はじめに
Googleが2025年11月25日、英国国立鉄道博物館との協働プロジェクト「Beyond the Tracks」をGoogle Arts & Culture上で公開しました。本プロジェクトは、同博物館の50周年と英国における近代鉄道200周年を記念するもので、約1,000点のアーティファクトのデジタル化、360°バーチャルツアーの提供、そしてAIを活用した手書き文書の文字起こしなど、文化遺産のデジタル保存における先進的な取り組みを示しています。
参考記事
- タイトル: Explore 200 years of the railway with Google Arts & Culture and AI
- 著者: Amit Sood (Senior Director, Google Arts & Culture)、Sir Ian Blatchford (Director of the Science Museum Group)
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2025年11月25日
- URL: https://blog.google/outreach-initiatives/arts-culture/beyond-the-tracks/
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要点
- 英国国立鉄道博物館の50周年と英国近代鉄道の200周年を記念し、Google Arts & Cultureで「Beyond the Tracks」プロジェクトが開始された
- 約1,000点の歴史的アーティファクトがデジタル化され、360°バーチャルツアーで欧州最大の屋内鉄道車両コレクションを体験できる
- Google Arts & CultureのAI搭載メタデータ強化サービスが、手書き文書や歴史的資料の文字起こしを行い、検索可能な形で公開している
- 10以上の教育的ストーリー、2つのポケットギャラリー、世界初の公共鉄道の一部である1825年のブラッセルトン・インクラインの歴史的ウォークスルーが提供される
- スペインのAgencia EFEやドイツのZentralinstitut für Kunstgeschichteなど、他の文化機関もこのAIサービスを活用している
詳細解説
プロジェクトの背景と意義
Googleによれば、「Beyond the Tracks」は英国国立鉄道博物館の50周年と、英国における近代鉄道の200周年という2つの重要な節目を記念するプロジェクトです。Science Museum Groupのミッションは、未来のイノベーターを刺激し、英国の比類なき国家コレクションを全ての人々にアクセス可能にすることにあります。
このプロジェクトは、博物館体験の拡張として位置づけられており、鉄道の変革的な物語を世界中の観客に届けることを目的としています。鉄道が触媒となったデジタル革命を活用することで、この力強い歴史が「どこにいても、誰にでも」属するものになることを目指していると考えられます。
360°バーチャルツアーによる没入体験
Googleの発表では、今回初めて、英国カウンティ・ダーラムのシルドンにあるLocomtion博物館を仮想的に訪問できるようになりました。この博物館は欧州最大の屋内歴史的鉄道車両コレクションを擁しています。
3つの新しいバーチャルツアーが提供されており、伝統的な機関庫として設計されたNew Hallや、巨大なMain Hallを歩き回ることができます。Main Hallでは、遺産鉄道車両を実物の巨大なスケールで鑑賞できます。さらに、1825年の世界初の公共鉄道の一部であるBrusselton Inclineの歴史的なウォークスルー体験も可能です。
バーチャルツアーは、物理的な制約を超えて、世界中のどこからでも博物館の展示を体験できる手段として、近年多くの文化機関で導入が進んでいます。特に360°ビューは、空間全体の雰囲気や展示物の配置を立体的に理解できる点で、平面的な写真よりも没入感の高い体験を提供すると考えられます。
デジタル化された約1,000点のコレクション
Googleによれば、約1,000点のアイテムがScience Museum Groupが管理する英国国家コレクションから精緻にデジタル化されました。これには以下のような重要な資料が含まれます:
- Rastrick Notebook: 1829年の世界を変えたレインヒル・トライアルの直接的な記録
- Puffing Billy: 世界最古の保存された機関車
- 模型客車: 沈没した外輪船PS Princess Aliceの木材から作られたもので、ビクトリア朝時代の興味深い秘密を明らかにしている
レインヒル・トライアルは、スチーブンソンのロケット号が優勝した歴史的な機関車競技会であり、近代鉄道技術の発展における重要な転換点とされています。このような一次資料のデジタル化は、研究者や教育者にとって貴重なリソースとなります。
教育的ストーリーとポケットギャラリー
プロジェクトには10以上の魅力的なストーリーが含まれており、鉄道の進化とその深い社会的影響をたどることができます。具体的には以下のようなテーマが取り上げられています:
- スチーブンソンのRocketの工学的天才性
- ヴィクトリア女王の葬儀列車の歴史的に重要な最後の旅
- レジャーとエンターテインメントにおける近代旅行の誕生
- 鉄道ネットワークを構築した、しばしば見過ごされがちなパイオニアたちと労働者たちの複雑な物語
また、2つのユニークで没入型のポケットギャラリーも提供されています。ポケットギャラリーは、デバイスを通じてバーチャル3D展示を体験できる機能です。1つは「Art and the Railway」、もう1つは希少な「Railway Posters」を展示しており、初期の鉄道旅行広告を垣間見ることができます。
ポケットギャラリーという形式は、従来の平面的なオンライン展示と比べて、空間的な奥行きや展示物の配置を体験できる点で、より実際の展示に近い体験を提供すると考えられます。
AIメタデータ強化サービスの技術的革新
Googleの発表では、国立鉄道博物館はGoogle Arts & Cultureの新しい「メタデータ強化サービス」を使用した最初の文化機関の1つとなりました。このAI搭載サービスは、機関がコレクションをよりアクセスしやすくするために、オブジェクトに関する情報を生成します。
今回のケースでは、テキスト認識機能を使用して、手書き文書や歴史的資料からテキストを文字起こしし、初めてオンラインで検索可能にしました。具体的には、George StephensonからTimothy Hackworthへの手書きの手紙などが処理されています。
手書き文書の文字起こしは、従来は専門家による手作業が必要で、時間とコストがかかる作業でした。AIによる自動化は、この作業を大幅に効率化し、より多くの歴史的資料を検索可能な形でデジタル化することを可能にします。ただし、古い手書き文字や劣化した文書の認識精度については、今後の改善が期待される領域と思います。
他機関での活用事例と今後の展望
このツールは、文化機関がデジタル時代に繁栄することを支援する広範な取り組みの一部であり、研究者やキュレーターがオンラインでコレクションに関する豊富な情報を提供することをサポートしています。
Googleによれば、スペインのAgencia EFEやドイツのZentralinstitut für Kunstgeschichteなどの他のパートナー機関も、このサービスを使用して詳細な画像説明を作成し、メタデータフィールドを完成させています。
文化遺産のデジタル化は、物理的なアクセスの制約を超えて、世界中の人々が貴重な資料にアクセスできるようにするという点で、教育や研究の民主化に貢献すると考えられます。AIツールの活用により、これまでリソースの制約でデジタル化が進まなかった中小規模の文化機関でも、効率的なデジタル化が可能になる可能性があります。
まとめ
Google Arts & Cultureと英国国立鉄道博物館の「Beyond the Tracks」プロジェクトは、文化遺産のデジタル保存における最新のAI活用事例を示しています。手書き文書の自動文字起こし、360°バーチャルツアー、約1,000点のデジタル化されたコレクションにより、鉄道200年の歴史が世界中からアクセス可能になりました。このような取り組みは、文化機関のデジタルトランスフォーメーションのモデルケースとなる可能性があると思います。
