[ビジネスマン向け]Google「Gemini Enterprise」が正式発表:職場のAI活用を一変させるのか

目次

はじめに

 Google Cloudが2025年10月10日、企業向けAIプラットフォーム「Gemini Enterprise」を正式に発表しました。これは単なるAIツールではなく、職場におけるAI活用の「統一的な入り口」となることを目指したプラットフォームです。本稿では、公式発表とパートナーエコシステムに関する発表をもとに、Gemini Enterpriseと、それを支える10万社以上のパートナー企業の取り組みについて解説します。

参考記事

公式発表: 

パートナーエコシステム発表: 

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・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

要点

  • Gemini Enterpriseは、企業におけるAI活用の「統一的な入り口」として設計されたプラットフォームであり、Geminiモデル、ノーコードワークベンチ、事前構築エージェント、データ接続、中央ガバナンス、オープンエコシステムの6つの要素で構成される
  • Box、Salesforce、ServiceNow、Workdayなど主要SaaS企業を含む10万社以上のパートナーがエージェントを提供し、Agent2Agent(A2A)プロトコルによってエージェント間の相互通信が可能になっている
  • Google Workspace(Vids、Meet)との深い統合により、プレゼンテーションから動画への自動変換や、リアルタイム音声翻訳などの多様な機能を提供する
  • Accenture、Deloitte、KPMG、PwCなど大手コンサルティング企業が内部採用を進めるとともに、顧客へのサービス提供を拡大している
  • 開発者向けには、100万人以上が利用するGemini CLIや、エージェント間の支払いを可能にするAgent Payments Protocol(AP2)など、新しいエコシステム構築のための基盤を提供している

詳細解説

Gemini Enterpriseとは何か

 公式発表によれば、Gemini Enterpriseは「職場におけるAIの新しい入り口」として位置づけられています。Google Cloud CEOのThomas Kurianは、「第一波のAIは、サイロに閉じ込められており、組織全体での複雑な業務を調整することができませんでした」と指摘し、真の変革には「コンテキスト、ワークフロー、人々をつなぐ包括的なプラットフォーム」が必要だと述べています。

 これは単にAIモデルやツールキットを提供するのではなく、すべてを統合したプラットフォームとして設計されているという点が特徴です。従来の多くのAIソリューションは、企業側が自ら各要素を「つなぎ合わせる」必要がありましたが、Gemini Enterpriseはその統合を最初から実現しているとしています。

6つのコア要素

 公式発表では、Gemini Enterpriseが6つの核心的な要素で構成されていると説明されています。

 第一に、Geminiモデルがシステムの「頭脳」として機能します。これはGoogle DeepMindの研究成果に基づく最先端のAIモデルです。

 第二に、ノーコードワークベンチにより、マーケティングや財務など、どの部門のユーザーでも情報分析やエージェントの構築が可能になります。

 第三に、事前構築されたGoogleエージェントが含まれています。詳細な調査やデータ洞察といった専門的な業務に対応するエージェントが用意されており、さらにカスタムエージェントやパートナーのソリューションで拡張できます。

 第四に、企業データへのセキュアな接続が実現されています。Google WorkspaceやMicrosoft 365から、SalesforceやSAPなどのビジネスアプリケーションまで、データが存在する場所に安全に接続できます。

 第五に、中央ガバナンスフレームワークが提供されます。すべてのエージェントを一箇所から可視化、保護、監査できる仕組みです。

 第六に、オープンなエコシステムの原則に基づいており、10万社以上のパートナーとの協力関係が構築されています。

Google Workspaceとの深い統合

 公式発表では、Gemini EnterpriseがGoogle Workspaceと組み合わせることで、さらなる利点が得られると説明されています。特に注目されるのは、多様なモダリティ(テキスト、画像、動画、音声)を理解・生成できるエージェントの登場です。

 Google Vidsでは、プレゼンテーションのような一つの形式の情報を、AIが生成したスクリプトとナレーション付きの魅力的な動画に変換できます。公式発表によれば、毎月250万人がVidsを使用しているとのことです。

 Google Meetでは、リアルタイム音声翻訳機能がすべてのビジネス顧客に提供されます。これは単なる言葉の翻訳を超え、自然なトーンや表現を捉えることで、言語の壁を越えたシームレスな会話を実現します。また、「take notes for me」機能の利用は、年初から13倍以上に増加しているそうです。

 さらに、プレビュー段階としてData Science Agentが発表されています。このエージェントは、データの整理や取り込みを自動化し、詳細なデータ探索を加速します。パターンを即座に発見し、トレーニングや推論のための複数ステップの計画を生成することで、手動での反復的な微調整を不要にするとされています。

パートナーエコシステムの拡大

 パートナーエコシステム発表では、Gemini Enterpriseを支える広範なパートナー企業の取り組みが紹介されています。

 公式発表の中で特に詳しく紹介されているパートナーには、以下のような企業があります。

 BoxのAIエージェントは、質問への回答、複雑な文書の要約、ファイルからのデータ抽出、新しいコンテンツの生成を、Boxの既存の権限を尊重しながら実行できます。

 Dun & BradstreetのLook Up エージェントは、グローバルに信頼されているD-U-N-S Numberを使用して、内部および第三者のソースからビジネスデータを統合します。

 Salesforceについては、Agentforceで構築されたエージェントとSlackからのデータがGemini Enterprise内でアクセス可能になります。

 ServiceNowは、A2AとServiceNow AI Agent Fabricを通じて、Google Gemini搭載エージェントと連携し、顧客のクラウド展開における問題を検出、調査し、修正を提案します。

 WorkdayのSelf-Service Agentなどは、予算超過の可能性の警告、休暇申請の提出、HRケースの作成、給与情報の管理など、即座の洞察と迅速な行動を可能にします。

 パートナーエコシステム発表によれば、これらに加えて、Amplitude、Avalara、CARTO、Cotality、Dynatrace、Elastic、Fullstory、HubSpot、Invideo、Optimizely、UiPath、Vianaiなど、多数の企業がGemini Enterpriseとの統合を表明しています。

 特に重要なのは、Agent2Agent(A2A)プロトコルの存在です。パートナーエコシステム発表では、A2Aプロトコルを通じて、エージェント同士が安全に通信し、複雑なタスクを調整できると説明されています。これにより、異なるベンダーのエージェントが相互運用可能になります。

エージェントの発見と検証

 パートナーエコシステム発表では、新しいAI Agent Finderの導入が発表されています。これは自然言語検索を使用してエージェントを発見できるツールです。

 顧客は信頼できるベンダーからエージェントを検索し、業界、ユースケース、A2A対応およびGemini Enterpriseへの展開可否でフィルタリングできます。これらのエージェントは、Google Cloud Marketplaceまたはパートナーから直接購入し、環境に展開できます。

 また、パートナーエコシステム発表では、「Google Cloud Ready – Gemini Enterprise」認定という新しい認定制度が導入されたことも明らかにされています。これは、パフォーマンスと品質について最高水準を満たすエージェントを認識するもので、信頼できるソリューションの採用を加速し、パートナーに新しい収益化の道を提供するとのことです。

コンサルティングパートナーの内部採用とサービス拡大

 パートナーエコシステム発表では、主要なコンサルティング企業がGemini Enterpriseを自社内部で採用するとともに、顧客向けサービスを拡大していることが報告されています。

 Accentureは、Google CloudのAI技術を活用した顧客支援を拡大し、Accenture-Google Cloud生成AIセンターオブエクセレンスを通じてエージェント機能を強化しています。

 Deloitteは、「Agent Fleet」を活用してクライアントがGemini Enterpriseを利用し、業界に特化したエージェントを展開できるよう支援しています。

 Cognizantは、Gemini Enterpriseの内部利用と、世界中のGoogle Cloud Centers of Excellenceへの投資を通じて、顧客向けのエージェントAI採用を加速しています。

 KPMGは、Gemini Enterpriseを使用してクライアント提供のスピード、正確性、品質を向上させ、AIとエージェントでKPMGの従業員体験を向上させているとのことです。

 これらの大手コンサルティング企業自身がGemini Enterpriseの「ユーザー」となっていることは、プラットフォームの実用性を示す重要な指標と言えるでしょう。

開発者向けエコシステムの構築

 公式発表では、開発者向けの取り組みも詳しく説明されています。

 Gemini CLIは、開発者がターミナルから直接Geminiモデルと対話できるAIエージェントで、ローンチから3ヶ月で100万人以上の開発者が利用しています。さらに、Gemini CLI拡張機能という新しいフレームワークが導入され、Atlassian、GitLab、MongoDB、Postman、Shopify、Stripeなどの業界リーダーからの拡張機能により、コマンドラインAIをカスタマイズできます。

 エージェントエコノミーの基盤として、業界標準であるAgent2Agent Protocol(A2A)に加えて、Model Context Protocol(MCP)が導入されています。これらはエージェント間の通信方法の標準を設定します。

 さらに重要なのは、Agent Payments Protocol(AP2)の発表です。公式発表によれば、これはエージェントが安全かつ監査可能な方法で支払いを完了できるようにする、初めてのオープンプロトコルです。American Express、Coinbase、Intuit、Mastercard、PayPal、ServiceNow、Salesforceなど、100以上の決済および技術パートナーと開発されたとのことです。

 これらのプロトコルにより、コンテキスト、コミュニケーション、コマースといった主要な側面について標準化されたプロトコルが確立され、エージェントエコノミーの基盤が築かれていると説明されています。

実際の導入事例

 公式発表では、多数の企業がすでにGemini Enterpriseを活用している事例が紹介されています。

 Banco BVでは、リレーションシップマネージャーが以前は何時間もかけて自分で分析を行っていましたが、Gemini Enterpriseの支援により自動化され、新規ビジネス獲得により多くの時間を割けるようになりました。

 Harveyは、Fortune 500の法務チームに信頼されている法律および専門サービス向けのドメイン特化AIで、Geminiを活用することで、契約分析、デューデリジェンス、コンプライアンス、訴訟の効率を高め、何時間もの時間を節約しています。

 Commerzbankは、Customer Engagement Suiteの早期採用者であり、Geminiを活用した独自のチャットボット「Bene」を構築しています。これは200万以上のチャットを処理し、全問い合わせの70%を解決しているとのことです。

 Mercari(日本最大のオンラインマーケットプレイス)は、Google AIでコンタクトセンターを刷新し、カスタマーサービス担当者の作業負荷を少なくとも20%削減することで、500%のROIが見込まれています。

 Klarnaは、GeminiとVeoなどのツールを使用して、動的でパーソナライズされた影響力のあるルックブックを作成し、注文が50%増加しました。

 Mercedes-Benzは、Geminiを搭載したGoogle CloudのAutomotive AI Agentを使用して、MBUX Virtual Assistantを強化し、ナビゲーションや興味のある場所について、ドライバーと自然な会話を実現しています。

 公式発表によれば、Google CloudのAI製品を使用している顧客の65%が含まれており、Figma、GAP、Gordon Foods、Klarna、Macquarie Bank、Melexis、Mercedes、Signal Iduna、Valiuz、Virgin Voyagesなど、多数の新規契約も発表されています。

教育プログラムとサポート体制

 公式発表では、変革を実現するために、チームのスキルアップへのコミットメントが不可欠だとして、包括的なプログラムが発表されています。

 Google Skillsという新しいプラットフォームが導入され、Gemini EnterpriseからGoogle DeepMindまで、Google全体のトレーニングが無料で利用できます。

 このプラットフォーム上で、Gemini Enterprise Agent Ready(GEAR)プログラムという新しい教育スプリントが発表されています。これは100万人の開発者がエージェントを構築・展開できるよう支援することを目的としています。

 また、複雑な課題に取り組むために、Deltaという新しいチームが発表されています。これはGoogle AIエンジニアのエリートグループで、顧客のチームと協力して最も複雑な課題に取り組むとのことです。

※見解:統合プラットフォームの意義と中小企業への影響

 今回のGemini Enterpriseの発表を見て、特に注目したのは、「統合」という言葉の重みです。AI導入支援の現場では、多くの企業が「どのツールを選べばいいのか」「どうつなぎ合わせればいいのか」という課題に直面しています。Googleが提示する「すべてが統合されたプラットフォーム」というビジョンは、こうした課題への一つの回答と言えるでしょう。

 ただ、中小企業の視点からは、いくつか気になる点もあります。第一に、価格面での負担感がどの程度になるかということです。すべての機能を十全に活用した場合、どの程度の負担になるのか、中小企業にとって受け入れられる金額感なのかは重要な検討事項でしょう。

 第二に、10万社以上のパートナーエコシステムという規模は印象的ですが、実際に自社のワークフローに適したエージェントを見つけ、適切に統合するには、一定の専門知識が必要になるのではないでしょうか。AI Agent Finderが導入されたことは評価できますが、「見つける」ことと「うまく使いこなす」ことの間には、まだギャップがあるかもしれません。

 こうした包括的なプラットフォームの登場は、AI人材育成の方向性にも影響を与えそうです。単にモデルを理解するだけでなく、エージェント間の連携やワークフロー全体の設計を考えられる人材が求められるようになるでしょう。

 A2AやAP2といったオープンプロトコルの推進については期待が寄せられます。これは特定のベンダーに囲い込まれることなく、柔軟にエージェントを組み合わせられる可能性を示しています。AI技術が公共財として広く利用されるためには、こうした標準化の取り組みが不可欠だと個人的には考えます。

 大手コンサルティング企業が自社でも採用を進めていることは、プラットフォームの実用性を示す良い指標でしょう。ただし、これらの企業のサポートを受けられる規模の会社ばかりではありません。中小企業が自力で導入を進める際に、どのようなサポートが提供されるのかは、引き続き注目していきたいポイントです。

まとめ

 Google CloudのGemini Enterpriseは、単なるAIツールの集合ではなく、企業のあらゆるワークフローにAIを統合するための包括的なプラットフォームとして設計されています。Box、Salesforce、ServiceNowなど主要SaaS企業を含む10万社以上のパートナーエコシステム、A2Aなどのオープンプロトコル、大手コンサルティング企業による内部採用と、多角的な取り組みが同時に進められています。「職場におけるAIの統一的な入り口」という野心的なビジョンが、今後どのように実現していくのか、特に中小企業にとってどこまで実用的なものとなるのか、注視していく必要があるでしょう。

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