[ニュース解説]Amazonの配送網を支えるDSPプログラムへの追加投資とAI活用による安全性向上の取り組み

目次

はじめに

 本稿では、Amazonが2025年9月30日に発表した、同社の配送網を支える「デリバリーサービスパートナー(DSP)プログラム」への新たな投資に関する内容をもとに解説します。今回の発表では、19億ドルという大規模な追加投資を行い、AIなどの先進技術を活用して、配送ドライバーの安全性と配達体験を向上させるための具体的な取り組みが示されています。

参考記事

要点

  • Amazonは、配送業務を担う独立した中小事業者(DSP)を支援するプログラムに対し、新たに追加で19億ドルを投資する。これにより、プログラム開始から7年間での総投資額は167億ドルに達する。
  • 今回の投資は、DSPが雇用するドライバーの賃金を引き上げ、全米平均時給を約23ドル(約3450円:1ドル150円計算)にすることなどを支援する。
  • AIを活用したスマートルーティング技術やマッピングシステムの改善により、ドライバーの安全性と配達品質の向上を図る
  • これらの安全対策の結果、過去1年間で重大な衝突事故が31%、スピード違反などの危険運転行動が32%減少した。

詳細解説

デリバリーサービスパートナー(DSP)プログラムとは

 はじめに、本稿の主題である「デリバリーサービスパートナー(DSP)プログラム」について説明します。これは、Amazonの商品の配送における最終区間、いわゆる「ラストワンマイル」を担う、独立した中小企業の配送事業者を支援するためのプログラムです。2018年に開始され、現在では世界で4,500社の小規模ビジネスオーナーが参加しています。

 Amazonは、参加する事業者に対して、Amazonブランドの配送車両のリース、最新の配送テクノロジー、研修などを提供します。事業者はそれらを活用し、自らドライバーを雇用・管理して、日々の配送業務を運営します。これにより、Amazonは地域に根差した配送ネットワークを構築し、事業者はAmazonという巨大なプラットフォームを基盤に自身のビジネスを成長させることができます。

今回の追加投資の目的と影響

 今回発表された19億ドルの追加投資は、主にDSPとそのドライバーへの支援を強化するものです。過去7年間の累計投資額は167億ドルにのぼります。

 この投資の重要な目的の一つが、ドライバーの待遇改善です。Amazonは、今回の投資によってDSPがドライバーの賃金を引き上げることを支援し、全米での平均時給が約23ドルになることを見込んでいます。優秀な人材を確保し、定着させることは、配送品質の維持・向上に不可欠であり、そのための基盤を強化する狙いがあります。

AI活用による安全性と効率性の向上

 今回の発表で特に注目すべきは、AI技術を積極的に活用して、ドライバーの安全性と業務効率を高める具体的な取り組みです。

  • スマートルーティング技術
     これは、単に最短ルートを提示するだけでなく、交通パターンや道路状況をリアルタイムで分析し、より安全で効率的な配送ルートを設計する技術です。例えば、交通量の多い交差点を避けたり、駐車しやすい場所を考慮したルートを組んだりすることで、ドライバーの負担を軽減し、事故のリスクを低減させます。
  • 改善されたマッピングシステム
     配送ルートの正確性は、業務効率と安全性に直結します。Amazonは、衛星画像、過去の配達成功データ、公共情報といった複数の情報源を組み合わせる「マルチモーダルAI」を活用しています。これにより、地図上の問題を自動で検出し、修正することが可能です。また、ドライバーが現場で発見した地図の問題点(例:新しい道路、通行止めなど)を報告すると、AIがそのフィードバックを処理し、迅速に地図情報を更新する仕組みも構築されています。

 これらの取り組みの結果、Amazonは過去1年間で、DSPによる配送中の重大な衝突事故が31%減少し、スピード違反や脇見運転といった危険運転行動が32%減少したと報告しており、具体的な成果が現れています。

地域社会への貢献

 AmazonはDSPと共に、”Together, We Give” というプログラムを通じて、地域社会への貢献活動も行っています。災害救援活動や地元の病院、学校への寄付など、配送サービスを提供する地域への投資も重視しています。

まとめ

 今回のAmazonの発表は、巨大なEコマースの配送ネットワークを支えるラストワンマイルの担い手であるDSPとそのドライバーへの投資を、今後も継続的に強化していくことを意味しています。日本でも運送の担い手減少が問題視されているなかで、大規模な日本への投資も期待されます。 

 特に、資金的な支援だけでなく、AIという先進技術を駆使して現場の安全性と効率性を両立させようとするアプローチは、現代の物流が抱える課題に対する一つの解決策を示しています。Eコマースの需要が拡大し続ける中、配送の品質と安全性をいかに確保していくかという点において、同社の動向は今後も注目されます。

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