[開発者向け]Vertex AIの新機能:Google Maps連携でAIが現実世界の専門家に

目次

はじめに

 Googleは2025年9月26日に、同社のAI開発プラットフォームであるVertex AIの新機能「Grounding with Google Maps」の一般提供(GA)開始を発表しました。この機能により、開発者はGoogle Mapsが持つ膨大でリアルタイムな情報を生成AIアプリケーションに連携させることが可能になります。

 本稿では、この発表内容をもとに、「Grounding with Google Maps」がどのような技術で、何を実現し、私たちの生活やビジネスにどのような影響を与える可能性があるのかを解説します。

参考記事

要点

  • Vertex AIにおいて、Google Mapsの情報を生成AIの回答根拠として利用する「グラウンディング機能」が一般提供を開始した。
  • これにより、生成AIは架空の情報(ハルシネーション)を生成するリスクを低減し、リアルタイムで信頼性の高い位置情報に基づいた、事実に基づいた回答を生成できるようになった。
  • ユーザーレビューを反映した主観的な質問への回答や、自社データと組み合わせたパーソナライズなど、高度で実用的なAIアプリケーションの開発が可能になる。
  • 旅行、不動産、パーソナルアシスタントなど、位置情報が重要となる多様な業界での応用が期待される。

詳細解説

「グラウンディング」とは何か?

 まず、今回の発表の核となる「グラウンディング(Grounding)」という技術について簡単に説明します。グラウンディングとは、大規模言語モデル(LLM)が回答を生成する際に、その根拠となる信頼性の高い情報源を参照させる技術のことです。

 生成AIは時として、事実に基づかないもっともらしい情報(ハルシネーション)を生成してしまう課題があります。グラウンディングは、Google検索の結果や、企業の独自データベース、そして今回発表されたGoogle Mapsのような検証可能な情報源にAIの知識を「接地(Ground)」させることで、回答の正確性と信頼性を向上させるための重要な技術です。

Grounding with Google Mapsで何ができるようになるのか?

 この新機能は、開発者が構築するAIアプリケーションに、Google Mapsが持つ以下の情報へのアクセスを可能にします。

  1. リアルタイムで正確な情報提供
     AIアプリケーションは、世界中の2億5000万件以上の店舗や場所に関する最新情報を取得できます。例えば、「近くで今開いているカフェは?」という質問に対し、レストランの現在の営業時間や、一時的な休業情報などを反映した正確な回答をユーザーに提供できます。
  2. ユーザーレビューに基づいた主観的な質問への回答
     Google Mapsに投稿された膨大なユーザーレビューや評価をAIが理解し、「このレストランの雰囲気は?」「静かに食事ができる場所は?」といった、データだけでは分からない主観的なニュアンスを含む質問にも答えられるようになります。これにより、より人間らしい、きめ細やかなレコメンデーションが可能になります。(※この機能は現在、米国とインドの地域で利用可能です)
  3. 自社データと組み合わせたビジネス活用
     企業が持つ独自のデータをGoogle Mapsの情報と組み合わせることで、特定の顧客層に合わせた情報提供が可能です。記事では不動産会社の例が挙げられています。例えば、ある物件情報を紹介する際に、顧客が「子育て中の家族」であれば近隣の公園や学校情報を強調し、「若手の社会人」であれば周辺のレストランやナイトライフ情報を中心に説明する、といったパーソナライズされた物件概要をAIが自動で作成できます。
  4. Google検索との連携による包括的な回答
     Grounding with Google Mapsは、既存の「Grounding with Google Search」と組み合わせて利用できます。これにより、AIは質問に応じて適切なツールを動的に選択し、より包括的な回答を生成します。
     例えば、「今夜の公園のコンサートに子供を連れて行けますか?」という質問に対し、AIはまずGoogle検索を使って出演者やイベントの子供に関するポリシーを調べ、次にGoogle Mapsを使って公園の子供向け施設の有無や周辺情報を参照し、両方の情報を統合した上で回答を生成します。

想定されるユースケースと業界

 この技術は、特に位置情報が重要となる以下のような業界で活用が見込まれています。

  • 旅行・観光業界: 旅行者に対して、滞在先のホテルやレストラン、観光スポットを個人の好みに合わせて推薦したり、リアルタイムの情報に基づいた旅行プランを作成したりできます。
  • 不動産業界: 購入希望者に対し、物件情報だけでなく、周辺の住環境や治安、交通の便など、多角的な情報を基にした詳細なレポートを自動生成できます。
  • デバイス・パーソナルアシスタント: スマートフォンやスマートスピーカーが、ユーザーの現在地に基づいた「近くのおすすめスポット」をより的確に案内できるようになります。
  • ソーシャルメディア: 友人同士で出かける計画を立てる際に、グループの好みに合ったレストランやアクティビティをAIが提案する、といった活用が考えられます。

導入方法

 「Grounding with Google Maps」は、Google CloudのVertex AIプラットフォーム上で、生成AIモデル「Gemini」と共に利用できます。開発者は、Gemini APIを呼び出す際に、ツールとしてGoogle Mapsを指定するだけで、この機能をアプリケーションに組み込むことができます。

 以下は、公式ブログで紹介されているPythonのサンプルコードです。指定した緯度・経度の周辺で最高のエスプレッソが飲める場所を問い合わせる簡単な例です。

from google import genai
from google.genai import types

# クライアントを初期化
client = genai.Client()

# Geminiモデルを呼び出し
response = client.generate_content(
    model="gemini-1.5-flash", # 使用するモデルを指定
    contents="Where can I get the best espresso near me?", # AIへの質問(プロンプト)
    generation_config=types.GenerationConfig(
        tools=[types.Tool(
            google_maps=types.GoogleMaps() # Google Mapsをツールとして指定
        )],
        tool_config=types.ToolConfig(
            # 緯度と経度を指定して検索の中心地を設定
            google_maps_routing_config = types.GoogleMapsRoutingConfig(
                destination=types.LatLng(
                    latitude=40.7128,
                    longitude=-74.0060
                )
            )
        )
    )
)

# AIからの応答を出力
print(response.text)
# 応答の例: 'Here are some of the top-rated places to get espresso near you: ...'

 このコードのように、toolsパラメータにGoogleMaps()を追加し、tool_configで検索の中心となる緯度・経度を指定するだけで、AIはGoogle Mapsの情報を参照して回答を生成します。

 また、開発者が気軽に試せるよう、Gemini Proでは1万プロンプトまでの無料試用枠が提供されています。

関連情報

より詳細な情報やインタラクティブなデモについては、以下の公式リソースをご参照ください。

まとめ

 本稿では、Vertex AIの新機能「Grounding with Google Maps」について解説しました。この機能は、生成AIの回答能力を抽象的な知識の世界から、私たちが実際に生活する物理的な世界へと結びつける一歩と言えます。

  AIがリアルタイムで信頼性の高い地域情報に基づいて応答することで、よりパーソナライズされた旅行プランの提案や、顧客一人ひとりに最適化された不動産情報、さらには日々の小さな疑問に対する的確なアドバイスなど、様々なアプリケーションの登場が期待されます。

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