[AIツール利用者向け]Anthropic「Cowork」発表——非開発者向けAIエージェント機能の実用性と課題

目次

はじめに

 Anthropicが2026年1月12日、AI「Claude」の新機能「Cowork」をリサーチプレビューとして公開しました。これは、開発者向けツール「Claude Code」の技術を非技術者にも使いやすい形で提供するもので、ローカルファイルへのアクセスと自律的なタスク実行を可能にします。本稿では、Anthropicの公式発表とAxiosの報道をもとに、Coworkの機能、技術的背景、実用上の課題について解説します。(なお、現在はMac OSのみ対応しています。)

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要点

  • Coworkは、ユーザーが指定したローカルフォルダにアクセスし、ファイルの読み取り、編集、作成を自律的に実行できるAIエージェント機能である
  • Claude Codeと同じ技術基盤(Claude Agent SDK)を使用しており、開発者向けツールの自律性を非技術的なオフィス業務に応用している
  • ダウンロードフォルダの整理、スクリーンショットからの経費表作成、散在するメモからのレポート作成など、日常的なオフィス業務を自動化できる
  • リサーチプレビューとして、Claude Max加入者向けにmacOSアプリで提供開始され、今後Windows対応やデバイス間同期などの機能追加が予定されている
  • ファイル削除などの破壊的操作の可能性や、プロンプトインジェクション攻撃のリスクなど、エージェントツール特有の安全性課題が存在する

詳細解説

Cowork開発の背景と位置づけ

 Anthropicによれば、Coworkは「Claude Code」の予想外の使われ方から生まれました。同社が2025年に公開したClaude Codeは、開発者向けのコーディング支援ツールとして設計されていましたが、ユーザーはコーディング以外のさまざまな業務にも活用し始めました。この利用実態を受けて、Anthropicは非開発者でも同様の自律的な作業支援を受けられるツールとしてCoworkを開発したとしています。

 Claude Codeは、2025年の冬季に開発者やホビーストの間で人気を集めました。この時期は、多くの技術者が実験的なプロジェクトに時間を割ける年末年始と重なっていたことが、急速な普及につながったと考えられます。Anthropicは、この成功事例をオフィスワーク全般に拡張する形でCoworkを設計しました。

基本機能と動作の仕組み

 Coworkの基本的な使い方は、ユーザーがローカルコンピュータ上の特定フォルダへのアクセス権限をClaudeに付与することから始まります。Anthropicの説明では、権限を与えたフォルダ内でClaudeはファイルの読み取り、編集、新規作成が可能になります。

 具体的な活用例として、Anthropicは以下のようなタスクを挙げています:

  • ダウンロードフォルダ内のファイルを内容に基づいて整理し、分かりやすい名前に変更する
  • 複数のスクリーンショットから経費情報を抽出し、新しいスプレッドシートを作成する
  • 散在するメモファイルから、まとまったレポートの初稿を作成する

 通常のClaude対話と異なるのは、タスクを設定すると、Claudeが自律的に計画を立てて実行する点です。ユーザーは逐一指示を出す必要がなく、Claudeが進捗状況を報告しながら作業を進めます。また、複数のタスクを同時にキューに入れて並行処理させることも可能で、Anthropicはこれを「同僚にメッセージを残すような感覚」と表現しています。

 この自律的な動作は、Claude Agent SDKという技術基盤によって実現されています。Agent SDKは、AIモデルが複数のステップを計画し、実行し、結果を評価するためのフレームワークです。Claude Codeとまったく同じ基盤を使用しているため、技術的な信頼性は開発者向けツールと同等と考えられます。

拡張機能と連携

 Coworkは基本機能に加えて、既存のClaude機能との連携によってさらに能力を拡張できます。Anthropicによれば、ユーザーが設定済みの「コネクタ」(外部情報源へのリンク機能)をCoworkでも使用でき、加えてドキュメントやプレゼンテーション作成を改善する「スキル」という初期セットが追加されています。

 さらに、「Claude in Chrome」というブラウザ拡張機能と組み合わせると、ブラウザ操作が必要なタスクにも対応できます。例えば、ウェブサイトからの情報収集とローカルファイルへの整理を一連の流れで実行できると考えられます。

 コネクタやスキルは、Claudeの機能を特定の業務フローに適応させるための仕組みです。企業向けのAIツールでは、こうした拡張性が導入の重要な判断材料になることが多いです。

安全性と制御の仕組み

 Anthropicは、Coworkの安全性について詳細な説明を提供しています。基本的な制御として、ユーザーは特定のフォルダとコネクタのみにアクセス権限を付与でき、明示的に許可していない領域にClaudeはアクセスできません。また、重要な操作を実行する前に、Claudeはユーザーに確認を求める仕組みになっています。

 しかし、Anthropicは同時に注意すべきリスクも明示しています。デフォルト設定では、Claudeは指示に従ってローカルファイルの削除などの破壊的操作を実行できます。Claudeが指示を誤解する可能性もあるため、このような操作については明確な指示を与える必要があります。

 より高度なリスクとして、「プロンプトインジェクション」攻撃も指摘されています。これは、攻撃者がインターネット上に悪意あるコンテンツを配置し、Claudeがそれを読み取ることで動作を改変しようとする手法です。Anthropicは防御機能を構築していますが、AIエージェントの実世界での行動を安全に保つ技術は、業界全体でまだ発展途上の領域です。

 Anthropicは、これらのリスクは新しいものではないものの、Coworkのような高度なエージェントツールを初めて使う人にとっては重要な考慮点であるとしています。同社は、特に使い始めの段階では慎重に扱うことを推奨しており、詳細なガイダンスをヘルプセンターで提供しています。

業界における「workslop」問題への対応

 Axiosの報道では、AI業界が直面している「workslop」(AI生成の低品質な作業)という課題との関連でCoworkを分析しています。多くの調査データは、企業がAIツールから生産性向上を実感できていない現状を示しており、一部の労働者や管理者は、AIツールが間違いだらけの成果物を生成し、修正にかえって時間がかかると指摘しています。

 Anthropicはこの懸念を認識しており、Coworkの設計でこの問題に対処したとしています。同社の説明では、CoworkはClaude Codeと同じアーキテクチャを使用しており、ソフトウェアエンジニアが本番環境の作業で信頼している技術基盤です。エンジニアは、絶えず修正が必要な出力を生成するツールを信頼しないため、この技術選択が品質担保の根拠になっているとのことです。

 また、Coworkはユーザーを作業のループに含め続ける設計になっており、完全な自動化ではなく、適切なタイミングで人間が介入し方向修正できる仕組みを重視しています。これは、完全自律と人間の監督のバランスを取る試みと言えます。

 ただし、この主張の実証には、実際の業務での長期的な使用データが必要と思います。リサーチプレビューとして公開することで、Anthropicは実世界での使用パターンとフィードバックを収集し、改善につなげる方針のようです。

提供形態と今後の展開

 Coworkは、Claude Max加入者向けにmacOSアプリのリサーチプレビューとして提供開始されました。macOSアプリをダウンロードし、サイドバーの「Cowork」をクリックすることで利用できます。他のプランの加入者は、ウェイトリストに登録することで将来的なアクセスを待つ形になります。

 Anthropicは、リサーチプレビューとして早期に公開する理由を、ユーザーの実際の使い方を学び、改善点を発見するためと説明しています。同社は、ユーザーが予想外の用途を試すことを推奨しており、期待していなかったことが実現する可能性も示唆しています。

 今後の改善計画として、デバイス間の同期機能追加とWindows対応が明言されています。また、安全性のさらなる向上も継続的な取り組み課題としています。

プライバシーとデータ管理の課題

 Axiosの報道では、エージェントツール全般に関わるプライバシーとデータ管理の懸念も取り上げられています。WiredがOpenAIに関して報じた内容によれば、OpenAIは第三者の請負業者に対し、エージェントの性能評価のために過去の実際の業務成果物(Word文書、スプレッドシート、プレゼンテーション)をアップロードするよう依頼しており、機密情報や個人識別情報の削除は労働者自身の責任とされているとのことです。

 この報道はCoworkに直接言及したものではありませんが、ユーザーのファイルにアクセスして操作するエージェントツール全般が抱える課題を示しています。企業での導入を検討する際には、データがどのように扱われるか、機密情報の保護をどう担保するかが重要な検討事項になると考えられます。

 Axiosは、Coworkのようなツールが、企業のセキュリティとプライバシーを損なうことなく業務のやり方を変えられるかどうかを注視すべき点としています。

まとめ

 Anthropicの「Cowork」は、開発者向けツールで実証された自律的なAIエージェント技術を、一般的なオフィス業務に適用する試みです。ローカルファイルへのアクセスと自律的なタスク実行により、日常的な作業の自動化を目指していますが、ファイル操作の破壊性やプロンプトインジェクションといった安全性の課題も明示されています。リサーチプレビューでの実世界データ収集を通じて、実用性と安全性のバランスがどう改善されていくか、また企業環境でのプライバシー保護がどう担保されるかが今後の注目点だと思います。

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