[ニュース解説]トランプ政権がNvidia H200チップの中国販売を承認、売上の25%を米政府が徴収へ

目次

はじめに

 トランプ大統領が2025年12月8日、AIチップ大手NvidiaによるH200チップの中国への販売を承認しました。売上の25%を米政府が受け取る条件付きでの販売許可となります。本稿では、BBC、CNBC、New York Timesなどの報道と米司法省の発表をもとに、この政策転換の背景と、同日に摘発されたAI技術密輸ネットワーク、さらにトランプ政権が進める連邦統一AI規制の動きについて解説します。

参考記事

メイン記事:

  • タイトル: Trump gives Nvidia green light to sell advanced AI chips to China
  • 著者: Lily Jamali, Osmond Chia
  • 発行元: BBC
  • 発行日: 2025年12月8日
  • URL: https://www.bbc.com/news/articles/ckg9q635q6po

関連情報:

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要点

  • トランプ大統領が12月8日、NvidiaによるH200チップの中国への販売を承認し、売上の25%を米政府が受け取る条件を提示した
  • H200は現行のH20より高性能だが、Nvidia最新のBlackwellチップには及ばない第2世代の製品である
  • 同日、米司法省が「Operation Gatekeeper」でAI技術密輸ネットワークを摘発し、5,000万ドル以上のNvidia GPUと現金を押収した
  • トランプ政権は連邦統一のAI規制フレームワーク構築を推進しているが、フロリダ州デサンティス知事などが州の規制権限維持を主張している
  • AMD、Intelなど他の米国チップメーカーにも同様の販売条件が適用される予定である

詳細解説

Nvidia H200チップ販売承認の背景

 トランプ大統領は12月8日、Truth Socialへの投稿で、Nvidiaが「承認された顧客」に対してH200チップを販売することを許可すると発表しました。BBCによれば、この決定はNvidia CEOのJensen Huang氏が先週ワシントンを訪問し、広範なロビー活動を展開した結果とされています。

 CNBCの報道では、習近平国家主席がこの提案に「前向きに反応した」とトランプ大統領が述べています。この政策は米国の雇用創出と製造業支援、そして納税者への利益をもたらすものと位置づけられています。

 H200チップは、Nvidiaが中国市場向けに特別開発したH20チップより高性能ですが、同社の最新世代であるBlackwellチップには及ばない製品です。この性能の差は、米国が技術的優位性を維持しながらも、一定の商業的機会を提供するという戦略的バランスを反映していると考えられます。

売上分配の仕組みと法的課題

 New York Timesによれば、トランプ大統領は売上の25%を米政府が受け取ると発表しました。これは8月にNvidiaとAMDが合意した15%から10ポイント引き上げられた数字です。

 ただし、専門家の指摘によれば、輸出ライセンスに対して手数料を徴収することは米国法で禁止されており、政府の法律家はこの政策を実現する方法を研究中とのことです。Huang氏は10月の記者会見で、政府当局者が手数料徴収の新しい政策を検討していると述べています。この法的枠組みの整備が、実際の販売開始にどう影響するかは注目点と思います。

議会からの反対と安全保障上の懸念

 この政策転換に対して、議会からは超党派の反対意見が出ています。New York Timesによれば、先週、ネブラスカ州の共和党Pete Ricketts上院議員とデラウェア州の民主党Chris Coons上院議員を含む6人の上院議員が、中国へのAIチップ販売を制限する法案を提出しました。

 ジョージタウン大学Center for Security and Emerging Technology(CSET)の研究者によれば、中国人民解放軍が米国企業製の高度なチップを使用してAI対応の軍事能力を開発しているとの指摘があります。CSETのシニア研究アナリストCole McFaul氏は、「高品質のAIチップへのアクセスを容易にすることで、中国が軍事用途でAIシステムをより簡単に使用・展開できるようになる」と懸念を表明しています。

 国家安全保障の観点からは、AI技術の軍事転用リスクが長年指摘されてきました。一方で、トランプ政権とHuang氏は、中国企業をNvidia技術に依存させることで、将来的な技術開発において米国に優位性をもたらすという戦略的視点を示しています。

中国側の反応と今後の見通し

 New York Timesは、中国が実際にNvidiaのH200を購入するかどうかが重要な問題だと指摘しています。7月にトランプ政権がH20チップの販売制限を解除した際、北京は企業に対して「バックドアのセキュリティリスク」があるとして購入を控えるよう警告しました。

 中国は技術的自立を目指して投資を増やしており、Huaweiが独自のAIチップの改良を進めています。これは、米国とバイデン政権が技術販売の制限を開始して以来の動きです。この文脈では、H200の販売承認があっても、中国市場での実際の需要は不透明な状況と言えます。

米中貿易交渉との関連

 CNBCの報道によれば、半導体は米中間のAI競争の中心にあり、両国の激動する貿易関係においても重要な役割を果たしています。トランプ政権が4月に中国製品に二桁の関税を課した際、北京はレアアース鉱物の輸出を制限しました。レアアースは高性能チップを含む多くの電子機器の生産に不可欠な素材です。

 10月に韓国で開催された会談で、トランプ大統領と習近平国家主席は暫定的な貿易休戦を復活させました。米国は関税を低く保ち、中国はレアアースの安定供給と米国産大豆の購入再開を約束しました。この合意には、米国による新たな技術制限の事実上の凍結も含まれていると広く考えられています。

 シンガポール国立大学のAlex Capri氏は、一部の中国顧客へのH200チップ販売が、米国がレアアースに関して北京と取引を交渉し、世界のサプライチェーンの大規模な混乱を防ぐための「時間稼ぎ」になると分析しています。レアアース処理において中国はほぼ独占的な地位にあり、この地政学的な要素が今回の決定に影響している可能性があります。

AI技術密輸ネットワークの摘発

 同日、米司法省は「Operation Gatekeeper」と名付けられた捜査で、中国関連の大規模なAI技術密輸ネットワークを摘発したと発表しました。この捜査では、5,000万ドル以上のNvidia技術と現金が押収されています。

 テキサス州のAlan Hao Hsu氏とその会社Hao Global LLCは、2024年10月から2025年5月の間に、輸出規制対象のNvidia H100およびH200 Tensor Core GPUを少なくとも1億6,000万ドル相当輸出または輸出を試みたとして、10月10日に有罪を認めました。

 H100とH200は、生成AIや大規模言語モデルの進歩、科学計算の加速に使用される高速GPUです。これらは民生用と軍事用の両方に使用され、AIアプリケーションと高性能コンピューティングに不可欠なものです。司法省によれば、「これらのチップを制御する国がAI技術を制御し、AI技術を制御する国が未来を制御する」とされています。

 容疑者らは出荷書類を偽造し、商品の真の性質と受取人を誤分類することで、GPUの最終目的地を隠蔽しました。中国からの5,000万ドル以上の電信送金がこの計画の資金源となっていました。また、別の容疑者Fanyue Gong氏は、NvidiaのラベルをはがしてGPUに「SANDKYAN」という偽の会社名を付け直し、一般的なコンピューター部品として誤って分類して輸出していたとされています。

 この摘発は、合法的な販売承認と同時に違法な密輸を取り締まるという、米国のAI技術管理における二面的なアプローチを示していると言えます。

連邦統一AI規制をめぐる州との対立

 USA TODAYによれば、トランプ大統領は今週、AIに関する連邦統一フレームワークを確立する大統領令に署名する予定です。この動きは、州が独自のAI規制を課すことを防ぐことを目的としています。

 トランプ大統領は12月8日のTruth Social投稿で「AIで主導権を維持するには、1つのルールブックが必要だ」と述べ、「現時点では全ての国を上回っているが、50州(その多くは悪質な主体)が規則や承認プロセスに関与していたら、それは長く続かない」と主張しています。

 全国州議会会議によれば、2025年には全50州、プエルトリコ、バージン諸島、ワシントンDCがさまざまなAI関連法案を提出しており、少なくとも38州が約100のAI対策を採択しています。これは、AI技術が社会全体に急速に浸透する中で、各州が独自の対応を迫られている状況を反映しています。

 しかし、この連邦統一アプローチにどれだけの議員が賛同するかは不明です。7月にトランプ大統領が税金・支出法案に署名した際、以前提案されていた州・地方のAI規制に対する10年間の連邦禁止措置は既に削除されていました。その数日前、上院はワシントン州の民主党Maria Cantwell上院議員とテネシー州の共和党Marsha Blackburn上院議員が共同提出した修正案を99対1で可決し、州のAI規制に対する10年間のモラトリアムを削除していました。

デサンティス知事の反論

 Politicoによれば、フロリダ州のRon DeSantis知事は12月8日、トランプ政権がフロリダのようなAI規制を行おうとする州を制限する能力に疑問を呈しました。DeSantis知事はAI懐疑派として知られ、次の立法会期中にフロリダ州民のためのAI保護策を制定することを推進しており、州議会議員の支持を得ています。

 DeSantis知事はソーシャルメディアで「大統領令は州の立法行動を先取りすることはできない」と投稿しました。「議会は理論的には立法を通じて州を先取りできる。問題は、議会が一貫した規制スキームを提案していないことだ。代わりに、州が10年間何もできないようにしたいだけで、これはAI恩赦になる。これは国民に非常に不評なので、議会がこれを可決する票を持っているかは疑わしい」と続けています。

 フロリダ州議会は、保険金請求の拒否を「資格のある人間」から来るよう要求するなど、AIを規制するいくつかの法案を提出しており、1月にセッションが始まるまでにさらに多くの法案を提出する見込みです。DeSantis知事は、公益企業がテック企業が大規模なデータセンターを建設する際に住民に追加料金を請求することを防ぐなど、消費者と住民のためのAI保護が詰まった「権利章典」を望んでいます。

 この対立は、技術規制における連邦と州の権限配分という、米国の統治構造における古典的な問題を浮き彫りにしています。連邦政府は統一された規制による効率性と企業の負担軽減を主張し、州政府は地域の実情に応じた消費者保護の必要性を訴えています。

まとめ

 トランプ政権によるNvidia H200チップの中国販売承認は、米中のAI技術をめぐる複雑な駆け引きの一環と言えます。売上の25%という条件や、同日の密輸ネットワーク摘発は、商業的利益と国家安全保障のバランスを取ろうとする姿勢を示しています。一方で、連邦統一AI規制をめぐる州との対立は、急速に発展するAI技術に対する規制の在り方という、より広範な課題を提起しています。中国が実際にH200を購入するかどうか、そして連邦と州のAI規制をめぐる対立がどう決着するかが、今後の注目点となります。

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