はじめに
2025年10月9日、元Google DeepMindの研究者2人が創業したスタートアップReflection AIが、20億ドルの資金調達を発表しました。評価額は80億ドルに達し、わずか7カ月前の約15倍となっています。本稿では、同社の公式ブログなどをもとに、Reflection AIが掲げる「オープン最先端AI」のビジョンと、その背景にある戦略について解説します。
参考記事
公式ブログ:
- タイトル: Building Frontier Open Intelligence
- 発行元: Reflection AI
- 発行日: 2025年10月9日
- URL: https://reflection.ai/blog/frontier-open-intelligence
関連記事:
- タイトル: Reflection AI raises $2B to be America’s open frontier AI lab, challenging DeepSeek
- 著者: Rebecca Bellan
- 発行元: TechCrunch
- 発行日: 2025年10月9日
- URL: https://techcrunch.com/2025/10/09/reflection-raises-2b-to-be-americas-open-frontier-ai-lab-challenging-deepseek/
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要点
- Reflection AIは元DeepMind研究者2人が2024年3月に創業し、わずか7カ月で評価額が5.45億ドルから80億ドルへと約15倍に急増した。
- 同社は最先端AIの「オープン化」を掲げ、OpenAIやAnthropicなどのクローズドな研究所、および中国のDeepSeekに対抗する立場を表明している。
- 大規模なMixture-of-Experts(MoE)モデルを訓練できるLLMおよび強化学習プラットフォームを構築し、2026年初頭に最初の最先端モデルをリリース予定である。
- モデルの重み(パラメータ)は公開するが、データセットや訓練パイプラインの完全な情報は基本的に非公開とする方針である。
- 収益モデルは、大企業向けのモデル提供と各国政府の「ソブリンAI」開発支援を想定している。
詳細解説
急成長するスタートアップの背景
TechCrunchによれば、Reflection AIは2024年3月にMisha LaskinとIoannis Antonoglouの2人によって創業されました。LaskinはDeepMindのGeminiプロジェクトで報酬モデリングを率い、AntonoglouはAlphaGoの共同開発者として知られています。AlphaGoは2016年に囲碁の世界チャンピオンを破ったAIシステムです。
同社は当初、自律的なコーディングエージェントに注力していましたが、現在は最先端のオープンソースAI研究所としての位置づけを明確にしています。評価額は2025年3月時点で5.45億ドルでしたが、今回の調達で80億ドルに達しました。この急成長の背景には、トップクラスのAI人材を確保できたこと、そして大規模なMoEモデルを訓練できる技術基盤を構築したことがあります。
公式ブログでは、チームがPaLM、Gemini、AlphaGo、AlphaCode、AlphaProofなどの画期的な技術開発に携わってきた人材で構成されていると説明されています。現在の従業員数は約60人で、主にAI研究者とエンジニアであり、インフラ、データ訓練、アルゴリズム開発を担当しているとのことです。
オープン最先端AIという戦略
Reflection AIが掲げる「オープン最先端AI」とは何を意味するのでしょうか。公式ブログによれば、インターネット、Linux、現代のコンピューティングを支えるプロトコルや標準はすべてオープンであり、これは偶然ではないとしています。オープンソフトウェアは、フォークされ、カスタマイズされ、世界中のシステムに組み込まれるものであり、大学で教えられ、スタートアップが構築し、企業が導入するものです。
同社は、AIが「すべてが動作する技術レイヤー」になりつつある現状において、最先端技術がクローズドな研究所に集中していることに危機感を示しています。公式ブログでは、「このまま進めば、少数の組織がAIを構築するために必要な資本、計算資源、人材を支配し、他のすべての人をロックアウトする暴走的な動きが生まれる」と警告しています。
TechCrunchの記事では、LaskinがDeepSeekやQwenなどの中国のモデルを「目覚ましコール」と表現し、「何もしなければ、事実上、世界的な知能の標準は他者によって構築されることになる。アメリカによって構築されることはない」と述べたことが紹介されています。この発言は、オープンAIの開発が地政学的な競争の文脈でも捉えられていることを示しています。
技術的な成果とMoEアーキテクチャ
公式ブログによれば、Reflection AIは「かつては世界トップの研究所の内部でのみ可能と考えられていたもの」、つまり大規模なMixture-of-Experts(MoE)モデルを最先端規模で訓練できるLLMおよび強化学習プラットフォームを構築したとしています。
MoEとは、最先端のLLMを支える特定のアーキテクチャを指します。TechCrunchの記事では、以前は大規模なクローズドAI研究所のみが規模を拡大して訓練できるシステムでしたが、DeepSeekがオープンな方法でこれらのモデルを規模で訓練する方法を見出し、その後Qwen、Kimi、その他の中国のモデルが続いたと説明されています。
Laskinは同記事で、Reflection AIが計算クラスタを確保しており、「数十兆のトークン」で訓練された最先端の言語モデルを来年リリースすることを目指していると述べています。公式ブログでも、「大規模な事前訓練と高度な強化学習を最初から組み合わせたオープンモデルを構築するために規模を拡大している」と記載されています。
同社は自律的なコーディングという重要な領域にこのアプローチを適用し、その有効性を直接確認したとのことです。このマイルストーンを解放したことで、現在はこれらの手法を一般的なエージェント推論に適用しているとしています。
「オープン」の定義と収益モデル
Reflection AIの「オープン」という言葉の定義は、開発というよりはアクセスを中心としているようです。TechCrunchによれば、これはMetaのLlamaやMistralの戦略と似ています。Laskinは、Reflection AIはモデルの重み(AIシステムの動作を決定するコアパラメータ)を公開利用のためにリリースするが、データセットと完全な訓練パイプラインは大部分を非公開にすると述べています。
「実際には、最も影響力のあるものはモデルの重みです。なぜなら、モデルの重みは誰でも使用でき、それをいじり始めることができるからです」とLaskinは説明しています。一方で、「インフラスタックは、実際に使用できる企業は限られた一部のみです」とも述べています。
このバランスは、Reflection AIのビジネスモデルも支えています。TechCrunchによれば、研究者はモデルを自由に使用できますが、収益は、Reflection AIのモデル上に製品を構築する大企業と、「ソブリンAI」システム(個々の国によって開発・管理されるAIモデル)を開発する政府から得られるとのことです。
「大企業の領域に入ると、デフォルトでオープンモデルが必要になります」とLaskinは述べています。「所有権を持てるものが必要です。自分のインフラで実行できます。コストをコントロールできます。さまざまなワークロードに合わせてカスタマイズできます。AIに多額のお金を払っているので、可能な限り最適化できるようにしたい。これが私たちが提供している市場です」
安全性とオープン開発の関係
公式ブログでは、オープンな知能は安全性についての考え方も変えると述べています。「重要な決定を少数のクローズドな研究所に任せるのではなく、より広範なコミュニティが安全性研究と議論に参加できるようにします」とのことです。
透明性により、独立した研究者がリスクを特定し、軽減策を開発し、クローズドな開発ではできない方法でシステムの責任を問うことができるとしています。一方で、オープン性は、有能なモデルが広くアクセス可能になるという課題にも直面する必要があると認めています。
同社は、リリース前に機能とリスクを評価するための評価、悪用を防ぐためのセキュリティ研究、そして責任ある導入基準に投資していると説明しています。「AIの安全性への答えは『隠蔽によるセキュリティ』ではなく、オープンな場で実施される厳密な科学であると信じています。そこでは、少数の企業が密室で意思決定を行うのではなく、世界中の研究コミュニティが解決策に貢献できるのです」という主張は、安全性とオープン性の両立を目指す同社の姿勢を示しています。
今後の展開と投資家
TechCrunchによれば、Reflection AIはまだ最初のモデルをリリースしていません。最初のモデルは主にテキストベースで、将来的にはマルチモーダル機能を持つとのことです。今回の資金調達は、新しいモデルを訓練するために必要な計算リソースを取得するために使用され、最初のモデルは2026年初頭にリリースされる予定です。
投資家には、Nvidia、Disruptive、DST、1789、B Capital、Lightspeed、GIC、Eric Yuan、Eric Schmidt、Citi、Sequoia、CRVなどが含まれています。公式ブログでも同様の投資家リストが掲載されています。
ホワイトハウスのAI・暗号通貨担当のDavid SacksはXで「より多くのアメリカのオープンソースAIモデルが登場するのは素晴らしいことです。世界市場の重要な部分は、オープンソースが提供するコスト、カスタマイズ可能性、コントロールを好むでしょう。私たちはアメリカがこのカテゴリーでも勝利することを望んでいます」と投稿しました。また、Hugging FaceのCEOであるClem Delangueは「これは確かにアメリカのオープンソースAIにとって素晴らしいニュースです」とコメントしつつ、「今の課題は、オープンソースAIで優位に立つ研究所から見られるような、オープンAIモデルとデータセットの共有の高速性を示すことでしょう」と述べたとのことです。
※見解:オープン性と持続可能性の両立
Reflection AIの「誰でも利用できるようにする」という約束は興味深く、一般利用者の立場からしたら、ありがたい話だと思います。特に、「AIの安全性への答えは『隠蔽によるセキュリティ』ではなく、オープンな場で実施される厳密な科学である」という主張には共感します。少数の企業が密室で意思決定を行うのではなく、世界中の研究コミュニティが解決策に貢献できる環境であってほしいと素直に思います。
ただし、データセットや訓練パイプラインの詳細を非公開にする方針については、どこまでが「オープン」と言えるのか、今後の実績を見守る必要があるのではないでしょうか。モデルの重みを公開することは確かに重要ですが、完全な再現性や検証可能性という観点では課題が残る可能性もあります。
また、地政学的な競争という文脈で語られることについては、技術開発が国家間の対立構造に組み込まれてしまうことへの懸念もあります。とはいえ、オープンなAI開発を推進する主体が各国に存在することは、グローバルなAIエコシステムにとって選択肢が増えるという意味でプラスに働くかもしれません。
2026年初頭のモデルリリースで、Reflection AIがどのような成果を示すのか、そして「オープン最先端AI」という理念をどこまで実現できるのか、注目していきたいと思います。
まとめ
Reflection AIは、元DeepMind研究者による20億ドルの資金調達を通じて、アメリカ発のオープン最先端AI研究所を目指しています。大規模なMoEモデルを訓練できる技術基盤を構築し、2026年初頭に最初のモデルをリリース予定です。モデルの重みを公開する一方で、データセットや訓練パイプラインは基本的に非公開とする方針であり、大企業と政府向けのビジネスモデルを想定しています。「オープン性」と「持続可能性」の両立が実現されるのか、今後の展開が注目されます。