はじめに
近年、AI(人工知能)技術は目覚ましい発展を遂げ、様々な分野で活用されています。特に、顧客とのコミュニケーションやサポート業務において、AIの導入は業務効率化や顧客満足度向上に大きく貢献する可能性を秘めています。
本稿では、デジタル広告プラットフォームを提供するSmartly社が、Meta社が開発した生成AIモデル「Llama 3」を活用し、顧客サービスと技術サポートの自動化に成功した事例について、AIに詳しくない方にも分かりやすく解説します。
引用元:
- 記事タイトル: AI Artifacts: An interview with Ruben Fro and Benjamin Bardou
- 参照元URL: https://ai.meta.com/blog/ai-action-summit-2025-ruben-fro-benjamin-bardou-mehdi-mejri/
- 発行日: 2025年2月12日
要点
- Smartly社は、増大するサポート業務に対応するため、顧客データのプライバシーを守りつつ、既存システムと連携できるAIソリューションを必要としていました。
- Meta社の生成AI「Llama 3」を導入し、特別なトレーニングなしで、チケット発行の自動化、顧客向けメッセージの生成、技術的な解決策の草案作成などを実現しました。
- Llama 3はオープンソースであるため、Smartly社は自社のインフラ(Kubernetes環境)上で運用し、データセキュリティを確保しました。
- 結果として、チケット作成にかかる時間を約80%削減、解決メッセージ作成時間を半減させ、顧客満足度とサポートスタッフの士気向上に繋がりました。
詳細解説
背景:増大するサポート業務と求められる効率化
Smartly社は、競争の激しいデジタル広告業界で、AIを活用して広告配信の最適化などを支援するプラットフォームを提供しています。事業の成長に伴い、技術サポートへの問い合わせ件数も増加し、サポートチームは多忙を極めていました。優れた顧客サービスを維持しながら業務を効率化する必要に迫られていたのです。
課題:セキュリティと連携性を満たすAIの導入
Smartly社がAIに求めたのは、単なる自動化ではありませんでした。
- 高度なタスク遂行能力: 複数の情報源から情報を収集し、問題を要約し、技術チーム向けの明確なチケットを作成し、解決後には顧客向けの丁寧なメッセージを作成する能力。
- セキュリティとプライバシー: 顧客データを外部のクラウドサービスに送ることなく、自社のプライベートな環境(Kubernetesベース)でAIを運用すること。
※Kubernetes(クバネティス)とは:コンテナ化されたアプリケーションの展開、スケーリング、管理を自動化するためのオープンソースプラットフォームです。多くのサーバーを効率的に管理するのに役立ちます。 - 既存システムとの連携: 既存のインフラにスムーズに統合でき、リソース消費を抑えられること。
解決策:オープンソースLLM「Llama 3」の採用
これらの要件を満たすものとして、Smartly社はMeta社が開発した大規模言語モデル(LLM)「Llama 3」を選択しました。
※大規模言語モデル(LLM)とは:大量のテキストデータを学習し、人間のように自然な文章を生成したり、テキストの内容を理解したりできるAIモデルのことです。生成AIの中核技術の一つです。
Llama 3が選ばれた理由は、優れたテキスト理解能力、統合の容易さ、比較的小さなサイズでありながら高機能である点、そしてオープンソースである点でした。オープンソースであるため、Smartly社はライセンス費用を抑えつつ、自社のインフラストラクチャ上に自由にデプロイし、データの完全な制御権を維持することができました。
導入と活用:プロンプトエンジニアリングとインフラ最適化
驚くべきことに、Smartly社はLlama 3に対して特別な追加トレーニングやファインチューニング(微調整)を行いませんでした。代わりに、基本的なプロンプトエンジニアリングとフューショット学習(いくつかの例を示すだけでAIに指示を理解させる手法)を用いました。チケットのタイトルや説明、文体などの具体的な指示と例を与えることで、Llama 3は期待されるタスクを実行できるようになったのです。
※プロンプトエンジニアリングとは: AI(特にLLM)に対して、望ましい出力を得るために、入力する指示(プロンプト)を工夫することです。
Llama 3はSmartly社の既存のKubernetesプラットフォームにスムーズに統合されました。当初、通常のCPUでは処理速度に課題がありましたが、GPU(画像処理装置)を活用することでパフォーマンスを大幅に向上させました。
※CPUとGPUの違いとは: CPUはコンピュータの「頭脳」で汎用的な計算を担当しますが、GPUは並列処理が得意で、特に画像処理やAIの計算を高速化できます。
成果:大幅な時間削減と品質向上
Llama 3の導入により、Smartly社は目覚ましい成果を上げています。
- チケット作成業務の自動化: 重複作業がなくなり、作業時間を約80%削減しました。
- 解決メッセージ作成の効率化: 定型化された高品質なメッセージを迅速に作成できるようになり、作成時間を約半分に短縮しました。
- コミュニケーション品質の向上: 一貫性のあるプロフェッショナルなメッセージにより、顧客とのやり取りがより明確になりました。
- 従業員満足度の向上: 反復的な作業から解放されたサポート担当者は、より複雑な問題解決に集中できるようになり、モチベーションと自信が向上しました。
今後の展望
Smartly社は、今後もLlama 3の活用範囲を広げ、チケットの分類、製品サポートの分析、エラーメッセージの改善提案など、新たな社内ツールの開発を計画しています。
まとめ
本稿では、Smartly社が生成AI「Llama 3」を導入し、顧客サポート業務の自動化と品質向上を実現した事例を紹介しました。この事例のポイントは、高度なAIモデルを、セキュリティ要件を満たしながら自社環境で活用し、特別なトレーニングなしにプロンプトエンジニアリングだけで大きな成果を上げた点にあります。Llama 3のようなオープンソースLLMの登場により、多くの企業が自社のニーズに合わせてAIを導入し、業務革新を進める可能性が広がっていると言えるでしょう。Smartly社の取り組みは、AIを活用した顧客体験向上の優れたモデルケースとして、今後の参考になるはずです。
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