[ニュース解説]中国で広がるAIによる宿題監視——172万人が利用する「Dola」の実態と専門家の警鐘

目次

はじめに

 中国で、AIチャットボットを使って子供の宿題を監視する親が急増しています。オーストラリアのABC Newsが2025年12月28日に報じたところによると、TikTokの親会社であるByteDanceが開発した「Dola」というAIアプリの月間利用者数は約1億7200万人に達しています。本稿では、この報道をもとに、中国における教育分野でのAI活用の実態と、専門家が指摘する懸念点について解説します。

参考記事

要点

  • TikTokの親会社ByteDanceが開発したAIチャットボット「Dola」が、中国で子供の宿題監視ツールとして月間約1億7200万人に利用されている
  • 中国の経済成長鈍化に伴い、高額な家庭教師の代替手段として、AIによる学習支援が注目されている
  • AIは子供の姿勢や集中力を監視し、親子間の衝突を避ける役割も果たしているとされる
  • 専門家は、AIの過度な使用が子供の思考プロセスや社会性の発達を阻害する可能性を指摘している
  • 開発者には、使用時間の制限や年齢に適したコンテンツの提供など、適切な安全対策が求められている

詳細解説

Dolaとは – ByteDanceが開発したAI学習支援ツール

 Dolaは、TikTokを運営するByteDanceが開発したAIチャットボットです。ABC Newsの報道によれば、中国統計プラットフォームQuestMobileのデータでは、月間利用者数は約1億7200万人に達しています。

 このアプリは単なる宿題監視にとどまらず、家庭教師のような機能も備えています。親が信頼する育児書や学習教材をアップロードすることで、子供のニーズに合わせた指導を提供できます。また、子供の宿題をチェックし、間違った答えの理由を説明したり、ミスに基づいて類似問題を生成したりする機能も搭載されています。

 学習支援に特化したアプリ「Dola Aixue」の月間アクティブユーザー数は約876万人とされており、教育分野でのAI活用が中国で急速に広がっていることがうかがえます。

中国の教育事情と経済的背景

 中国では、学校が終わった後も親が子供の教育に密接に関わることが期待されています。ABC Newsによれば、宿題や補習授業が放課後の時間を埋め、教師はWeChatなどのソーシャルメディアプラットフォーム上の親チャットグループを通じて課題を割り当て、フィードバックを提供します。親は応答し、進捗状況を報告することが求められています。

 多くの働く家庭にとって、こうした要求は常に続くものとなっています。現在子育てをしている親の多くは、中国の一人っ子政策によって形成された世代に属しており、4人の高齢の親を支えながら自分の子供を育てる必要があります。伝統的な家庭環境では、母親は仕事を持ち、家事を管理し、放課後の子供の教育監督の主要な責任を負うことが期待されています。

 さらに、中国の経済成長が鈍化する中、多くの家庭が教育にどれだけ費用をかけられるかを見直しています。ABC Newsの記事では、広東省のテレビジャーナリストであるLu Qijunさんが「親は多額の費用を費やしても、結局『腐った尾の子』になってしまうことを心配している」と語っています。この「腐った尾の子」という表現は、何年も教育に投資したにもかかわらず仕事がない若い成人を指す中国の人気ミームです。

 かつて中国の何百万もの都市部中流階級世帯で一般的だった家庭教師は、多くの生徒が1日に数時間を学業や課外授業に費やし続けているにもかかわらず、正当化することが難しくなっています。このような背景から、低コストで利用できるAIツールが注目されているわけです。

AIによる宿題監視の仕組みと親の利用実態

 Lu Qijunさんは忙しい時、息子が宿題を始める前に、息子の机に携帯電話を置きます。カメラはオンになり、そのままの状態が続きます。ABC Newsの報道によれば、息子が前かがみになると、電話の中の穏やかな声が姿勢を正すよう促します。ペンをいじると、やめるように言います。ペースが遅くなると、もっと速く作業するよう促します。

 Lu Qijunさんは「Dolaは私の代わりに彼を見守ってくれます」と述べ、ソーシャルメディア上で息子がチャットボットの指示に反応する様子を収めた軽快な動画を共有し、中国の親から数千回の視聴を集めています。「今では彼が宿題をしている間、本を読んだりメッセージに答えたりできます」とLuさんは語ります。

 また、このアプリによって「自分だけの育児聖書を持っているようなもの」だとLuさんは表現しています。親が信頼する教材を基にAIが個別指導を行うことで、家庭教師を雇うよりも経済的な負担が軽減されると考えられます。

親子の衝突を避けるツールとしてのAI

 ABC Newsによれば、一部の親はこのアプリが子供との衝突を避けるのにも役立つと述べています。河南省中部出身のWu Yutingさんには、小学校に通う2人の子供がいます。彼女と夫は以前、子供たちが宿題を終えるまでそばに座っていましたが、そのルーチンはしばしば挫折で終わっていました。

 「私の子供たちはAIの前ではよりよく振る舞います」とWuさんは言います。「彼らは私があまりにも多くしゃべると思っています。」

 Wuさんによれば、AIボットは穏やかなトーンで子供たちに話しかけます。これは、長い一日の後に親と子の間で簡単に高まる緊張とは対照的です。RMIT大学社会公平性研究センターの准教授であるQi Jing博士は、人工知能システムが使用する言語は、忍耐強く励ますように設計されていると述べました。

 ただし、Qi博士は「親がAIを子供の学習の一部として使用する場合、対処する必要がある衝突を避けている可能性があります」と指摘しています。「(子供の)脳は、適切に発達するために衝突、苦闘、課題を必要とします」との見解を示しました。

 この指摘は重要な視点と考えられます。親子間の対話や時には生じる衝突は、子供の社会性や問題解決能力を育む上で重要な要素である可能性があります。AIがその機会を奪ってしまうことへの懸念は、今後検討すべき課題と言えます。

専門家が指摘する懸念点と適切な境界線

 教育分野でのAI利用が拡大する中、専門家たちは明確な境界線を設ける必要性を強調しています。

 Qi Jing博士は、人工知能には親や教師の監督に代わるために必要な文脈的理解が欠けていると述べています。「AIは確かに使用できますが、使い方次第です」とQi博士は指摘します。

 ABC Newsの報道によれば、Qi博士はペンで遊んだり短時間一時停止したりする行動は、必ずしも注意散漫を示すものではなく、子供の思考プロセスの一部である可能性があると述べています。この見解は、AIが表面的な行動のみを監視し、子供の内面的な思考活動を適切に評価できない可能性を示唆しています。

 メルボルン大学のAIおよびデジタル倫理センターの共同ディレクターであるJeannie Paterson教授は、子供向けに設計されたAI製品には、使用時間の制限、年齢に適した言語、有害なコンテンツからの保護が含まれるべきだと述べています。

 Paterson教授は、AIとの過度な交流が子供の現実世界への関与を弱め、必須の社会的スキルの発達を妨げる可能性があると警告しています。「開発者は、AIが子供の最善の利益に沿っていない兆候がないか、パフォーマンスを注意深く監視する必要があります」と述べました。

 また、Paterson教授は、開発者が子供にテクノロジーが生きているとか、人間の感情を持っているとか示唆しないよう注意する必要があると主張しています。「AIはツールであり、友達ではありません」とPaterson教授は強調します。「いくつかのタスクを支援できますが、子供を気遣ったり愛したりすることはありません。」

 この指摘は、子供がAIに対して適切な認識を持つことの重要性を示しています。AIを過度に擬人化することで、子供が現実の人間関係との違いを理解できなくなる懸念があります。

慎重に活用する親たち

 一方で、ABC Newsの報道では、AIを慎重に活用する親の姿も紹介されています。

 Lu Qijunさんは、あまりにも多くのプロンプトが息子の気を散らすことに気づいた後、話す頻度を制限しました。「忙しすぎる時だけ使います。時間があれば、彼と一緒に座る方が好きです」とLuさんは述べ、感情的な依存に対する懸念を挙げています。「彼はまだとても若いです。私は彼にそれを仲間として扱ってほしくありません。」

 上海を拠点とする国際教育分野で働く母親のElaine Zhouさんは、2人の息子がAIツールを使って質問を調べたり宿題をチェックしたりしていると述べています。しかし、彼女はAI主導の監督については慎重な姿勢を保っており、過度の使用、プライバシー、子供に適さないコンテンツへの露出について懸念を抱いています。

 「子供にとって、AIは非常に効率的で使いやすいものです」とZhouさんは言います。「しかし、それは彼らが行う思考のプロセスを減らす可能性もあります。」

 このように、利用者自身もAIの限界や潜在的なリスクを認識しながら、適切な使い方を模索している様子がうかがえます。

まとめ

 中国では、経済的な理由と親子関係の調整という2つの要因から、AIによる宿題監視が急速に普及しています。ABC Newsの報道によれば、ByteDanceのDolaは1億7200万人もの月間ユーザーを獲得し、教育分野でのAI活用の大きな可能性を示しています。一方で、専門家たちは子供の思考プロセスや社会性の発達への影響を懸念しており、適切な境界線と開発者の責任ある設計が求められています。技術の進歩と子供の健全な発達のバランスをどう取るか、今後も注目すべきテーマと言えます。

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