はじめに
本稿では、近年の人工知能(AI)技術の急速な発展が、これまでにない規模と速さで新たな富を生み出している現状について解説します。AIスタートアップから生まれる新しい億万長者(ビリオネア)たちの動向や、それが経済・社会に与える影響を、掘り下げていきます。
参考記事
- タイトル: AI is creating new billionaires at a record pace
- 著者: Robert Frank
- 発行元: CNBC
- 発行日: 2025年8月10日
- URL: https://www.cnbc.com/2025/08/10/ai-artificial-intelligence-billionaires-wealth.html
要点
- 人工知能(AI)ブームは、歴史上でも類を見ない規模と速度で富を創出している。
- 多数のAIスタートアップが巨額の資金調達に成功し、「ユニコーン企業」となり、創業者や初期の従業員を新たな億万長者へと押し上げている。
- 創出された富の多くは未公開株式という形だが、セカンダリー市場の活発化やM&Aにより、現金化の動きも進んでいる。
- この巨大な富の誕生は、ウェルスマネジメント(富裕層向け資産管理)業界に新たな機会をもたらす一方、AI富裕層自身が業界の変革者となる可能性も秘めている。
詳細解説
AIがもたらす、かつてない規模の富の創出
現在、AI分野では爆発的な成長が起きています。参考記事によると、評価額が10億ドル(約1500億円 ※1ドル150円換算)を超える未上場のスタートアップ、いわゆる「ユニコーン企業」は、AI分野だけで498社にのぼり、その合計価値は2.7兆ドル(約405兆円)にも達するとされています。驚くべきことに、そのうち100社は2023年以降に設立された新しい企業です。
この現象について、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者アンドリュー・マカフィー氏は、「過去100年以上のデータを見ても、これほどの規模と速さで富が生まれた例はない」と指摘しており、ドットコムバブルなど過去の技術革新の波を上回る規模であることを示唆しています。
新たな億万長者(ビリオネア)たちの誕生
このAIブームの中心で、多くの新しい億万長者が生まれています。例えば、以下のような企業がその代表例です。
- Anthropic(アンソロピック): OpenAIの元メンバーが設立した企業で、AIの安全性に重点を置いています。CEOのダリオ・アモデイ氏をはじめとする7人の創業者は、巨額の資金調達により、それぞれが数十億ドル規模の資産を持つ億万長者になったと見られています。
- OpenAI(オープンエーアイ): 日本でも「ChatGPT」で広く知られるAI研究開発企業です。従業員向けの株式売却(セカンダリーセール)が計画されており、その際の評価額は5000億ドル(約75兆円)に達する可能性が報じられています。これにより、多くの従業員が莫大な資産を手にすると考えられます。
- Anysphere(エニースフィア): 25歳の創業者マイケル・トゥルーエル氏が率いるスタートアップで、設立後わずかな期間で評価額が急騰し、彼もまた億万長者の仲間入りを果たしたと見られています。
これらの富の多くは、まだ上場していない企業の株式、いわゆる「ペーパーマリオ(含み資産)」です。しかし、ドットコムバブル期とは異なり、現代では未公開株を売買する「セカンダリー市場」が発達しています。これにより、創業者や従業員は会社が上場する前でも、保有する株式を売却して現金(流動性)を得ることが可能になっています。
富の集中とウェルスマネジメント業界への影響
このAIによる富の創出は、地理的にサンフランシスコのベイエリアに著しく集中しているという特徴があります。その結果、現地の不動産価格が高騰するなど、地域経済にも大きな影響を与えています。
そして、この新たに生まれた巨大な富は、ウェルスマネジメント(富裕層向け資産管理サービス)業界にとって、大きなビジネスチャンスとなります。しかし、AIによって富を築いた人々は、従来の富裕層とは異なる行動をとる可能性があります。
記事によると、彼らは当初、自分たちの専門分野であるテクノロジー企業に再投資する傾向が強いと予測されています。また、彼ら自身が持つ技術や破壊的な思考をもって、旧来の金融業界を刷新しようと試みるかもしれません。
とはいえ、最終的には税金、相続、資産の多様化、社会貢献(フィランソロピー)といった複雑な課題に直面し、専門的なウェルスマネジメントサービスの必要性を認識するようになるだろう、と記事は結論づけています。ドットコムバブルで富を築いた人々がたどった道筋と同様の傾向を、AI時代の富裕層も示すだろうと予測されているのです。
まとめ
本稿では、CNBCの記事を元に、AI技術が記録的な速さで新たな富と億万長者を生み出している現状を解説しました。この動きは、単に一部の起業家が成功したという話に留まりません。富の創出スピード、その規模、そして富が集中する地域の経済への影響など、社会や経済の構造そのものに変化をもたらす大きなうねりであると言えます。
AIによって生まれた富裕層が、今後その資産をどのように活用し、社会にどのような影響を与えていくのか。彼らが投資家として、あるいは新たなサービスの創造者として、次のイノベーションを牽引していくことは間違いありません。この米国の動向は、今後の日本経済や私たちの働き方にも無関係ではなく、注目していくべき重要なテーマです。