はじめに
OpenAIが2025年12月9日、初の公式認定コース「AI Foundations」と「ChatGPT Foundations for Teachers」を発表しました。本稿では、この発表内容をもとに、OpenAIが目指すAI教育の全体像と、企業・教育現場における実践的なAIスキル習得支援の取り組みについて解説します。
参考記事
- タイトル: Launching our first OpenAI Certifications courses
- 発行元: OpenAI
- 発行日: 2025年12月9日
- URL: https://openai.com/news/launching-our-first-openai-certifications-courses/
※OpenAIがめざす企業向け制度については以下をご参照ください。

要点
- OpenAIは「AI Foundations」と「ChatGPT Foundations for Teachers」という2つの認定コースを開始し、2030年までに1000万人の米国人にAIスキルを認定する目標を掲げている
- AI Foundationsコースは、ChatGPT内で完結する実践的な学習環境を提供し、修了者には職務に即したAIスキルを証明する認定証が発行される
- ウォルマート、ジョン・ディア、ロウズ、ボストン・コンサルティング・グループなど大手企業や公的機関とのパイロットプログラムを通じて展開される
- 教師向けコースはCourseraで提供開始され、K-12教育現場でのAI活用を支援する
- CourseraやETSなどの教育評価機関と連携し、認定資格の品質と移植可能性を確保している
詳細解説
OpenAI Certifications構想の背景
OpenAIによれば、ChatGPTは現在週に8億人以上が利用しており、スキル構築や仕事探し、実際の問題解決に活用されています。PwCの調査では、AIスキルを持つ労働者は持たない労働者と比較して約50%高い賃金を得ているとされており、AI活用能力が経済的価値に直結する状況が明らかになっています。
こうした背景から、OpenAIは2024年9月に「Expanding Economic Opportunity with AI」構想を発表し、OpenAI CertificationsとOpenAI Jobs Platformという2つの取り組みを打ち出しました。今回の2つのコース開始は、この構想を具体化する重要な一歩と位置づけられます。
ただし、AIの普及は破壊的な変化ももたらすため、多くの人々がどのスキルが重要か、どこから始めればよいか不確実性を感じている状況です。OpenAIは、この破壊を完全に排除することはできないとしながらも、人々がこの変化に適切に対応できるよう支援することを目指しています。
AI Foundationsコースの特徴
AI Foundationsコースは、職種や業界を横断して適用できる実践的なAIスキルの習得を目指すものです。最も特徴的なのは、ChatGPT内で完結する学習体験が提供される点で、OpenAIは「ChatGPTが教師、練習空間、フィードバックループの役割を果たす」と説明しています。
学習者は実際のタスクを練習し、文脈に応じたフィードバックを受け、自分の作業を振り返ることが単一の環境内で可能になります。この設計により、学んだスキルをすぐに実践に移せる環境が整っていると考えられます。
コース修了者には、職務に即したAIスキルを証明する認定証が発行されます。さらに追加コースと実践プロジェクトを完了することで、より包括的な「OpenAI Certification」の取得が可能になるとされています。この認定資格は、現在の職務での成長や新しい職種への転職を支援することを目的としています。
パイロットプログラムと展開パートナー
AI Foundationsコースは、まず以下の主要企業や公的機関とのパイロットプログラムを通じて展開されます:
- 小売・製造業: ウォルマート、ジョン・ディア、ロウズ
- コンサルティング・専門サービス: ボストン・コンサルティング・グループ、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ、アクセンチュア
- メディア・ヘルスケア: ハースト、エレバンス・ヘルス
- プラットフォーム: Upwork
- 公的機関: デラウェア州知事室、Choose New Jersey
これらの多様な業界・組織との連携により、異なる職務環境でのAIスキルの実用性が検証されると考えられます。OpenAIは、今後数ヶ月でこれらのパートナーから学び、改善点を特定した上でコースへのアクセスを拡大する計画を示しています。
教育機関との連携
OpenAIは、AIによって形成される労働市場に若者が参入することを見据え、ChatGPT Labに参加する大学生に早期アクセスを提供します。また、アリゾナ州立大学とカリフォルニア州立大学システムの教職員・学生を対象に認定プログラムのパイロットを実施し、学生が就職市場に参入する際にAIスキルを証明できる道筋を構築しています。
認定資格の質と信頼性を確保するため、OpenAIは以下の専門機関と協力しています:
- Coursera: 学習設計の品質確保
- ETS: 心理測定学的な厳密性の担保
- Credly by Pearson: スキル開発の証明として高い価値と移植可能性を持つ認定証の発行
これらの連携により、認定資格が学習効果、測定の正確性、実社会での影響力という3つの観点で高い基準を満たすことが期待されます。
ChatGPT Foundations for Teachersの展開
教師向けコース「ChatGPT Foundations for Teachers」は、K-12教育現場でのAI活用を支援するものです。OpenAIによれば、すでに5人に3人の教師がAIツールを使用しているというGallupの調査結果があり、多くの教師が時間節約、教材のパーソナライゼーション、生徒へのより良いサポート提供のためにAIを活用しています。
このコースは、K-12教師向けに特化して設計され、以下の内容をカバーします:
- ChatGPTの仕組みの基本
- ツールのナビゲーションとパーソナライゼーション
- 実際の教室業務や管理タスクへの適用方法
コースは現在Courseraで提供されており、OpenAIは2026年初頭にこの学習体験をChatGPTおよびChatGPT for Teachers内に直接統合する計画を示しています。この統合により、AI Foundationsと同様の実践的な学習環境が教師にも提供されることになります。
この取り組みは、OpenAIによる教育支援の一環として位置づけられています。すでに実施されているChatGPT for Teachersイニシアチブ(教育者向けカスタム版ChatGPTの無料提供)、米国教員連盟(AFT)との提携(40万人のK-12教育者への実践的AIスキル提供)、study modeなどの学術ニーズに対応したツール開発と連携して、包括的な教育支援戦略を形成しています。
OpenAI Jobs Platformへの布石
OpenAIは、これら2つのプログラムが「学習、認定、実際の経済的機会を1つの明確な道筋で結びつける」と説明しており、今後展開予定のOpenAI Jobs Platformの基盤となるものと位置づけています。
この戦略において、OpenAIはIndeedとの協力関係を継続し、すべての人に機会を拡大することを目指しています。また、Upworkとの新たな提携も発表されており、Upworkは以下の役割を担うとされています:
- AI教育の拡大支援
- 企業が必要とする特定スキルを持つ人材の採用促進
- 技術的専門知識を世界中の数百万人の新たな経済的可能性に変換
この一連の取り組みは、AIスキル習得から認定、そして実際の雇用機会へと繋がるエコシステムの構築を目指していると考えられます。企業にとっては、認定を持つ人材を効率的に採用でき、個人にとっては学んだスキルを経済的価値に変換できる仕組みが整備されつつあると言えます。

まとめ
OpenAIの初の認定コース開始は、AIスキルの習得から認定、雇用機会への接続までを包括的にカバーする戦略の第一歩です。ChatGPT内での実践的学習環境、大手企業や教育機関との連携、第三者評価機関による質の保証という3つの要素が組み合わされ、AIスキルの標準化と経済的価値への変換が進められています。今後のOpenAI Jobs Platform展開も含め、AI時代の人材育成と雇用市場の変化を示す重要な動きと言えます。
