はじめに
Reutersが2025年12月12日に報じた内容によれば、AI技術を支えるデータセンター建設において、債務による資金調達が急激に拡大しています。本稿では、この報道をもとに、AIインフラ投資における債務市場の動向と、それに伴うリスクについて解説します。
参考記事
- タイトル: Five debt hotspots in the AI data centre boom
- 著者: Lucy Raitano
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2025年12月12日
- URL: https://www.reuters.com/business/finance/five-debt-hotspots-ai-data-centre-boom-2025-12-11/
要点
- AIデータセンター関連の債務発行額は、2024年の150億ドルから2025年には1,250億ドルへと8倍以上に急増した
- Oracle、Meta、Alphabetなどの大手テック企業が、投資適格債市場で大規模な資金調達を実施している
- ハイイールド債市場でもAI関連の発行が記録的な水準に達し、プライベートクレジット市場も急拡大している
- イングランド銀行は、AI関連債務の拡大が金融安定性リスクを高める可能性があると警告した
- 投資家の間では、データセンターの実証が不十分な段階での大規模投資に対する懸念が存在する
詳細解説
AIデータセンター向け債務調達の急拡大
Reutersによれば、UBSのレポートでは、AIデータセンターおよびプロジェクトファイナンス関連の債務発行額が、2025年には1,250億ドルに達したと報告されています。これは2024年同期の150億ドルから8倍以上の増加です。2026年以降もこのセクターからの債務発行が信用市場において重要な位置を占めると予想されています。
T. Rowe Priceの債券ポートフォリオスペシャリストであるAnton Dombrovskiy氏は、公的・私的な信用市場がAI投資の主要な資金源となっており、その急速な成長が懸念を生んでいると述べています。これまでのところ供給増加に対して比較的健全な需要が見られるものの、今後の大規模な資金調達ニーズを考慮すると注視すべき領域と考えられます。
イングランド銀行は先週、AIインフラブームにおける債務の役割拡大が、評価額の修正が起きた場合に金融安定性リスクを高める可能性があると警告しました。
Oracle株価下落とCDS上昇が示す投資家の懸念
Reutersによれば、Oracle株は木曜日に約11%下落し、1月以来最大の1日の下げ幅を記録しました。同社の大規模な支出と弱い予測が、AI投資の収益化スピードに対する疑念を増幅させたことが要因です。
CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは、債務不履行に対する保険のような金融商品です。Oracleの5年物CDSは木曜日、S&P Globalのデータによれば2009年以来の最高水準で取引を終えました。これは投資家が同社の債務リスクを警戒していることを示す指標と言えます。
Oracle株は9月にOpenAIとの3,000億ドルの契約を背景に年初来でほぼ倍増していましたが、その後42%下落しています。信用格付け機関Moody’sは9月、Oracleの新規契約における複数のリスクを指摘しましたが、格付け変更には至っていません。
Reutersによれば、Boaz Weinstein氏が率いるSaba Capital Managementは最近数ヶ月間、OracleやMicrosoftなどの企業に対する保護を求める貸し手にクレジットデリバティブを販売したとのことです。
投資適格債市場での大規模調達
投資適格債(Investment Grade)市場では、信用格付けが比較的高い企業が発行する債券が取引されます。Reutersによれば、この市場では近ヶ月、テック企業からの発行が大幅に増加しています。9月と10月の大型案件には、Oracleの180億ドル、Metaの300億ドルが含まれ、Googleの親会社Alphabetも新規借入を発表しました。
JP Morganの推計では、AI関連企業が同社の投資適格債インデックスの14%を占め、米国銀行を抜いて主要セクターとなっています。ただし、大手テック企業の案件は2025年に予想される約1兆6,000億ドルの米国投資適格債発行全体のごく一部に過ぎません。
Neubergerの投資適格債チームでポートフォリオマネージャー兼シニアトレーダーを務めるChristopher Kramer氏は、最大手のテック企業がAIインフラへの野心を債務で賄う中で、市場が構造的な変化を見せていると述べています。従来、債務発行の中心ではなかったこれらの企業の参入は、リスクを取り投資家に価値を創出する機会を生み出していると考えられます。
ハイイールド債市場での記録的な発行
ハイイールド債市場では、信用格付けが低い企業が高い利回りを提示して資金を調達します。「ジャンク債」とも呼ばれるこの市場でも、AI関連の発行が増加しています。
Dealogicのデータによれば、テック関連のジャンク債発行は記録的な水準に達しています。Reutersによれば、2025年の発行額は2021年のピーク時と同等の水準です。
Mirabaud Asset Managementの債券ポートフォリオマネージャー兼シニアアナリストであるAl Cattermole氏は、11月25日時点で、最近市場に登場したAI関連の投資適格債やハイイールド債には投資していないと述べています。同氏は、データセンターが予定通り予算内で完成し、意図された計算能力を提供し、かつその需要が持続することが実証されるまでは未検証の状態であり、株式のような補償が必要と考えているとのことです。
プライベートクレジット市場の拡大
プライベートクレジットとは、銀行ではなく投資会社などが提供する融資を指します。この市場もAIデータセンターの資金源として急成長しています。
UBSの推計によれば、プライベートクレジットによるAI関連融資は、2025年初頭までの12ヶ月間でほぼ倍増した可能性があります。Morgan Stanleyの推計では、2028年までのデータセンター建設に必要な1兆5,000億ドルのうち、半分以上をプライベートクレジット市場が供給する可能性があるとされています。
従来、企業の資金調達は銀行融資や債券発行が中心でしたが、近年プライベートクレジット市場が拡大しており、AI関連投資においてもその存在感が増していると言えます。
ABS市場への影響
ABS(Asset-Backed Securities、資産担保証券)は、ローンやクレジットカード債務などの流動性の低い資産を束ねて取引可能な証券にした金融商品です。AI関連では、大手テック企業がデータセンター所有者に支払う賃料などが裏付け資産となります。
Morgan Stanleyによれば、このような証券化商品もAI産業の成長資金として機能するとのことです。BofAによれば、デジタルインフラは約1兆6,000億ドルの米国ABS市場の5%(820億ドル)を占めるに過ぎませんが、5年未満で9倍以上に拡大しました。その市場の63%をデータセンターが占めており、2026年には500億ドルから600億ドルの供給増加が見込まれています。
ABSは2008年の金融危機において、不良債権や流動性が極めて低く複雑な資産に裏付けられた数十億ドル規模の商品が問題となった経緯があるため、慎重に見られる傾向があります。今回のAI関連ABS市場の拡大についても、資産の質や流動性を注視する必要があると考えられます。
まとめ
AIデータセンター建設に向けた債務調達が急拡大しており、投資適格債、ハイイールド債、プライベートクレジット、ABS市場など複数の資金源が活用されています。一方で、Oracleの株価下落やCDS上昇に見られるように、投資家の間では収益化までの期間や実証の不足に対する懸念も存在します。イングランド銀行が金融安定性リスクを警告する中、今後の市場動向が注目されます。
