はじめに
本稿では、Googleの公式ブログに掲載された記事「New in Gemini Code Assist: Agent Mode and IDE enhancements」をもとに、Googleが提供するAIコーディングアシスタント「Gemini Code Assist」に最近追加された新機能について詳しく解説します。特に、開発者の新たな「相棒」となり得る「エージェントモード」と、日々の開発作業を快適にするIDE(統合開発環境)の機能強化に焦点を当てます。
参考記事
- タイトル: New in Gemini Code Assist: Agent Mode and IDE enhancements
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2025年7月17日
- URL: https://blog.google/technology/developers/gemini-code-assist-updates-july-2025/
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要点
- Gemini Code Assistに、コードベース全体を理解し、複数ファイルにまたがる複雑なタスクを自動で計画・実行する「エージェントモード」が新登場した。
- エージェントモードは、単一の指示(プロンプト)で、新機能の実装や大規模なリファクタリングといった高度な開発タスクを代行できる。
- 開発者はAIが提案する変更計画を確認・承認でき、常に主導権を握れる安全な設計である。
- IDE連携が強化され、AIが分析する範囲の制御やチャットの操作性が向上し、開発フローがよりスムーズになった。
詳細解説
そもそも「Gemini Code Assist」とは?
まず前提として、Gemini Code Assistがどのようなツールかを簡単にご紹介します。これは、Googleが開発したAI搭載のプログラミング支援ツールです。Visual Studio Code (VS Code) やJetBrains社のIDE(IntelliJ IDEAなど)といった、多くの開発者が利用するエディタに拡張機能としてインストールすることで利用できます。
主な機能は、コードの自動補完や、コメントからコードを生成したり、コードの説明やレビュー、バグの修正案を提示したりと多岐にわたります。これまでのAIコーディング支援ツールも非常に便利でしたが、今回のアップデートは、その能力をさらに別次元へと引き上げるものです。
新機能の目玉「エージェントモード」とは?
今回のアップデートで最も注目すべき機能が「エージェントモード」です。これは、単なるアシスタントではなく、開発者の「AIペアプログラマー(相棒)」として機能します。

プロジェクト全体を理解する能力
従来のAIアシスタントの多くは、現在開いているファイルや、与えられた短い文脈(コンテキスト)に基づいてコードを提案していました。しかし、エージェントモードの最大の特徴は、プロジェクトのコードベース全体を分析・理解する点にあります。
具体的には、アプリケーションの構造(アーキテクチャ)、ライブラリ間の依存関係、既存のコーディングスタイル、各コンポーネントの関連性までを把握します。これにより、一部分だけを見て提案するのではなく、プロジェクト全体として一貫性のある、質の高いコードを生成できるのです。
複雑なタスクを一つの指示で実行
プロジェクト全体を理解できるため、エージェントモードはこれまで手作業では時間のかかっていた、複数のファイルにまたがる複雑なタスクを、たった一つの指示(プロンプト)で実行できます。
例えば、以下のようなタスクを任せることが可能です。
- 大規模なリファクタリング: 「プロジェクト内の全てのAPIエンドポイントを、新しい認証方式を使うように更新して」
- 新機能の実装: 「ユーザー設定ページを、データベースから画面表示まで含めて新しく追加して」
- ライブラリの更新: 「Aというライブラリを最新版に更新して、それに伴って発生するすべてのエラーを修正して」
これらは通常、開発者が多くのファイルを一つひとつ修正する必要がある大変な作業ですが、エージェントモードはこれを自動で計画し、実行しようとします。
人間が主導権を握る「協調プロセス」
「AIが勝手にコードを書き換えてしまうのは怖い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、その点は非常によく考えられています。エージェントモードは、決して独断でコードを修正しません。
- 計画の提示: まず、AIは実行しようとしている変更の全体像を「計画」として開発者に提示します。どのファイルを、どのように変更するのかが具体的に示されます。
- レビューと承認: 開発者はその計画をレビューし、内容を承認したり、却下したり、あるいは「この方法ではなく、別のアプローチで試してほしい」と修正を依頼したりできます。
- 実行とロールバック: 開発者が承認して初めて、AIはコードの変更を実行します。さらに、万が一変更を適用した後に問題が見つかっても、「チェックポイント」機能によって変更前の状態に簡単かつ安全に戻すことができます。
このように、AIの強力な実行力と、人間の専門知識や設計思想を組み合わせることで、安全かつ効率的に開発を進めることができるのです。
さらに便利になったIDEの機能強化
エージェントモードに加え、日々の開発体験を向上させるためのIDE機能強化も行われました。
より正確なコンテキスト(文脈)制御
AIに正確な回答をさせるには、適切な情報(コンテキスト)を与えることが重要です。今回のアップデートでは、このコンテキストをより細かく制御できるようになりました。
- .gitignoreの自動認識: Gitでバージョン管理から除外されているファイルを、AIも自動で無視するようになりました。
- .aiexcludeファイルの導入: .gitignoreとは別に、AIの分析対象から外したいファイル(例えば、機密情報を含むファイルや、古くて参照してほしくないコードなど)を独自に指定できるようになりました。
- チャット対象の限定: チャットで質問する際に、特定のコード範囲や、ターミナルのエラー出力だけを対象として質問できるようになり、より精度の高い回答を得られるようになりました。
直感的でスムーズなチャット体験
チャットUIも改善され、思考を中断させない工夫が凝らされています。
- コードプレビュー: AIが提案するコードが、見やすいプレビューブロックで表示されるようになりました。
- ファイルへのリンク: チャット内で言及されたファイル名がクリック可能なリンクになり、瞬時にエディタで該当ファイルを開けます。
- 操作性の向上: 長い応答が生成される際の自動スクロール機能や、不要な応答を途中で停止できる機能が追加され、ストレスなく利用できるようになりました。
まとめ
今回のGemini Code Assistのアップデート、特に「エージェントモード」の登場は、AIによるソフトウェア開発支援が新たなステージに入ったことを象徴しています。
これは、単にコードを書く作業を自動化するだけでなく、プロジェクト全体を俯瞰して複雑なタスクを計画・実行する「AIエージェント」という新しい開発スタイルの幕開けと言えるでしょう。開発者は、このような強力なツールを「相棒」として使いこなすことで、面倒な作業から解放され、より本質的で創造的な問題解決に集中できるようになります。
Gemini Code Assistは個人であれば無料で試すことができます。ぜひこの機会に、未来の開発体験に触れてみてはいかがでしょうか。