はじめに
Googleが2025年12月5日、Fitbit Premium向けに提供するAI搭載パーソナルヘルスコーチの実使用レポートを公式ブログで公開しました。本稿では、実際に1ヶ月間使用した著者の体験をもとに、このAIヘルスコーチの主要機能と実用性について解説します。
参考記事
- タイトル: Hands on with Fitbit’s personal health coach
- 著者: Molly McHugh-Johnson
- 発行元: The Keyword (Google公式ブログ)
- 発行日: 2025年12月5日
- URL: https://blog.google/products/fitbit/hands-on-personal-health-coach-features/
要点
- Fitbitの新しいAIパーソナルヘルスコーチは、フィットネストレーナー、睡眠コーチ、健康アドバイザーの3つの機能を統合し、パーソナライズされた推奨事項とインサイトを提供する
- 米国のAndroid版Fitbit Premiumユーザー向けにパブリックプレビューが開始され、iOS版も近日公開予定である
- 過去30日間のチャット履歴を参照・検索できる機能により、以前に受けたアドバイスを簡単に見つけ直すことが可能である
- ユーザーの健康状態や目標の変化に応じて、いつでもフィットネス目標を再設定でき、新しいワークアウトスケジュールやインサイトが自動的に提供される
- AIコーチはユーザーのデータを継続的に分析し、社会的時差ボケや血糖値処理状況など、ユーザーが尋ねていない健康上の懸念についても自発的にインサイトを提供する
詳細解説
パーソナルヘルスコーチの概要と提供状況
Googleによれば、Fitbitの新しいパーソナルヘルスコーチは、フィットネストレーナー、睡眠コーチ、健康およびウェルネスアドバイザーの3つの役割を1つのAIシステムに統合したものです。このコーチは、ユーザーの健康データを分析し、個々のニーズに合わせた推奨事項とインサイトを提供します。
現在、米国内のAndroid版Fitbit Premiumサブスクライバーがパブリックプレビューとして利用可能で、iOS版も近日中に提供される予定です。パブリックプレビューとは、正式リリース前に一般ユーザーからフィードバックを収集する段階を指します。この段階では、ユーザーの実際の使用体験が製品改善に直接反映されるため、フィードバックの提供が推奨されています。
過去のチャット履歴参照機能
「Ask Coach」プロンプトの下に表示される巻き戻し時計アイコンから、過去30日間の会話履歴にアクセスできます。公式ブログの報告では、著者が数週間前に尋ねた高タンパク質デザートのアイデアを、会話履歴から簡単に見つけ直すことができたとされています。

各会話は最初のクエリでラベル付けされており、特定の情報を素早く検索できる仕組みです。また、関連性がなくなった会話や、今後のコーチの推奨事項に影響を与えたくない会話は、ここで削除することも可能です。
この機能は、AIアシスタントにおける「会話の文脈管理」という課題に対する実用的な解決策と考えられます。従来のチャットボットでは、過去の会話が時系列で混在し、特定の情報を再度見つけることが困難でしたが、クエリベースのラベリングシステムにより、情報の再利用性が大幅に向上していると言えます。
アクティビティへの詳細追加機能
Pixel Watch 4などのウェアラブルデバイスは、アクティビティ検出機能により、ユーザーが手動で記録しなくても運動を自動的にログに記録します。パーソナルヘルスコーチが有効なアプリでは、検出されたアクティビティ(例:散歩)を確認する際、AIが詳細情報を自動で候補として表示するため、迅速かつ簡単に完全な情報を追加できます。

これらの詳細情報の蓄積により、AIコーチはより精度の高いパーソナライズされた推奨事項とインサイトを提供できるようになります。ウェアラブルデバイスとAIの組み合わせにおいて、データの自動収集と手動による補完のバランスは重要な設計課題ですが、この機能はユーザーの負担を最小限に抑えながら、データの質を向上させる工夫だと思います。
目標の柔軟な変更機能
公式ブログの著者によれば、当初マラソンまたは50Kレースの完走と睡眠改善を目標として設定していましたが、1ヶ月後には筋力トレーニングと心拍変動(HRV)の改善に焦点を変更しました。
目標変更のプロセスは非常にシンプルで、コーチに目標を調整したい旨を伝えるだけで、短い会話の後に新しいワークアウトスケジュール、新しい種類のインサイト、その他の関連情報が提供されます。
心拍変動(HRV)とは、心拍と心拍の間の時間的変動を指し、自律神経系の状態を反映する指標として、近年フィットネスおよびウェルネス分野で注目されています。一般的に、HRVが高いほど回復力が高く、ストレスが少ない状態とされています。このような専門的な健康指標を目標として設定できる点は、AIヘルスコーチの高度な機能を示していると考えられます。
プロアクティブなインサイト機能
ユーザーが明示的に尋ねなくても、AIコーチは蓄積されたデータを分析し、重要な健康上の洞察を自発的に提供します。公式ブログでは2つの具体例が紹介されています。
1つ目は血糖値処理に関するインサイトです。著者が糖分摂取量について尋ねた数日後、コーチは著者の高い活動レベルと良好な心血管系の数値から、体が糖分を適切に処理していると判断し、その旨を自発的に報告しました。なお、栄養ログ機能はまだパブリックプレビューに追加されていませんが、標準のFitbitアプリでは利用可能で、両バージョン間の切り替えは容易とされています。
2つ目は社会的時差ボケに関する警告です。コーチは、著者の睡眠・覚醒スケジュールに顕著な変化があり、それが睡眠の質に影響を与えていることを指摘しました。社会的時差ボケとは、平日と週末で睡眠パターンが大きく異なることで生じる体内リズムの乱れを指します。このインサイトにより、著者は早めに就寝し、今後1週間のスケジュールを軽めに調整する動機付けを得たとされています。
このようなプロアクティブなインサイトは、AIヘルスコーチの大きな価値の1つと考えられます。ユーザーは自分が気づいていない健康上の問題や改善機会を発見でき、より包括的な健康管理が可能になると思います。

フィードバック機能とプレビュー版の活用
著者はこれらのプロアクティブなインサイトを非常に有用だと感じたため、タブにあるサムズアップボタンを使用してその旨をコーチに伝え、今後も類似のインサイトを提供するよう依頼しました。
パブリックプレビュー段階では、このようなユーザーフィードバックが製品改善に直接貢献するため、積極的なフィードバック提供が推奨されています。また、ユーザーはいつでも標準のFitbitアプリとプレビュー版の間で切り替えが可能で、パブリックプレビューの使用を継続できます。
このフィードバックループは、AIシステムの継続的改善において重要な要素です。ユーザーの実際の使用体験とフィードバックが、AIの推奨精度やインサイトの質を向上させ、より個別化されたサービスの提供につながると考えられます。
まとめ
FitbitのAIパーソナルヘルスコーチは、フィットネス、睡眠、健康の包括的な管理を1つのAIシステムで実現する試みです。過去の会話参照、目標の柔軟な変更、プロアクティブなインサイト提供など、実用的な機能が1ヶ月の使用経験から明らかになりました。パブリックプレビュー段階での積極的なフィードバックが、今後のサービス品質向上につながると思います。
