Adobe、AIエージェントを正式提供開始

目次

はじめに

 本稿では、Adobe社が2025年9月10日に発表したプレスリリース「Adobe Announces General Availability of AI Agents for Businesses to Transform Customer Experience Orchestration」を基に、企業の顧客体験(CX)やマーケティング活動を大きく変える可能性を秘めたAIエージェントの一般提供開始について、解説します。

参考記事

要点

  • Adobeは、企業の顧客体験の構築、提供、最適化を支援するAIエージェントの一般提供を開始した。
  • このAIエージェントは、Adobe Experience Platform (AEP) Agent Orchestratorを基盤としており、企業の持つデータやコンテンツ、ワークフローを深く理解し、文脈に応じたアクションを実行する。
  • 初期段階で、オーディエンス作成、カスタマージャーニー最適化、データ分析など、特定のマーケティング業務を自動化する6種類のAIエージェントが提供された。
  • 将来的には、企業がエージェントを自社のガイドラインに合わせてカスタマイズしたり、開発者が新たなエージェントを構築したりするためのツール群も提供される予定である。

詳細解説

前提知識:AIエージェントと顧客体験オーケストレーション

 本題に入る前に、中心となる2つの概念について説明します。

  • AIエージェントとは?
     単に質問に答えるチャットボットとは一線を画します。AIエージェントは、特定の目標を与えられると、自ら計画を立て、必要なツールや情報を利用し、複数ステップのタスクを自律的に実行する能力を持つAIシステムです。例えば、「来月のキャンペーンのために、首都圏在住で製品Aに関心のある30代の顧客リストを作成して」といった自然言語での指示を理解し、データ分析からリスト作成までを自動で行います。
  • 顧客体験オーケストレーション(CXO)とは?
     これは、Webサイト、モバイルアプリ、メール、店舗など、顧客とのあらゆる接点(チャネル)における体験を、一貫性のあるものとして統合・最適化する考え方です。個別の施策をバラバラに行うのではなく、顧客一人ひとりの状況や行動に合わせて、まるでオーケストラの指揮者のように最適なタイミングで最適な情報を提供するのが目的です。

 Adobeの今回の発表は、この複雑なCXOを、AIエージェントの力でより高度に、かつ効率的に実現しようという試みです。その土台となるのが、企業内の顧客データをリアルタイムで統合・管理する基盤であるAdobe Experience Platform (AEP) です。

中核技術:AEP Agent Orchestrator

 今回発表されたAIエージェント群の「頭脳」にあたるのが、AEP Agent Orchestratorです。これは、ユーザーからの自然言語による指示(意図)を解釈し、どのエージェントをどのように連携させれば目標を達成できるかを動的に判断し、実行計画を立てる推論エンジンを備えています。これにより、複雑なマーケティングタスクを自動化されたワークフローとして実行できるようになります。

 また、「人間参加型(Human-in-the-loop)」 というアプローチもサポートしており、AIが実行するアクションを人間が最終的に確認・承認することができます。これにより、AIの判断ミスを防ぎ、企業のブランドイメージやポリシーに沿った高品質な施策の実行を担保します。

提供される6つのAIエージェント

 今回、Adobeの主要なエンタープライズ向けアプリケーション内で利用できる、以下の6つのAIエージェントが一般提供されました。これらはマーケティング担当者のスキルを拡張し、業務を加速させることを目的としています。

  1. Audience Agent(オーディエンスエージェント)
     パーソナライゼーション施策に利用する顧客セグメント(オーディエンス)の作成、拡張、最適化を支援します。価値の高いオーディエンスを迅速に発見し、組織の目標(KPI)達成に向けて活用できます。
  2. Journey Agent(ジャーニーエージェント)
     Web、モバイル、メールなど複数チャネルにまたがるカスタマージャーニーやキャンペーンの作成・管理を簡素化します。設定された目標に基づきジャーニーを設計し、顧客の離脱ポイントなどを分析して接点を最適化します。
  3. Experimentation Agent(実験エージェント)
     A/Bテストなどの実験結果データを分析し、最適化のための新たな仮説を立てたり、施策がもたらした因果関係を分析したりします。これにより、データに基づいた改善活動を加速させます。
  4. Data Insights Agent(データインサイトエージェント)
     組織内の様々なシグナルからインサイト(洞察)を導き出すプロセスを効率化します。専門のアナリストでなくても、顧客体験に関するデータの可視化や予測が可能になります。
  5. Site Optimization Agent(サイト最適化エージェント)
     ブランドのWebサイトが高いパフォーマンスを維持できるよう常時サポートします。リンク切れや低パフォーマンスのページなど、顧客エンゲージメントに影響を与える問題を自動で検出し、改善を促します。
  6. Product Support Agent(製品サポートエージェント)
     Adobe製品の利用者が直面する問題を解決するプロセスを強化します。広範なナレッジソースを活用し、トラブルシューティングやサポートケースの作成・追跡を支援します。

将来の展望:カスタマイズとエコシステムの拡張

 Adobeは、単に既製のAIエージェントを提供するだけでなく、企業がこれらを自社のニーズに合わせて活用していくための基盤も整備していく計画です。

  • Experience Platform Agent Composer
     近日公開予定のこのツールは、企業のブランドガイドラインやポリシー制御に基づき、AIエージェントの動作をカスタマイズ・設定するための一元的なインターフェースを提供します。
  • 開発者向けツール(Agent SDK, Agent Registry)
     開発者が独自のエージェントを構築・拡張し、様々なユースケースに対応できるようにするためのSDK(ソフトウェア開発キット)やレジストリが提供されます。
  • Agent2Agentプロトコル
     異なるエコシステムに属するAIエージェント間の相互運用性を確保するためのプロトコルです。これにより、Adobe製のエージェントとサードパーティ製のエージェントが連携して、より広範なワークフローを実行できるようになります。

まとめ

 今回Adobeが発表したAIエージェントの一般提供開始は、企業のマーケティング活動におけるAIの活用を、「分析や示唆の提供」から「具体的なアクションの実行」へと変化させようとするものです。Adobe Experience Platformという強力なデータ基盤の上で、これまで専門家が多くの時間を費やしていたデータ分析、セグメント作成、キャンペーン設計といった業務が自動化・最適化されることで、マーケティングチームはより創造的で戦略的な業務に集中できるようになることが期待されます。

 将来的には、企業が自社の状況に合わせてエージェントを自由にカスタマイズし、サードパーティ製のエージェントとも連携できるエコシステムの構築が構想されており、顧客体験のパーソナライゼーションは新たなステージへと向かうことになるでしょう。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次