[ニュース解説]YouTube、AI生成の偽映画予告編を大量投稿していた大規模チャンネルを削除

目次

はじめに

 Futurismが2025年12月21日に報じたところによると、YouTubeはAI生成された偽の映画予告編を大量に投稿していた2つの大規模チャンネルを削除しました。本稿では、この措置の背景と、プラットフォーム上でのAIコンテンツ管理の課題について解説します。

参考記事

要点

  • YouTubeは、AI生成の偽映画予告編を大量投稿していたScreen Culture(インド)とKH Studio(米国)の2チャンネルを削除した
  • 両チャンネルは合計200万人以上の登録者と10億回以上の再生回数を持つ大規模なものだった
  • 本物の映画映像とAI生成画像を組み合わせて視聴者を欺き、公式予告編より早く大量の偽予告編を投稿していた
  • 当初は「ファン予告編」などの免責表示で広告収益を回復していたが、最近その表示を削除したことで削除措置となった
  • YouTubeには依然として大量のAI生成コンテンツが存在し、プラットフォーム全体の対策は不透明である

詳細解説

削除されたチャンネルの規模と手法

 Deadlineの報道によれば、今回削除されたのはインド拠点のScreen Cultureとアメリカ拠点のKH Studioという2つのチャンネルです。両チャンネルを合わせると、登録者数は200万人以上、総再生回数は10億回を超える大規模なものでした。

 これらのチャンネルは、AI生成画像と実際の映画の著作権保護された映像を組み合わせて偽の予告編を制作し、視聴者を欺いていたとされています。特に問題視されたのは、公式予告編が公開される前に大量の偽予告編を投稿し、検索結果で本物を埋もれさせる手法でした。2025年3月には、Screen Cultureが『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップス』の偽予告編を23本も投稿し、一部は公式予告編を検索ランキングで上回っていたとDeadlineは報じています。

 この手法は、視聴者の期待や興味を利用してエンゲージメントを不正に獲得するものと考えられます。映画ファンが公式情報を求めて検索した際に、偽の予告編が上位表示されることで、誤った情報が拡散されるリスクもあります。

YouTubeの対応とその経緯

 Futurismによれば、YouTubeは今年初めのDeadlineの調査報道を受けて、両チャンネルの広告収益化を停止していました。しかし、チャンネル運営者は動画タイトルに「ファン予告編」「パロディ」「コンセプト予告編」などの免責表示を追加することで、広告収益を回復していたとのことです。

 最終的な削除措置に至ったのは、両チャンネルが最近になってこれらの免責表示を削除したためと報じられています。この変更により、視聴者を欺く意図がより明確になったと判断された可能性があります。

 プラットフォーム運営者による段階的な対応は、一般的にコンテンツポリシー違反に対する標準的なアプローチです。警告、収益化停止、最終的なアカウント削除という段階を経ることで、運営者に改善の機会を与える一方、悪質な行為には厳格に対処する姿勢を示していると言えます。

AI映像生成技術と著作権の問題

 記事では、OpenAIの動画生成アプリSoraを使ったディズニー作品のパロディ予告編が大量に制作されている現状も取り上げられています。中には、ジェフリー・エプスタインを題材にした不適切なピクサー風アニメーションなども含まれていたとのことです。

 興味深いのは、Futurismが指摘するように、ディズニーが先週OpenAIに10億ドルを投資し、Sora向けにキャラクターの公式ライセンス提供を発表したという点です。これは、AI生成コンテンツに対する企業の姿勢が、自社の知的財産が無断使用される場合と、公式にライセンスされる場合とで大きく異なることを示しています。

 著作権法の観点から見ると、本物の映画映像を無断で使用する行為は明確な権利侵害と考えられます。一方、AI生成のみで制作されたパロディコンテンツは、フェアユースの範囲として認められる可能性もありますが、商業利用の場合は慎重な判断が必要です。

プラットフォーム全体の課題

 Futurismは、今回の措置がYouTube全体のAI生成コンテンツ問題の解決にはつながっていないと指摘しています。プラットフォーム上には依然として、AI生成音楽、「退屈な」「眠くなる」スタイルで作られた長時間の情報動画、さらには暴力的なコンテンツなど、大量のAI生成コンテンツが存在しているとのことです。

 また、AIを使って公的人物になりすましたコンテンツも数十万回の再生を獲得している状況が報告されています。記事は、今回のチャンネル削除は著作権を侵害し続けたことで権利者の怒りを買った結果であり、プラットフォーム全体の品質管理という観点からの対策ではないと分析しています。

 AI生成コンテンツの品質管理は、技術的にも法的にも複雑な課題です。完全に自動化された検出は難しく、かといって人手による審査には限界があります。プラットフォーム運営者は、ユーザーの表現の自由と、品質・信頼性の担保のバランスを取る必要があると言えます。

まとめ

 YouTubeによる大規模AI偽予告編チャンネルの削除は、著作権侵害への対処という側面が強いと考えられます。一方で、プラットフォーム全体に広がるAI生成コンテンツの品質管理という課題は、依然として解決の道筋が見えていません。今後、AIコンテンツの適切な表示と品質担保のための、より包括的な仕組みが求められるのではないでしょうか。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次