説します。
参考記事
- タイトル: Behind the Curtain: The Haves, Have-Nots, Have-Lots economy
- 著者: Jim VandeHei, Mike Allen
- 発行元: Axios
- 発行日: 2026年1月12日
- URL: https://www.axios.com/2026/01/12/ai-winners-wealth-inequality
要点
- 米国経済は「Have-Nots(停滞層)」「Haves(安定層)」「Have-Lots(超富裕層)」の3階層に構造的に分断されている
- AI革命により、プライベート投資や政府とのコネクションを持つ超富裕層が一般投資家が参入できない領域で急速に富を拡大している
- 2025年、米国の富裕層上位50人の純資産は中央値で約100億ドル増加し、22%の上昇率を記録した
- 株式市場の上昇は下位50%の国民にはほとんど恩恵がなく、彼らが保有する株式は米国株式全体の1%に過ぎない
- AI技術による雇用代替への不安が、特に中間層と下層で広がっている
詳細解説
「3つの経済階層」への分断
Axiosによれば、米国社会は単なる「格差」の問題を超えて、構造的な経済階層の分断が進んでいます。この分断の最大の特徴は、AI革命によって超富裕層が一般投資家にはアクセスできないプライベート投資案件、巨額の投資資金、政府とのコネクション、そして株式を通じて莫大な利益を得ている点にあります。
この構造的変化は、2026年以降の経済、政治、AI政策に大きな影響を与えると考えられます。Axiosは、既に格差の拡大、将来への悲観的な見方、AI技術への反対運動という形でその兆候が現れていると指摘しています。
Have-Nots(停滞層):景気は良いが気分は悪い
下位50%以上を占めるこの層にとって、歴史的基準で見れば経済状況は悪くありません。Axiosによれば、賃金は成長し、失業率は低く、インフレも穏やかです。しかし、人々の気分は極めて悪く、個人的な将来やAI技術に対する悲観的な見方が顕著に表れています。
この層の所得は前年比で約4%増加していますが、裕福な層よりも伸び率が低く、しかも食料費やエネルギー費のインフレに追いつくために増加分を使い果たしているケースが多いとされています。住宅を所有していない場合、家賃は高止まりしており、住宅ローン金利は約6%と、5年前に友人や隣人が得た金利のほぼ2倍になっています。
特に注目すべきは株式市場との関係性です。米国株式全体のうち、下位50%の国民が保有するのはわずか1%に過ぎません。つまり、NvidiaやMicrosoftの時価総額が1兆ドル増加しても、国民の半分の銀行口座には何の影響もないということです。また、約40%の米国人が400ドルの緊急出費を借金なしで賄えない状況にあります。
この経済的現実が、労働者階級や低所得層の米国人が悲観的になり、AI技術が自分たちの仕事を奪い、状況を悪化させることを恐れる背景となっています。具体的な数字として、過去2年間のAI好況期に、上位10%の世帯の資産が1四半期(2025年第2四半期)で5兆ドル増加した一方、下位50%の資産増加はわずか1,500億ドルにとどまったと報じられています。
Haves(安定層):順調だが不安を抱える
投資可能資産が10万ドル以上ある約3分の1の世帯がこの層に該当します。彼らは株式や退職金口座を保有する可能性が高く、住宅所有者であれば2020-21年の低金利時代の恩恵を今でも受けています。歴史的な基準で見れば、かなり良好な状況にあります。
Axiosによれば、この層の賃金は4.4%上昇し、2025年には好調な市場リターンを享受しました。住宅所有者の約54%が4%以下の住宅ローン金利を確保しており、これは2022年以前に住宅を購入した人々にとって「黄金の手錠」のような効果をもたらしています。つまり、住宅コストを低く抑えられる一方で、現在の6%超の金利が現在の賃貸者を住宅市場から締め出しているという状況です。
Bank of Americaのデータでは、ホリデーシーズンの支出が低所得世帯よりも高所得世帯でより強く伸びたことが示されています。
しかし、多くの人々がAI技術に対して不安を抱いています。この層は高性能AIによって脅かされるホワイトカラーの仕事に就いている傾向があり、大学生や大学進学を控えた子供たちが直面する厳しい就職市場について日々ニュースを読んでいます。
この層の下位は、AI関連企業による広範な市場上昇の恩恵を受けていますが、超富裕層の富の急成長を牽引しているAIスタートアップに直接資金を投じているケースは少ないとされています。興味深いことに、ミシガン大学の消費者信頼感調査では、今月は低所得消費者の間で改善が見られた一方、高所得層では信頼感が低下したという結果が示されています。
Have-Lots(超富裕層):AI革命で急速な富の拡大
新たな「AI貴族階級」が台頭しています。Axiosによれば、テクノロジー大富豪、大規模投資家、その他AI技術の恩恵を受けている人々は、もはや単なる「富裕層」を大きく凌駕する独自のカテゴリーに属しています。
この層は、連邦政府とますます密接な関係を築く中で、急速に莫大な富と権力を蓄積しています。Axiosはこれを「シリコン・スワンプ」と呼んでいます。その結果、超富裕層はワシントンの現状維持にますます投資するようになり、新たな連邦法や州法、規制の導入を阻止しようとしています。
Axiosの首席経済特派員Neil Irwinとの共同分析によって明らかになった数字は驚異的です。2025年は極めて富裕な米国人、特にAI技術やトランプ大統領、あるいはその両方と密接な関係を持つ人々にとって、驚くべき年だったと報じられています:
- 上位50人の富裕層:Bloomberg Billionaires Indexによれば、米国の富裕層上位50人の純資産の中央値は2025年に約100億ドル増加しました。これは22%の上昇率であり、S&P 500が16%上昇し、米国債が4%未満のリターンだった年においての数字です。
- イーロン・マスク:2025年の資産増加額は1,870億ドルで、総資産は6,000億ドル超に達しました。この増加額だけで、ビル・ゲイツ(約1,170億ドル)とチャールズ・コック(約690億ドル)の純資産を合計した額とほぼ同じです。
- Googleの創業者たち:共同創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの純資産は、それぞれ1,010億ドルと920億ドル増加し、総額は2,690億ドルと2,500億ドルに達しました。元CEOのエリック・シュミットも170億ドル増加し、530億ドルとなりました。
- その他の注目すべき人物:
- ラリー・エリソン(Oracle会長、トランプ大統領と親密):550億ドル増
- ジェンセン・フアン(Nvidia CEO):400億ドル増
- トーマス・ピーターフィー(電子証券取引のパイオニア):240億ドル増
- ジェフ・ヤス(投資会社Susquehanna共同創業者):170億ドル増
- ミリアム・アデルソン(メガドナー):90億ドル増
- ケン・グリフィン(ヘッジファンド大物):70億ドル増
格差拡大がもたらす社会的影響
Axiosの分析が示すのは、「富裕層」と「超富裕層」の間にも大きな断絶が生じているという現実です。従来の富裕層は「Have-Nots」になることへの恐怖を抱き始めており、一方で超富裕層はさらに富を蓄積し続けています。
この構造は、たとえトランプ大統領の期待通りに2026年の米国成長率と株価が急上昇したとしても、AI関連の超富裕層が他のすべての人々を大きく上回る利益を得るため、恐怖と憤りが増大する可能性があるとAxiosは指摘しています。
また、AIバブルが崩壊してすべての人が損失を被ったとしても、超富裕層は(ほとんどの場合)依然として多くの富を保持し続けると考えられます。この非対称性が、今後の政治的・社会的緊張の源となる可能性があります。
まとめ
AI革命は技術革新をもたらす一方で、米国社会に3つの明確な経済階層を生み出しています。超富裕層が一般投資家にはアクセスできない領域で莫大な富を蓄積する一方、中間層は雇用不安に直面し、下層は日々の生活費の上昇に苦しんでいます。この構造的な分断は、今後の経済政策やAI規制の議論において重要な論点となると思います。日本においても、AI技術の発展に伴う社会的影響について、慎重な検討が求められるのではないでしょうか。
