[ニュース解説]AI導入の先へ:IBMが提唱する『Smarter Business』実現への4つのアプローチ

目次

はじめに

 多くの企業がAIの導入を急ぐ現代において、その真価をいかに引き出すかが大きな課題となっています。AIを導入したものの、部分的な活用に留まったり、既存のシステムと連携できずに効果が限定的になったりするケースは少なくありません。

 本稿では、このような課題を乗り越え、AIをビジネスの根幹に統合することで真の競争優位性を築くアプローチについて、IBMが発行した記事「Let’s create smarter business」を基に、分かりやすく解説します。

参考記事

要点

  • 「Smarter Business(より賢いビジネス)」とは、ビジネスの重要なシステム全体にAIによる知性を深く統合し、効率性、俊敏性、革新性を高めるアプローチである。
  • 多くの企業は、AI導入において「サイロ化」「汎用的な回答しか得られない」「管理の複雑化」といった課題に直面している。
  • Smarter Businessを実現するためには、「AIエージェントによる生産性向上」「エンタープライズデータの価値最大化」「ハイブリッドクラウドによる柔軟なAI運用」「自動化による既存投資の効果向上」という4つの側面からの体系的なアプローチが必要である。
  • このアプローチにより、開発コンテンツの最大60%自動生成や、最大40%の生産性向上といった具体的な成果が報告されている。

詳細解説

AI導入における一般的な課題

 AI革命がもたらす大きな機会を前に、多くのビジネスリーダーは変革へのプレッシャーを感じています。しかし、その導入プロセスは必ずしも平坦ではありません。IBMは、多くの企業が直面する共通の課題として、以下の点を挙げています。

  • AIツールのサイロ化: 導入したAIセールスエージェントが他のシステムと連携せず、孤立して機能してしまう。
  • データ接続の欠如: AIが自社のビジネスデータに接続されていないため、問い合わせに対して表面的で汎用的な回答しか生成できない。
  • 管理の複雑化: シンプルさを期待して導入したにもかかわらず、結果的により多くのツール、データ、そしてリスクを管理する必要に迫られる。

 重要なのは、テクノロジーそのものが目的ではないということです。テクノロジーを通じて何が可能になるか、という視点が不可欠です。IBMは、こうした混乱と複雑さを乗り越え、表面的な修正ではなく、本質的な競争優位性を築く道筋を「Smarter Businessの創造」と呼んでいます。

「Smarter Business」とは何か?

 Smarter Businessとは、ビジネスに不可欠なシステム全体に、AIによる知性を的確かつ深く、効果的に統合することで、以下の3つの状態を実現したビジネスを指します。

  1. より効率的に (More efficient): コストを最適化し、より少ないリソースでより多くの成果を上げ、生産性を向上させます。
  2. より俊敏に (More agile): 市場や環境の変化に迅速に適応し、持続可能な成長を推進します。
  3. より革新的に (More innovative): 競合他社を凌駕するスピードで進化し、優れたパフォーマンスを発揮します。

 これは単なる理論ではありません。IBMはすでに世界中の多様な業界で、何千もの組織がSmarter Businessへと変革するのを支援しています。例えば、顧客サービスや人事部門では、AI搭載エージェントが問い合わせの90%以上を処理し、チームを反復作業から解放しました。また、調達、サプライチェーン、財務の分野では、従業員の生産性が最大40%向上したという報告もあります。

Smarter Businessを実現するための4つのアプローチ

 では、どうすればSmarter Businessを実現できるのでしょうか。IBMは、AIの潜在能力を最大限に引き出すためには、中核となるシステム、ワークフロー、プロセスを以下の4つの側面から変革する体系的なアプローチが必要だと説明しています。

1. AIエージェントによる生産性の向上

 ここで言う「エージェント」とは、単に質問に答えるチャットボットとは一線を画します。利用可能なツールを自ら組み合わせてワークフローを設計し、自律的にタスクを実行するシステムを指します。これまでのソフトウェアが事前に定義されたアルゴリズムしか実行できなかったのに対し、AIエージェントはユーザーが定義した目標を達成するための方法を自ら探索し、提案します。

 この能力を最大限に発揮させる鍵は、既存のアプリケーション、データ、モデルとの統合です。これにより、複雑な業務プロセスを自動化し、価値創出までの時間を大幅に短縮できます。

2. エンタープライズデータの価値を最大化する

 AIが真の戦略的資産となるのは、自社のエンタープライズデータによって駆動されるときです。Smarter Businessは、社内に散在する構造化データ(数値データなど)と非構造化データ(テキスト、音声など)を、それらがどこに保存されているかに関わらず統合します。この統合されたデータ基盤があって初めて、AIはビジネスに深く関連した洞察やアクションを提供し、他社にはない競争優位性を生み出すことができるのです。

3. ハイブリッドクラウドであらゆる環境を横断して機能させる

 AIの活用が試験的な段階から本格的な生産段階へと移行するにつれて、それを支える適切なITアーキテクチャが不可欠になります。Smarter Businessは、データがどこにあってもAIがそこで稼働できるハイブリッドクラウド環境を設計します。これにより、インフラストラクチャをパフォーマンスと柔軟性の観点から最適化できます。

 なお、ハイブリッドクラウドとは、自社で保有するオンプレミス環境と、パブリッククラウドサービスを組み合わせて利用する形態のことです。セキュリティ上重要なデータは手元に置きつつ、大量の計算処理が必要なAIモデルの学習はクラウドで行うなど、両者の長所を活かすことができます。

4. 自動化によってあらゆる技術投資をさらに活用する

 Smarter Businessは、新しいツールを次々と追加してコストを増やすのではなく、AIを活用して技術管理と運用を合理化します。これにより、可視性、効率性、セキュリティ、そして回復力を高めます。すでに保有しているシステムからより多くの価値を引き出し、すべてが連携してより良く機能することに焦点を当てます。

まとめ

 本稿では、IBMの記事を基に、AIをビジネスに深く統合し、効率性、俊敏性、革新性を飛躍的に高める「Smarter Business」という概念と、その実現に向けた4つの具体的なアプローチを解説しました。

 重要なのは、AIを単なるツールとして部分的に導入するのではなく、ビジネスのやり方そのものを変えるという視点です。そのためには、AIエージェントの活用、社内データの統合、柔軟なハイブリッドクラウド基盤、そして自動化による既存システムの最適化が不可欠となります。

 AIの導入はもはや通過点に過ぎません。その先にある、AIを真の競争力に変えるための体系的なアプローチを、ぜひご検討ください。

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