[ビジネスマン向け]Google、小売業界向けに「Universal Commerce Protocol」を発表——エージェント型コマース時代の新基盤

目次

はじめに

 Googleが2026年1月11日、全米小売業協会(NRF)でCEO Sundar Pichai氏による基調講演を行い、小売業界向けのAI戦略を発表しました。エージェント型コマースに対応する新プロトコル「Universal Commerce Protocol」の導入、顧客体験特化型の「Gemini Enterprise for Customer Experience」の提供開始、Wing配送サービスの拡大など、小売業のデジタル変革を支援する包括的な取り組みが示されました。本稿では、この発表内容について詳しく解説します。

参考記事

要点

  • GoogleのVertex AIで処理されるトークン数は、2024年12月の8.3兆から2025年12月には90兆超へと11倍以上増加し、小売業界でのAI活用が急拡大している
  • エージェント型コマースに対応する新プロトコル「Universal Commerce Protocol (UCP)」が発表され、Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartなどと共同開発された
  • 小売業向けに特化した「Gemini Enterprise for Customer Experience」が提供開始され、The Home DepotやMcDonald’sが既に顧客サービス改善に活用している
  • UCPはAgent2Agent、Agent Payments Protocol、Model Context Protocolなど既存の業界プロトコルと互換性を持つオープンな設計である
  • Wing配送サービスがヒューストンで開始され、オーランド、タンパ、シャーロットなど複数都市への展開が予定されている

詳細解説

小売業界でのAI活用の急成長

 Sundar Pichai氏は、Googleが小売業界と20年以上にわたりパートナーシップを築いてきた実績を振り返りながら、現在のAI時代における新たな協力関係の重要性を強調しました。Googleによれば、同社のVertex AIで処理される月間トークン数は、2024年12月時点で8.3兆だったものが、2025年12月には90兆超へと増加し、前年比で11倍以上の成長を記録したとのことです。

 この急激な増加は、小売業界においてAI技術の実用化が本格的に進んでいることを示しています。トークン数とは、AIモデルが処理する文章の単位を指し、この数値が大きいほど多くの業務がAIで処理されていることを意味します。小売業の現場では、顧客対応、在庫管理、需要予測、マーケティングなど、多岐にわたる業務でAIが活用され始めていると考えられます。

Google Searchとショッピング体験の進化

 Googleは2021年からShopping Graphを提供しており、これは500億件以上の商品リスト、在庫、価格、レビューなどの情報をリアルタイムで管理するシステムです。Pichai氏によれば、そのうち20億件以上の商品情報が1時間ごとに更新されており、「小売のスピードで情報を提供している」とのことです。

 さらに、AI Modeの導入により、検索体験がキーワードベースから自然な会話形式へと変化していると説明されています。従来は複数ページの検索結果を見る必要がありましたが、AIが顧客の関心に合わせて選択肢を絞り込む作業を代行できるようになりました。また、昨年にはShopping GraphがGeminiアプリにも統合され、ショッピング関連の質問に対してより役立つ回答を提供できるようになったとのことです。

 これは、検索エンジンが単なる情報検索ツールから、顧客の購買意思決定を支援するアシスタントへと進化していることを示しています。従来のSEO対策やキーワード最適化に加えて、AIとの自然な対話を前提とした商品情報の整備が、今後の小売業には求められると言えます。

Universal Commerce Protocol (UCP)の導入

 今回の発表の中核となるのが、エージェント型コマースに対応する新プロトコル「Universal Commerce Protocol (UCP)」です。Pichai氏は、多くの消費者にとって商品発見は楽しいプロセスである一方、購入決定は難しい段階だと指摘し、AIエージェントが発見から購入までをサポートする時代に向けた基盤整備の重要性を強調しました。

 UCPは、Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartなどの業界リーダーと共同で開発され、さらに20以上の企業から支持を得ているとのことです。このプロトコルの特徴として、Googleは以下の点を挙げています:

  • オープンで非依存的な設計: 特定のプラットフォームに依存せず、幅広いサービスで利用可能
  • 既存プロトコルとの互換性: Agent2Agent、Agent Payments Protocol、Model Context Protocolなどと連携可能
  • 業種横断的な対応: 小売業に限らず、様々な業種での活用を想定
  • グローバルスケールでの運用: 世界規模でのコマース取引に対応
  • コマース特有のニーズへの対応: 商取引特有の複雑な要件を考慮した設計

 プロトコルとは、異なるシステム間でデータをやり取りする際の共通ルールを指します。UCPは、様々なAIエージェントやサービスが互いに通信し、顧客の購買体験を途切れさせることなく連携するための「共通言語」として機能すると考えられます。

 具体的な機能として、まずネイティブチェックアウトから開始するとのことです。Googleによれば、AI ModeやGeminiなどのGoogle製品上に直接「購入ボタン」が表示されるようになります。例えば、Monosというブランドのスーツケースを検索した場合、プロトコルにより販売者は新規顧客向けの特別価格を即座に提示したり、ロイヤリティプログラムへの登録を促したりできます。リピート顧客に対しては、過去の購入履歴に基づく特別オファーや、パッキングキューブなどの関連商品をチェックアウト時に提案できるとのことです。そして、Google Payを使って数回のタップで購入が完了し、会話から離れることなく取引が終わります。

 重要なのは、このプロセス全体を通じて販売者が「記録上の販売者(merchant of record)」として位置づけられ、顧客関係を所有し形成できる点です。これは、プラットフォームが取引を仲介するのではなく、あくまで販売者と顧客の直接的な関係を重視する設計思想を示しています。従来のマーケットプレイス型のプラットフォームでは、顧客データや関係性がプラットフォーム側に集約される傾向がありましたが、UCPではこの点が異なると言えます。

Gemini Enterprise for Customer Experienceの提供開始

 Googleは、小売業向けに特化した「Gemini Enterprise for Customer Experience」の提供を開始しました。Pichai氏によれば、このプラットフォームは、企業や顧客のデータと直接連携して、eコマースサイトから実店舗まで、魅力的なショッピング体験を提供できるとのことです。

 このプラットフォームは「エージェント型小売業向けに特別に構築」されており、断片化した検索、コマース、サービスの接点を1つのシームレスな体験に統合します。ショッピングアシスタント、サポートボット、エージェント検索、マーチャンダイジング支援など、様々な用途に対応するとのことです。

 既にThe Home DepotとMcDonald’sがこれらのエージェントを顧客サービス改善に活用しており、Krogerなどの小売業者とは、AI Modeの機能を小売業者独自のアプリに直接統合する新しいショッピングエージェントの開発を進めているとのことです。これは「知識豊富な販売員」のような存在として、詳細な質問に答え、プロアクティブで個別化された推奨を提供できるとされています。

 「Gemini Enterprise for Customer Experience」は現在プレビュー版として提供されており、オープンスタンダードに基づいて構築され、Universal Commerce Protocolと完全に統合されているとのことです。

 このサービスの特徴は、小売業の複雑な業務プロセスに対応した「統合プラットフォーム」である点です。従来は、顧客対応、在庫管理、マーケティングなど、それぞれ別々のシステムやツールを使う必要がありましたが、このプラットフォームではこれらを一元的に管理できる可能性があります。また、オープンスタンダードとUCPへの対応により、他のシステムやサービスとの連携も容易になると考えられます。

Wing配送サービスの拡大

 発表の最後に、Pichai氏は配送の重要性について言及しました。配送は顧客体験の最も重要な要素の1つである一方、小売業者にとっては依然として非常に高コストで物流的に困難な課題であり、「まさに我々Alphabetが解決を好む難しい問題」だとしています。

 GoogleとWalmartのパートナーシップにより、Wingは2025年に既存市場での配送を倍増させました。そして今回、サービスエリアの拡大が発表され、来週ヒューストンで配送を開始し、オーランド、タンパ、シャーロットなど、さらに多くの都市への展開が予定されているとのことです。

 Wingは、Googleの親会社Alphabetが運営するドローン配送サービスです。この技術は、特に「ラストワンマイル」と呼ばれる配送の最終段階のコスト削減と効率化に貢献する可能性があります。従来の配送トラックによる配送と比較して、ドローンは交通渋滞の影響を受けず、人件費も抑えられるため、小規模な商品の迅速な配送に適していると考えられます。

まとめ

 Googleは、エージェント型コマースに対応するオープンなプロトコル「UCP」、小売業向けAIプラットフォーム「Gemini Enterprise for Customer Experience」、Wing配送サービスの拡大により、発見から購入、配送まで一貫した顧客体験の実現を目指しています。特にUCPは業界横断的な協力体制で開発されており、小売業のデジタル変革における重要な基盤となる可能性があります。AIエージェントが購買体験をどのように変えていくのか、2026年の動向が注目されます。

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