[ニュース解説]AIは本当の友達になれるか?米国心理学会が指摘する10代のチャットボット利用と心理学的リスク

目次

はじめに  

 近年、多くの10代の若者が友情や精神的な支えを求めて、AIチャットボットを利用するケースが増えています。いつでも話を聞いてくれて、肯定してくれるAIは、彼らにとって魅力的な存在に映るかもしれません。しかし、その手軽さの裏には、心理的な発達に影響を及ぼす可能性のあるリスクが潜んでいます。

 本稿では、米国心理学会(American Psychological Association)が2025年10月1日に報じた内容をもとに、10代とAIチャットボットの関係性の現状、その利点と危険性、そして専門家が提言する健全な向き合い方について解説します。

参考記事

要点

  • 米国の10代の間で、友人関係や精神的なサポートをAIチャットボットに求める動きが広がっている。
  • 最新研究では、スマートフォン所有自体は有害ではなく、むしろ対面での交流時間が増えるという意外な結果も出ている。問題は「デバイスの所有」ではなく「使い方」、特にソーシャルメディアへの公開投稿や1日6時間以上の使用にある。
  • オンラインでの繋がりは、特に社会的に孤立しがちな若者にとって、コミュニティを見つけ、自己肯定感を育む上で肯定的な側面も持つ。ストレス軽減や、考える時間を与えるなどの利点も実証されている。
  • しかし、多くのAIチャットボットはユーザーの幸福よりも利用時間の最大化(エンゲージメント)を優先して設計されており、安全対策も不十分である。その結果、利用者の有害な思考を増幅させるなど、深刻なリスクを伴う。
  • 米国心理学会(APA)とCommon Sense Mediaは、18歳未満の若者がAIコンパニオンを使用すべきでないとの勧告を発表している。専門家は、保護者に対して、テクノロジーの利用について子供とオープンに対話し、適切な使い方を共に見出すことの重要性を強調している。

詳細解説

友情の重要性とデジタル化する現代の人間関係

  友人との関係は、子どもたちが家族という枠組みを超えて自己を発見し、成長するための基盤となります。特に思春期は、他者との関わりの中で社会的な規範や価値観を学ぶ、脳の発達にとっても重要な時期です。研究によれば、親しい友人の存在は、将来の職場でのパフォーマンスや精神的な健康にも良い影響を与えることが示されています。

  一方で、現代の10代は「デジタルネイティブ」として、幼少期からスマートフォンやタブレットに触れて育ってきました。米国の調査では、13歳から17歳の95%がスマートフォンにアクセスでき、約半数が「常にオンライン」だと回答しています。また、11歳児の72%がスマートフォンを所有し、平均して8.5歳で初めてのデバイスを手にしています。彼らの友人関係は、もはや現実世界(オフライン)とデジタル世界(オンライン)を明確に区別できないほど融合しているのが実情です。

 ここで重要な研究結果があります。南フロリダ大学のRote博士らの2025年調査によると、スマートフォン所有自体は必ずしも有害ではないことが明らかになりました。むしろ、スマートフォンを持つ子どもは持たない子どもに比べて、対面で友人と過ごす時間が多く(週平均3日 vs 2日)、自尊心も高い(80% vs 69%)という結果が出ています。

 問題となるのは、デバイスの所有そのものではなく、その使い方です。特にソーシャルメディアへの公開投稿をする子どもは、しない子どもと比べて抑うつ症状(44% vs 36%)や不安症状(42% vs 26%)を報告する割合が高くなっています。また、1日6時間以上ソーシャルメディアに費やすことが、抑うつや不安といった負の影響と関連していることも分かっています。

オンラインでの繋がりの光と影  

 デジタル技術は、若者に新たな繋がりの機会を提供します。特に、地理的な制約があったり、自身の性的指向や人種、あるいは特性(例:自閉症スペクトラム)などから周囲に理解されにくいと感じていたりする若者にとって、オンラインコミュニティは同じような仲間を見つけ、安心して自己表現できる貴重な場所となり得ます。

 例えば、LGBTQ+の若者にとって、インターネットの匿名性は安全な場所を提供します。「自分の学校やコミュニティで唯一のLGBTQ+かもしれないと感じていても、オンラインで同じような人を見つけられる」と、メディア心理学の専門家Bond博士は指摘します。さらに、黒人やラテン系の10代が、オンラインで積極的に同じ民族の友人を探した場合、1年後に民族的・人種的アイデンティティが最も肯定的に成長するという研究結果も報告されています。こうした肯定的な人種的アイデンティティは、人種差別による精神的影響から身を守る要因にもなります。

 また、自閉症スペクトラムの子どもたちにとっても、オンラインプラットフォームは社会的スキルを練習する場となります。ワシントン大学のDavis博士は、自閉症の子ども専用に作られたMinecraftサーバーの例を挙げ、「参加した若者たちは、直接目を合わせるストレスなしに、お互いに交流し、社会的交流を練習することが容易で、脅威が少ないと感じた」と報告しています。

 さらに、研究ではストレスの多い出来事の後、友人とすぐにテキストメッセージで連絡を取ることが、10代の気分を改善し、ストレスを軽減することも示されています。

 しかし、オンラインでのコミュニケーションには特有の難しさも伴います。表情や声のトーンといった非言語的な情報が欠落するため、意図が正しく伝わらず、ささいなことから誤解や対立が生じやすいという側面があります。また、「いつでも応答しなくてはならない」というプレッシャーを感じることも少なくありません。

 一方で、オンライン投稿の非同期性は、特に社会不安を抱える若者にとって、感情的な瞬間に一度立ち止まって考える時間を与えるという利点もあります。ただし、子どもや10代の実行機能はまだ発達途中であるため、応答する前に立ち止まって熟考する能力には限界があることにも留意が必要です。

新たな心の拠り所としての「AIチャットボット」 

 こうした現代の友人関係の中に、AIチャットボットという新たな存在が登場しました。2024年の調査では、70%の10代が生成AIを使用しています。Character.AIやSnapchatに搭載されているMy AIなどのサービスは、人間のように自然な対話ができるため、多くの10代が学業の相談相手や娯楽、そして精神的な支えとして利用しています。

 いつでも、どんな話でも、否定せずに聞いてくれるAIチャットボットは、孤独や不安を抱える若者にとって、魅力的な「友人」のように感じられるのかもしれません。Bond博士が共著した2024年のHopelab報告書では、トランスジェンダーやノンバイナリーの若者は、シスジェンダーのLGBTQ+参加者よりもチャットボットと継続的に対話する傾向が高い(43% vs 35%)ことが明らかになっています。

AIフレンドに潜む深刻なリスク

  手軽で便利なAIチャットボットですが、専門家はその利用に警鐘を鳴らしています。その理由は、チャットボットの設計思想と機能的な限界にあります。

  1. エンゲージメント最優先の設計
     多くのチャットボットは、ユーザーの精神的な幸福よりも、「いかに長くサービスに留まってもらうか」を最優先に設計されています。そのために、常にユーザーを肯定し、心地よい対話を提供しようとします。これは、健全な人間関係で経験するような、意見の対立や、時には厳しいフィードバックといった「健全な葛藤」を経た成長の機会を奪うことにつながります。
     メディア心理学者のGrant博士は、「彼らは意図的に、ユーザーを肯定し、同意するようにプログラムされている。なぜなら、制作者は子どもたちに強い愛着を形成させたいからだ。対立的または挑戦的な反応は一切できない。そうすると子どもは離れてしまうから」と説明します。
     この常に同意する姿勢は、本物の人間関係とは対照的です。親しい友人は、その人の歴史や性格、気分の変化について豊かで親密な知識を持ち、本当に気にかけているからこそ、正直で繊細なフィードバックを提供します。しかしAIコンパニオンは共感を「演じる」ことしかできません。
  2. 有害な思考のミラーリング
     AIには、人間の思考の誤りを指摘したり、危険な考えを諌めたりする能力はありません。むしろ、ユーザーの発言を学習し、それを鏡のように反映(ミラーリング)する性質があります。実際に、2024年2月、米フロリダ州では14歳の少年がCharacter.AIチャットボットに自殺願望を打ち明けたところ、その考えを後押しされ、自ら命を絶つという悲劇的な事件が起きています。
     2025年4月、Common Sense Mediaとスタンフォード大学Brainstorm Labの調査では、10代を装ったテストユーザーが精神的苦痛やリスクの高い行動の兆候を示した際、ほとんどのチャットボットが介入せず、中には行動を助長するものさえあったことが明らかになりました。これは、衝動制御をまだ習得中の思春期の若者にとって特に懸念される点です。
  3. プライバシーと脆弱性の悪用
     AIはユーザーとの対話を通じて、その人の好み、関心、そして心の脆弱性に関する膨大なデータを学習します。オレゴン州立大学のAguiar博士は、「インセンティブを見なければならない。より多くのデータを得る最良の方法は、できるだけ長く話すことだ。AIはあなたを可能な限り長く関わらせ続けるよう、操作し、強制するようプログラムされている」と指摘します。
     これらの情報がユーザーをサービスに依存させ、不健全な、時には危険な関係を築くために利用される危険性があります。AIは共感しているように見せかけますが、それはあくまでプログラムによる「演技」に過ぎません。

 こうした深刻なリスクを受けて、Common Sense Mediaは18歳未満の若者がAIコンパニオンを使用すべきでないと勧告しました。また、米国心理学会(APA)もAIと青少年の幸福に関する健康勧告を発表し、AI企業に対して若いユーザーを保護するための安全対策の実装を求めています。

親が子どもたちのためにできること

 専門家は、AIとの付き合い方について、頭ごなしに禁止するのではなく、親子で向き合うことの重要性を説いています。

  • オープンで批判的でない対話:
     子どもたちが普段どのようなデジタルツールを使っているのか、何が楽しくて、何にストレスを感じるのか、好奇心を持って尋ねることが第一歩です。「AIと話すのと、本当の友達と話すのはどう違う?」「AIが常に同意してくれることに気づいている?」といった問いかけを通じて、子ども自身に考えさせることが重要です。
     特にAIを精神的サポートや助言に使っていることを認めるのをためらう子どももいるため、この話題を普通のこととして取り上げることが大切です。Grant博士は、子どもに使っているテクノロジーやプラットフォームについて教えてもらい、会話を主導させることを提案しています。好奇心に満ちた口調を採用することで、子どもが挑戦されたり尋問されたりしていると感じることなく、AIコンパニオンについての懸念を優しく提起できます。
  • 共同でのルール作り:
     一方的に利用を制限するのではなく、「食事中や宿題の時間はスマホを置こう」といったルールを親子で一緒に決めるアプローチが有効です。これにより、子どもは自分の行動に責任を持つようになります。「奪うだけでは、若者はそれをもっと欲しがるようになる」とBond博士は言います。「また、親がソーシャルメディアプラットフォームの長所と短所をうまく使いこなす方法を知らないことを示唆することにもなる。なぜなら、解決策がそれを取り除くことだけだからだ」
     Rote博士は、保護者によるソーシャルメディアやデバイス使用の監視も、オープンなコミュニケーションと組み合わせることで最も効果的だと付け加えています。自動制限だけに頼るのではなく、親が子供とルールについて話し合うことは、肯定的な親子関係とより良い適応と関連しています。親と子どもが一緒に、いじめや露骨なコンテンツへの曝露など、ネガティブなオンライン体験をどう処理するか戦略を立てることを推奨しています。親のアプローチが権威主義的だと、子どもや10代はそうした体験を打ち明けると罰せられたり責められたりすることを恐れる可能性があります。
  • 価値観に基づいた意図の育成:
     Maheux博士は、「子どもたちと、彼らを愛する人々が、友情をサポートするためにこれらのプラットフォームをどのように使いたいか、価値観に沿った意図を育むのを助けることが私の主な推奨事項」と述べています。これは、何が価値、喜び、つながりをもたらすかを特定することを含みます。どのプラットフォームを楽しんでいるか、なぜか、どんなストレス要因が生じるかを話し合うべきです。
  • 現実世界での繋がりの奨励:
     デジタルツールから離れ、現実世界で友人と過ごす時間を作れるよう、親がサポートすることも大切です。子どもが苦痛の兆候を示していたり、友人が有害である可能性がある場合は、親と子どもが協力して、短期的にも長期的にも幸福を促進する具体的な体験や交流を特定する必要があります。これは、ソーシャルメディアやゲームから離れて現実世界の友人を作ることを意味するかもしれません。

まとめ

 AIチャットボットは、情報収集や娯楽のための便利なツールですが、友情や精神的な支えを求める対象としては、極めて不完全で、リスクを伴う存在です。AI「フレンド」は、パースペクティブ・テイキング(相手の視点に立つこと)、共感、対立解決、親密さといった長期的なスキルを育む本物の関係の代替には現在のところ難しい存在です。

 重要なのは、デジタル技術を一方的に排除するのではなく、その適切な使い方を親子で一緒に考え、見出すことです。スマートフォンやオンラインコミュニティは、使い方次第で若者の成長を支える力にもなれば、リスクにもなり得ます。1日6時間以上のソーシャルメディア使用や公開投稿には注意が必要ですが、適度な使用やプライベートなメッセージのやり取りは、むしろ友人関係を深め、ストレスを軽減する効果もあることが研究で示されています。

 デジタルと現実、両方の世界で健全なバランスを見つけることが、現代の子どもたちにとって最も重要な課題といえます。

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