[開発者向け]Meta SAM 3が野生動物保護を変える:テキストプロンプトで動物追跡を実現

目次

はじめに

 Metaが2025年11月24日、AI技術を活用した野生動物保護の取り組みについて発表しました。本稿では、MetaのSegment Anything Model 3(SAM 3)が、Conservation X LabsやFlorida Fish and Wildlife Conservation Commissionとの協力のもと、絶滅危惧種のモニタリングにどのように活用されているかを解説します。

参考記事

要点

  • SAM 3は短いテキストフレーズを使用してビデオ内のオブジェクトを検出、セグメント化、追跡できる新機能を導入した
  • Conservation X Labsは10,000以上のカメラトラップビデオを含むSA-FARIデータセットを公開し、100種以上の動物に詳細なアノテーションを施した
  • Florida Fish and Wildlife Conservation CommissionはSAM 2/3を活用してフロリダマウンテンライオンの神経疾患モニタリングを実施している
  • SA-FARIは同種のデータセットとして最大規模のオープンソースリソースであり、高品質なセグメンテーションとトラックレットアノテーションを組み合わせた初の公開データセットである

詳細解説

SAM 3の新機能とSAM 2からの進化

 Metaによれば、SAM 3は「green iguana(グリーンイグアナ)」や「Bezoar goat(ベゾアールヤギ)」といった動物種の名前を短いテキストフレーズとして入力するだけで、ビデオ内のオブジェクトを検出、セグメント化、追跡できる機能を新たに導入しました。

 この機能は、2024年7月にリリースされたSAM 2の能力を拡張したものです。SAM 2では、クリックやバウンディングボックスを使用してビデオ内のオブジェクトをセグメント化し追跡できましたが、ユーザーが手動で対象を指定する必要がありました。SAM 3では、自然言語によるプロンプトが可能になることで、より直感的で効率的な操作が実現されています。

Conservation X Labsの活動とSA-FARIデータセット

 Conservation X Labs(CXL)は、2015年にDr. Alex DehganとDr. Paul Bunjeによって設立された非営利組織で、オープンイノベーション、多様なコラボレーション、テクノロジーを組み合わせて生物多様性の損失に対応しています。CXLは設立以来、20件のイノベーションチャレンジを開催し、1,200万ドル以上の資金を提供、299,000頭以上の動物を再識別し、保護地域を約40万エーカー拡大してきました。

 Metaによれば、大規模な生態系モニタリングはカメラトラップビデオの使用によってデジタル変革を遂げましたが、大規模で公開され、適切にアノテーションされたカメラトラップビデオデータセットが不足していました。この課題に対応するため、CXL、Meta、Osa Conservation、Los Amigos Biological Station、Pan African Programme、The Institute for Game and Wildlife Research、Instituto Mixto de Investigación en Biodiversidadが協力し、SAM 3を活用してSA-FARIデータセットを構築しました。

 SA-FARIデータセットには、100種以上の動物を含む10,000以上のカメラトラップビデオが含まれ、各フレームのすべての動物にバウンディングボックスとセグメンテーションマスクが詳細にアノテーションされています。さらに、時間経過における個体の同一性を保持する「トラックレット(tracklets)」も提供されています。

 トラックレットとは、ビデオ内の特定のオブジェクトを時系列で追跡するためのセグメンテーションマスクのことで、同一の個体を継続的に観察することを可能にします。この技術により、動物の行動検出や疾患を持つ個体のリアルタイム識別が実現され、疾患管理が実行可能になります。

 SA-FARIは同種のデータセットとして最大規模のオープンソースリソースであり、物体検出、カウント、セグメンテーション、種分類、追跡における重要なベンチマークとなっています。また、高品質なセグメンテーションとトラックレットアノテーションを組み合わせた初の公開データセットでもあります。

 オープンデータセットの公開は、AI研究コミュニティ全体が野生動物保護と生物多様性保全のためのイノベーションを開発できるようにする重要な取り組みです。従来、こうしたデータは個別の研究機関や保護団体が保有しており、広く活用されることが困難でした。SA-FARIの無料公開により、世界中の研究者や開発者が共通の基盤を持ち、生物多様性分析から動物の健康状態の理解まで、さまざまなユースケースに対応する新しいモデルを開発できると考えられます。

Florida Fish and Wildlife Conservation Commissionの実用事例

 Florida Fish and Wildlife Conservation Commission(FWC)は、1964年にWildlife Research Projectとして始まり、現在ではフロリダ州の豊かな自然資源を管理・保護する州政府機関です。575種以上の野生動物、700種以上の在来魚類、3,400万エーカーの公有地と私有地、12,000平方マイルの水域を管理しています。

 FWCによれば、フロリダマウンテンライオンはフロリダパンサーの亜種で、アメリカ東部で最後に生き残っているピューマ亜種です。かつてアメリカ南東部全域に広く分布していましたが、現在は歴史的生息域の5%未満しか占めておらず、南フロリダに約200頭の繁殖個体群が存在するのみとなっています。

 近年、FWCはネコ科白質脳脊髄症(FLM)という神経疾患の症例増加を観察しました。FLMは四肢の脱力や麻痺を引き起こし、飢餓や死に至る可能性があります。この捉えにくい夜行性動物のモニタリングは困難であり、従来の方法は労働集約的で、疾患の影響を考えると特に重要なタイムリーで実行可能な洞察を提供できないことが多いとされています。

 これらの課題に対応するため、CXLは2024年7月にリリースされたSAM 2を活用し、カメラトラップビデオ内の個々のマウンテンライオンを追跡しました。SAM 2はトラックレットを生成し、同じ動物を時間経過とともに観察できるようにすることで、行動検出と疾患を持つ動物のリアルタイム識別を可能にし、疾患管理を実現可能にしました。

 2025年11月にリリースされたSA-FARIとSAM 3の使用は、FWCがSAM 2で得た成功をさらに発展させるものとなります。Dr. Dehganによれば、「SAM 3を使用して、カメラトラップビデオの可能性を最大限に活用し、複雑な環境で動物とその行動を識別し追跡する」とのことです。

 この事例は、AI技術が生態系保護にどのように貢献できるかを示す具体例と言えます。従来の人手によるモニタリングでは限界があった作業を自動化し、リアルタイムでの疾患検出を可能にすることで、絶滅危惧種の保護活動がより効率的かつ効果的になる可能性があります。

今後の展望と技術的意義

 MetaによればSA-FARIとSAM 3は、拡張可能で正確な野生動物モニタリングシステムに向けた重要なマイルストーンであり、保護活動家がスピードと精度をもってデータ駆動型の介入を行えるようにするものです。

 今後、AIとコンピュータビジョンの継続的な進歩により、生態系保護はさらに変革されると考えられます。これにより、プロアクティブな戦略、より広範なコラボレーション、グローバルな保護活動への影響が可能になります。これらのツールは、地球上の絶滅危惧種と生息地を保護するための、よりスマートで適応性の高いソリューションへの道を開くものと期待されます。

 技術的な観点からは、SAM 3のテキストプロンプト機能は、コンピュータビジョンモデルの実用性を大きく向上させるものと考えられます。従来の手動アノテーションやクリック操作から、自然言語による指示へと進化することで、専門的な技術知識を持たない保護活動家や研究者も高度なAI技術を活用できるようになります。

まとめ

 MetaのSAM 3とSA-FARIデータセットは、AI技術が野生動物保護にどのように貢献できるかを示す重要な事例です。テキストプロンプトによる直感的な操作、大規模なオープンデータセットの公開、実際の保護活動での成功事例は、今後の生態系保護活動における技術活用の可能性を広げるものと思います。開発者にとっても、SA-FARIは貴重な学習リソースとなるのではないでしょうか。

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