はじめに
ロサンゼルス・タイムズが2025年12月17日に報じたところによると、ハリウッドの映画監督や俳優、プロデューサーら18人が、AI技術の発展に伴うクリエイターの権利保護を目的とした新組織「Creators Coalition on AI」を設立しました。本稿では、この連合の設立背景、参加メンバー、掲げる原則、そしてハリウッドにおけるAI問題の現状について解説します。
参考記事
- タイトル: Hollywood stars launch Creators Coalition on AI
- 著者: Wendy Lee
- 発行元: Los Angeles Times
- 発行日: 2025年12月17日
- URL: https://www.latimes.com/entertainment-arts/business/story/2025-12-17/hollywood-stars-launch-creators-coalition-on-ai
要点
- 映画監督ダニエル・クワン、俳優ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ナターシャ・リオンヌら18人が「Creators Coalition on AI」を創設した
- この連合は、大手AI企業の非倫理的なビジネス慣行に対抗し、クリエイターの権利を擁護することを目的としている
- ディズニーとOpenAIの最近のライセンス契約が、多くの業界関係者に衝撃を与えた
- 連合は透明性、同意、補償、雇用への配慮などの原則を掲げ、AI諮問委員会を設置する予定である
- AIの完全拒否ではなく、責任ある人間中心のイノベーションを目指すと明言している
詳細解説
創設メンバーと組織の目的
ロサンゼルス・タイムズによれば、Creators Coalition on AIは、映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の監督であるダニエル・クワン、俳優のジョセフ・ゴードン=レヴィットとナターシャ・リオンヌ、そして米国映画芸術科学アカデミーの元会長であるプロデューサーのジャネット・ヤンを含む18人によって設立されました。
ゴードン=レヴィットは、この組織がハリウッドの著名人に限定されるものではなく、ポッドキャスター、デジタルコンテンツクリエイター、ニュースレター執筆者など、あらゆるクリエイターとその周辺で働く専門職に開かれていると説明しています。同氏は「私たちは皆、生成AI技術そのものではなく、多くの大手AI企業が行っている非倫理的なビジネス慣行という同じ脅威に直面しています」と述べ、公的圧力、集団行動、訴訟、そして最終的には立法を通じて、クリエイターが団結すれば大きな力を持つと訴えました。
このような組織化の動きは、エンターテインメント業界においてAI技術への対応が急務となっている現状を反映していると考えられます。個々のクリエイターではなく、集団として声を上げることで、より効果的な交渉力を持つことができる可能性があります。
ハリウッドにおけるAI問題の現状
記事によれば、ハリウッド業界は急速に発展するAIツールへの対応に苦慮してきました。多くのアーティストが、自分の肖像や作品が許可なく、また補償なしに使用されることへの懸念を表明しています。
テクノロジー業界側は、オンラインで入手可能なコンテンツを使ってAIモデルを訓練することは、著作権者の許可なく限定的に素材を複製できる「フェアユース」の原則に該当すると主張しています。一方で、一部のスタジオはAI企業と提携し、マーケティングや視覚効果などの分野でAIツールを活用し始めています。
特に注目を集めたのが、先週発表されたウォルト・ディズニー・カンパニーとOpenAIのライセンス契約です。この契約により、ミッキーマウスやヨーダなどの人気キャラクターが、OpenAIのテキストから動画を生成するツール「Sora」で使用できるようになりました。クワン監督はハリウッド・リポーター誌に対し、この契約発表時に多くの人が「完全に不意を突かれた」と感じたと語っています。
フェアユースの原則は、従来は教育目的や批評などの限定的な文脈で適用されてきた法的概念ですが、AI学習データとしての大規模な利用がこの原則の範囲内かどうかは、現在も法的に議論が続いている問題です。
また、今年初めにはディズニー、ユニバーサル、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーがAI企業Midjourneyを著作権侵害で提訴するなど、訴訟も起きています。このように、業界内でもAI技術への対応は一枚岩ではなく、パートナーシップを結ぶ企業と訴訟を起こす企業が混在している状況と言えます。
連合が掲げる原則と今後の活動
Creators Coalition on AIは、ウェブサイト上で複数の重要な原則を掲げています。ロサンゼルス・タイムズの報道によれば、これにはAIツール使用における透明性、同意、管理、補償の重要性、潜在的な雇用喪失への配慮、誤用やディープフェイクに対する防護措置、そして創造プロセスにおける人間性の保護が含まれます。
連合は、AI諮問委員会を招集し、「AIが使用される場合の共有基準、定義、ベストプラクティス、倫理的・芸術的保護を確立する」計画を発表しています。重要なのは、この組織がAIの完全拒否を意図していない点です。ウェブサイト上で「これはAIの全面的な拒否ではありません。技術はすでに存在しています。これは、責任ある人間中心のイノベーションへのコミットメントです」と明言しています。
さらに連合は、「これはテクノロジー業界とエンターテインメント業界の間の分断線でもなく、労働者と企業の間の線でもありません。私たちは、これを速くやりたい人と、正しくやりたい人との間に線を引いているのです」と述べています。この姿勢は、技術進歩そのものを否定するのではなく、その実装方法と倫理的枠組みに焦点を当てるものと理解できます。
記事によれば、この連合のアイデアは、来年公開予定のAIに関するドキュメンタリーを制作したクワン監督から生まれ、今年半ばから活動が始まったとのことです。すでに、ナタリー・ポートマン、グレタ・リー、キルステン・ダンスト、オーランド・ブルームなどの俳優を含む多くの署名者を集めています。
まとめ
ハリウッドの著名クリエイターたちによる「Creators Coalition on AI」の設立は、AI時代における創作者の権利保護を求める動きの象徴と言えます。ディズニーとOpenAIの契約に代表される業界の変化に対し、連合はAI技術そのものを否定するのではなく、透明性と倫理性を重視した「正しい」実装を求めています。今後、この組織がどのような具体的な行動を取り、業界にどのような影響を与えるか注目されます。
