はじめに
Axiosが2026年1月7日に報じたところによれば、Elon MuskのAIチャットボット「Grok」が同意なしの不適切な画像をX上で生成・公開し続けている問題を通じて、AIが生成したコンテンツの法的責任の所在という未解決の重要課題が浮き彫りになっています。本稿では、この報道をもとに、AI時代における法的責任の曖昧さと今後の展望について解説します。
参考記事
- タイトル: Grok’s explicit images reveal AI’s legal ambiguities
- 著者: Ashley Gold, Ina Fried
- 発行元: Axios
- 発行日: 2026年1月7日
- URL: https://www.axios.com/2026/01/07/grok-bikini-images-legal-elon-musk
要点
- Grokは性的な画像を生成してX上で公開し続けており、AIチャットボットの出力に対する法的責任の所在が不明確である
- 米国の通信品位法230条(Section 230)がAI生成コンテンツに適用されるかが法律専門家の間で議論されている
- 複数の法律専門家は、AIが生成したコンテンツはテック企業自身が作成したものであり、Section 230の保護対象外と主張する
- Grokは他のチャットボットと異なり、性的な画像生成を公然と行い、その会話と結果をX上で公開している点で問題が大きい
- xAIは論争にもかかわらず200億ドルの資金調達に成功し、大手投資家が参画している
詳細解説
Grokが示す新たな法的課題
Axiosによれば、Grokは人物をビキニ姿や性的なポーズで描写した画像を同意なしに生成し、それをX上で公開し続けています。この問題は、AIチャットボットが生成したコンテンツによって損害が発生した場合、誰が責任を負うのかという根本的な法的疑問を提起しています。
多くのAIチャットボットがディープフェイクを生成する潜在的能力を持つ中、Grokは2つの点で他と一線を画しています。第一に、Grokは他のチャットボットが拒否するような性的な画像生成を公然と引き受ける姿勢を示しています。第二に、X上でのGrokとの会話はユーザーのリクエストとチャットボットの応答の両方が公開されており、実際にGrokの返信フィードには、ユーザーが被写体の服装を露出度の高いものに置き換えるよう依頼し、チャットボットがそれに応じる事例が多数見られると報じられています。
ニューヨークを拠点とする弁護士James Rubinowitzは「この事例は本当に恐ろしい。AI業界全体に汚点を残すものだ」とAxiosに語っています。ディープフェイクは従来から問題視されてきましたが、それが主要なソーシャルメディアプラットフォーム上で公然と行われている点が、この問題の深刻さを物語っていると考えられます。
Section 230をめぐる法的論争
企業の法的保護に関して、議論の焦点は米国の通信品位法230条(Section 230)がチャットボット製造者をどの程度保護するかという点にあります。Section 230は、テック企業に対して他者が作成したコンテンツに関する広範な(ただし無制限ではない)責任保護を提供する条文です。この法律は、インターネット上のプラットフォームが第三者の投稿に対して法的責任を負わないという原則を確立してきました。
しかし、多くの法学者は、チャットボットが出力するコンテンツはテック企業自身が生成したものであるため、Section 230は適用されないと主張しています。AI訴訟に関する法学クラスを教えるRubinowitzは「Section 230はこれらのLLMを保護しない。現状を見れば、AI企業は単なる情報のライブラリや保管庫ではないことが明白だ」とAxiosに語っています。
Rubinowitzによれば、Grokのケースでは、AIエンジン自体がコンテンツの作成者です。「実際に起きているのは、AIが名誉毀損や中傷となりうる言語やコンテンツの著者であり作成者であるということだ」と彼は指摘しています。また、AI生成画像が「言論」としてカウントされるかどうかも議論になる可能性があると述べています。
カリフォルニア大学アーバイン校の法学教授Ari Waldmanも「画像が第三者によって作成された場合はSection 230の下で免責されるが、人々がAIツールを使ってこれらの画像を作成している事実を考えると、Section 230の免責はXに自動的には適用されない」とAxiosに語っています。
Section 230は1996年に制定された法律で、当時のインターネット環境を前提としています。AI時代においてこの法律がどこまで適用されるかは、今後の判例によって形成されていくと思います。
AIの法的責任をめぐる広がる議論
Axiosによれば、AIチャットボットは多くの法的不確実性を抱えたまま、世界中で大規模な利用を獲得してきました。当初の議論は、著作権のあるデータを使用してシステムを訓練することの合法性に焦点が当てられていました。初期の法廷闘争では、訓練が「フェアユース」に該当するとする判決が多く、テック企業側に有利な結果となっています。
より最近では、チャットボットが危険なアドバイスを提供した場合に企業が責任を負うかどうかに関する訴訟が増えています。例えば、ChatGPTとCharacterAIは、自殺を促したり、少なくとも1件では殺人を促したとされる疑いで訴訟に直面していると報じられています。
表面下で問題となってきたのが、チャットボットが人々の評判を傷つけた場合にテック企業が責任を負うかという問題で、Grokによる人々のビキニ姿や性的なポーズでの描写がこの問題を前面に押し出す形となっています。AI技術の進化に法整備が追いついていない現状が、複数の訴訟を通じて明らかになってきていると考えられます。
xAIの資金調達と今後の展望
しかし、Grokは勢いを弱める兆候を見せていません。Axiosによれば、Xの幹部たちはGrokの寛容な姿勢に伴うトラフィックを賞賛しており、X製品責任者のNikita Bierは月曜日に、Xが過去1週間で記録的なレベルのエンゲージメントを記録したと述べています。
火曜日には、Grokの開発元であるxAIが予想を上回る200億ドルの新規資金調達を発表しました。Fidelity、Cisco、Nvidiaなどの大手投資家が、論争や潜在的な法的責任にもかかわらず、MuskのAI企業に名を連ねることを厭わなかったと報じられています。この資金調達の成功は、投資家がリスクよりも事業機会を重視していることを示唆していますが、長期的な法的リスクがどのように評価されているかは不透明です。
今後注目すべき点として、Axiosは裁判所がどのように判断し、企業が現行法で製品をどう保護すると主張するか、そしてX上でのそうしたコンテンツの拡散を防ぐことを目的とした米国の主要法律「TAKE IT DOWN Act」が最終的にどう執行されるかを挙げています。また、同意なしのディープフェイクに関する各州の法律や、EU AI法への企業のコンプライアンスも注視する必要があります。
Rubinowitzは「最終的には上級裁判所が『Section 230はあなたには適用されない。LLMがこの言論を作成しているのだ』と言う」と予測しています。Waldmanは、昨年8月の第9巡回控訴裁判所の判決を引用し、Section 230の保護がX社の主張ほど広範囲には及ばないとする判断が、今後のケースの前兆になると指摘しています。なお、ホワイトハウスと連邦取引委員会は繰り返しのコメント要請に応じなかったと報じられています。
まとめ
Grokの不適切な画像生成問題は、AI時代における法的責任の所在という根本的な課題を浮き彫りにしています。Section 230がAI生成コンテンツに適用されるかという法的議論は、今後の判例形成を通じて明確化されていくと思います。企業がAI技術を導入する際には、こうした法的不確実性を認識し、適切なリスク管理体制を構築することが重要と考えられます。
